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ノクス・トラジェディー  作者: 桜 hiro
二章 『桜の元に集まる少年少女』
12/16

嵐前の静けさ

ストックなくて頭抱えてましたがなんか溜まりました()

 初日の征鬼軍(せいきぐん)訓練校の授業が終わり、HRとなった秋夜(しゅうや)達は、所用で外れると言って不在の美沙希(みさき)が戻るのを待っていた。

 しかし、無駄に力強く戸が引かれ教室に入って来たのは秋夜以外は見覚えのない少女であった。

 見覚えのある……否、見飽きたと形容すべきか。

 とにかく秋夜は、その少女を見るやいなや深くため息をつくのだった。

 派手な金に染め、首筋まで伸ばした髪を後ろで束ねた右が翠緑、左が真紅の瞳の少女は秋夜と視線が合い口角を吊り上げたのだった。

 目つきからして、仲の良さが伺えるわけもなく。

 周囲を睨むかのようなその視線はただただ侮蔑のみを現していた。



「よォ、風魔(ふうま)家の出来損ない。

 春朝(はるとも)に頼って作って貰った首飾りは気に入ったか?

 アイツもキメェよなぁ、弟の為に無属性の各呪術に対応した呪装具を作っちまうなんてよ!!」



 開口一番に自身と兄への(あざけ)りを飛ばすその少女に、秋夜は眉を顰めて溜息を吐き出した。



「なんだ、仕事をサボって俺を馬鹿にしに来たのか夕夏(ゆうか)

 俺は風魔の家との会話は禁止されてるんだが知らないのか?」



「あ? んだァ、その似合いもしねぇ口調は?

 無理して背伸びすんなよダッセェ……『僕』の方がおめェにゃお似合いさ!!」



 乱雑な口調には品性など存在しなく、その可愛らしい容姿すらも損ねてしまっている。

 夕夏と呼ばれた少女はポケットから何かを取り出す。



「つうか姉であるアタシに対してなんだ……その口調は?

 もっと、敬いを見せろってんだ……なァ!!」



 言いながら、夕夏は秋夜に取り出した何かを投げつける。

 弾丸の速さで迫るソレを小石だと視認した秋夜は慌ててその小石を捕捉し、『消えろ』と念じる。

 秋夜にぶつかる寸前に、その石の姿は消え去った。

 秋夜が何を使ったのたのか、家族であるからこそ知っている彼女はさらに嘲りを深めた笑顔を見せるのだった。



「あーあ、使ったなぁ消滅の禁呪(きんじゅ)をよォ!!

 これでテメェは、何も使えなくなったワケだなぁ!!」



 すると、懐から小瓶を取り出す夕夏。

 その小瓶には、謎の禍々しさを放つミニチュアサイズのサーベルが入っていた。

 彼女がその小瓶のコルクを抜くと、瓶から刀と同等程のサイズでとなったサーベルが現れ、夕夏がサーベルの柄を握る。

 そして自慢げにそのサーベルを生徒達に見せながら、秋夜に語りかける。



「どうだ、スゲェだろ?

 春朝にこの小瓶を無理やり作らせたんだ、おかげでいちいち腰に武器を装備しとくなんてダッセェ真似しなくて済むぜ!!

 さァて……1年弱か、春朝とオヤジにお前を取られて虐めれなくなったのは。

 ───────久々に虐めてやんよシューヤ!!」



「そんなだから、姉でも敬いたくなんてないんだよ……!!」



 言いながら彼女はサーベルを振り上げながら、秋夜へと走り出す。

 今の秋夜には武器など何も無い。

 舌打ちをしながら、席を立ち後ろ足を伸ばしながら背筋を伸ばす。

 合気道の構えだとすぐに分かった夕夏は再度、秋夜を笑うのだった。



「ハッ、そんなもん意味ねぇよ、この武器がありゃなぁ!!!!」



「我が魂を装い帯びよ──────暴鬼の……!!」



 サーベルが青く、赤く煌めく。

 生命の輝き、怨念の煌めきと言える其の光はたちまち夕夏へと宿る。

 何か、摩訶不思議な力が発動する。

 秋夜は瞬時に判断し、重傷を覚悟する。

 いつも、この姉にされてきた事だからかこのままだとそうなるとは容易に想像が出来た。

 多少、兄と父に鍛えてもらっていたとは言え焼け石に水であると十分に理解してしまっている禁呪はもう発動出来ない……というより、人に発動させる事など秋夜はしたく無かった。

 それが例え、昔から自身を半殺し手前にしてきた姉であろうとも。

 まだそんな甘さがある事に秋夜自身、苛立ちを覚えるのだった。



(ムカつくけどココは夕夏になされるがままにされるしかないか……!?)



 そして夕夏が名を紡ぐ───────寸前に、衝撃音が教室を包む。

 あまりの大きさに、夕夏はビクリと身体を痙攣させ音のした入口へと振り返った。

 教室の扉は割れてしまっている。

 その扉の傍らには深く眉を顰め、腕を組んでいる美沙希の姿があった。



「この学び舎で何をしている? 風魔夕夏(ふうまゆうか)曹長(そうちょう)



 圧のある声に思わず、夕夏はサーベルの力を行使することを中断し彼女へと刀身を向ける。

 教室の入口付近にいた美紗希の、酷く冷たいその視線に夕夏は恐怖で口元が引き攣らせる。

 しかし、よこめに秋夜の姿が視界に移ると彼女は自然と虚勢を張ってしまうのだった。



「さ、齋藤美紗希(さいとうみさき)……!? な、なんだよ……アタシは、フツーの曹長ってだけじゃねぇぞ!

 ここにいる、獣隷隊(じゅうれいたい)の管理者だ、アタシのこの風魔の血筋も相まって実質、アンタより立場は上なんだ───────」



「知ったことか。それよりも、その剣は征鬼軍の機密事項だ。

 ソレ無視してを公の場で晒し、挙句には虐める目的で弟に斬り掛かろうととするなど愚の骨頂。

 ……此度(こたび)の蛮行を見逃して欲しければソレを仕舞いなさい、直ちに」



 (れん)にすら見せていないその冷徹な語気に、秋夜は思わず固唾を飲んだ。

 過去に無謀とも、蛮勇とも呼べる行動を起こして見せた秋夜に恐怖を与えることが出来る。

 それだけの気迫を、彼女は放っていたのだった。

 夕夏は震える脚を一歩、後ろへと動かす。

 もう7割ほどは恐怖に呑まれてしまっている。

 しかし───────彼女は、非常に短慮である。

 短慮であるし、怒りに素直であった。

 数ある彼女の欠点でも、それは最上位に位置する程には。



「ハ、上司に向かって……生意気言いやがって!!

 言うことなんざ聞くわけねぇだろうが、まずはテメェのその口を閉ざしてやるよ!!」



 そして、見事愚かな選択肢である反抗をするのだった。

 恐怖のあまり、選択を間違えた?

 否、彼女は確かに怯えている。しかし、恐怖のあまり愚行を犯したのでは無い。

 天性の気性難。

 見下されて、腹が立ったから多少は怖い相手に突っ掛る。

 それが、風魔 夕夏という女だ。

 刃を向けられた美沙希は思わず溜息を吐き出しながら、しかしこの場に煉が不在なのは良かったと何故か、安堵しながら。



「憂鬱だ……なぜ、風魔蒼龍(ふうまそうりゅう)様は貴方にソレを与えたのだろうか。

 それならば、長兄の春朝くんの方がよっぽど相応しかっただろうに」



 そう、夕夏に聞こえるように呟く。

 撒き餌でもある美沙希の言葉に、見事に食いついた夕夏はわなわなとサーベルを揺らし───────



「ざけんな……アタシは、アイツよりも強いんだ!!

 それをなんだ? どいつもこいつも劣ってるだのばっかり言いやがってぇ!!!!

 もういい……テメェなんざブチ殺してやるよ斎藤美沙希……!!」



 怒声を放ち、怒髪天を美沙希にぶつける。

 そして再度、夕夏はサーベルに命じ始めた。



「我が魂装いて帯びよ……受け継がれし暴鬼の直系よ!!

 3代目……星熊童子(ほしぐまどうじ)!!」



 命令を授かったサーベルは再度、蒼紅に煌めきその真の姿を現す。

 サーベルだったモノは大剣……クレイモアへと姿を変えた。

 その一方で、美沙希は表情ひとつ変えずに。



「“受難” “古墳の壁画”」



 酷く冷静に呪術の詠唱を、を始めるのだった。

 夕夏は大剣を両手持ちに切り替えて、美沙希へと標的を変えて、駆け出す。



「謝っても許してやらねぇ……教師なんて腐るほぉ替えが効くんだ……そのままテメェをブッ殺してやるよ!!!!」



 瞳は殺意で埋め尽くされていた。

 しかしその殺意まみれの瞳を見ても、美沙希は動じず詠唱に集中する。



「“太微垣(たいびえん)” ”炎帝“ “魂讚星(たまぼめほし)

『朱雀の伍───────(ほむら)浴衣(ゆかた)』」



 夕夏がクレイモアを振り上げ、振り下ろされる直前に美紗希の詠唱は終わる。

 終わると同時に、彼女の身体から焔が現れ、まるで浴衣のように美沙希の体を包む。

 そして美沙希は、敢えて振り下ろされるクレイモアの刀身を掴むのだった。

 掴みに来た事に夕夏は驚くも、すぐに笑みを浮かべ彼女を愚弄するのだった。



「バーカ、この武器の特徴をお前は知ってんだろ!?

 鬼の魂に刻まれた事象の具現化……それがこの魂装具(こんそうぐ)の特徴だ!!

 アタシの3代目星熊の魂に刻まれたモンは───────」



「“帯びる”───────その能力は刀身に触れた呪いの属性を帯び、反映させる。

 私の属性は火なので、貴女の刀身には炎が反映される、ですよね?」



 しかし、美沙希は至って冷静に応える。

 何処か不気味。そう本能で悟った夕夏だったがすぐに強気な仮面を被り、虚勢を張るのだった。

 そのまま、力任せに振り下ろそうと力を入れ始める。



「───────そうだ、そのままテメェの事を焼き殺して…………!!」



「フフッ……今更ですが、貴女の気持ちが何となくわかりました」



「は……っ、あ?」



 だが、次こそ仮面が外れ感情も剥き出しとなった。

 それにより夕夏の身体の力が抜けたのを見逃さずに、クレイモアごと後ろへ押し返した後に淡々とした様子で美沙希が話し始めた。



「いえ、貴女がなぜこのような暴挙に出たのか気になったので覚えている経歴を掘り起こして整理していたのです。

 そこから、貴女の今回の行動を起こした感情が分かるかと思いましたので」



「ンな、っ……!?」



 後ろへ押し返された夕夏は、背後にある教卓にぶつかり一度に2つの衝撃を受ける。

 そんな夕夏など、美沙希は気にすることなく言葉を続けた。



「風魔夕夏曹長。

 風魔春朝中尉の双子の妹で、今年より征鬼軍(せいきぐん)獣隷隊(じゅうれいたい)指揮官を務めることとなった。

 しかし、訓練校での成績は基本的に中位か下位であったと記憶してます。

 あぁ……ですが戦闘面ではいつも上位にいてましたね。それでも春朝中尉には劣っていますが」



「テメェ……ッ!!」



「呪術属性は火ですが……使用した記録はなし。

 つまりは、貴方は未だに呪術を会得することが出来ていないということ。」



「止めろッ、それ以上言うな───────!!」



 夕夏は再び、クレイモアを振り上げながら美紗希に向かって駆け出す。

 暴かれる自身の真の姿に焦燥し、肝心な炎の存在を忘れてしまっていた。

 学のなく、駆け引きもない単調な攻撃に、美紗希は呆れて溜息をこぼすのだった。



(春朝中尉なら焦燥する中でも、炎を放てる事を忘れる事は無かったと思うが……まぁこれが彼女の実力ということだろう)



 振り下ろされたその一撃を、美紗希は再び難なく受け止めた。

 会心の一撃のつもりであった夕夏は驚きで目を丸め、直ぐに引き抜こうとするが美紗希の手から刀身は離れることは無かった。



「なんだ……まさか、呪術による身体の強化か……!?

 そうだ、じゃねぇと鬼の血が混ざってるアタシの力が通用しないわけ……いや、でも流石にこれは可笑しいだろ……!?」



「貴女は、嫉妬しているのでしょう?

 兄の春朝中尉には勿論ですが……今まで自身よりも弱かった秋夜君にまで禁呪が、それもその中でも最も珍しい禁呪を宿している事実を受けて、貴女は嫉妬に狂った。

 更にはタイミング悪く、その剣をお情けで貰ったことで貴女のプライドはズタズタになったんでしょう?

 なぜなら、それは正に自身が弟より劣っているという事実を突きつけられるようなものだから」



 夕夏の戸惑いを無視しながら、美沙希は暴き続ける。

 その虚勢の裏側を、淡々と冷酷に。

 その口撃は、確実に夕夏を追い詰めているのだった。



「そして、そんなところに今日、獣隷隊(じゅうれいたい)の指揮官就任の式がある。

 就任式はこの訓練校で行われる。いつもは別の会場のハズですが……お父上の計らいでしょうかね?

 それにつけ込んで貴女はわざわざここへと趣き、秋夜君に力を見せつけようとしたんでしょう」



「違う……ッ!! アタシは落ちこぼれじゃない……っ! コイツに……シューヤに嫉妬なんてしてない!!

 げ、現にこの役職はアタシの戦績が優秀だからなれて───────!!」



「嘘。お言葉ですか貴女の戦績も把握済です。

 貴女の隊は卒業してわずか2ヶ月で同伴隊含めて全滅しています。

 ……噂程度ですが、貴女の独断専行により陣形が崩れて全滅、と聞いております。

 最低でも5年もの間、戦場に赴いた方々でなければその権利を有することの出来ないベテランである同伴隊すらも全滅させたのだから、相当無茶な動きをしたのでは?」



「───────ち、ちが」



 この口撃は間違いなく効いている。

 それを証明し、確信を与えさせてくれる弱々しい態度の少女に美紗希は無慈悲に言葉を続けた。



「そして、その無様な結果を聞いたお父様の蒼龍氏が呆れて戦場から切り離すために洗脳済みの鬼達の指揮官を務めさせたのでしょう?

 獣隷隊(じゅうれいたい)は、鬼達を赤子の頃から洗脳させて育て、万一に反抗しないように首輪型の爆弾を装着させた隊です。

 鍛え抜かれた彼等には、指揮なんてもの実際には不要でしょう。

 つまり貴女は邪魔であるから、どうでもいい役職に放り込まれただけです」



「な、ならこの武器を授けてくれた理由はなんだよ!?

 アタシが無能ってんならこんなの、預けるわけねぇだろうが!!」



「えぇ、その武器の情報漏洩は固く禁止されている。

 そんな大事な物を貴女に渡したのは先程も申した通りのお情けでは?

 さすがにそれくらいは情報を漏らさないという事くらいは護れると思ってしまった、蒼龍氏の貴女に対する優しさが招いたミスでしょう。

 ───────そして見事に、貴女は無駄にしてしまったのですけれど」



 一歩、美沙希が歩く。

 それに反応して、怯えるように夕夏が一歩下がる。

 顔には明らかな焦燥と憔悴が浮かび上がっており、少女の脳内ではどうするかを懸命に絞り出していた。

 どうするか、どうやって美紗希の口を閉じさすことが出来るのかを懸命に苦悩する。

 先程の最終勧告すらも忘れてしまっている。

 目の焦点は完全に合っていない。

 当然だ、プライドは破壊された挙句に弱みを握られている。それに加えて相手は何故か自身より強力な相手である。

 彼女の脳内は困惑と苦悩、恥辱と屈辱で埋め尽くされていた。



(あの呪術……身体能力の強化と炎属性の付与か!? にしても強化の幅がデカすぎるだろ……!?

 アタシだってシューヤと同じ鬼と人のハーフだ、自慢じゃねぇが身体能力はそこらの人間よりも遥かに優れている!!

 更にはこの魂装具(こんそうぐ)の効果で身体能力も上がっているのに……なんで、なんで!?)



 その反面、美紗希は至って冷静に彼女を測り尽くしていた。

 そして、先程と同様に剣を押し返した。

 虚をつかれた夕夏はバランスを崩し、無様に床へと尻もちを着くのだった。



(呪術は出力によって効果の幅が変わるという事に理解出来ていない様子ですね。

 まぁ、私にとってはプラスに働くので言う義理も無いですが。

 それよりも、さすがに意地を悪く言い過ぎたか?

 いや……彼女も一人の軍人。

 ここは厳しく処罰させることが彼女の成長に繋がるだろう)



「もういいですか? はやく剣を仕舞いなさい。

 降格は免れぬとも、命だけは助かるように私が口添えしますから」



「あぁ……? テメェ、何を偉そうに───────!!」



「今回は見逃してあげるから子供のように駄々を捏ねるのはもう辞めろ、軍人らしく振る舞えと言っているのが分からないの?」



 未だに反抗しようとする夕夏に、美紗希は突き刺すように刺々しい口調で言い放つ。

 その言葉に、夕夏は無言となり、



「…………五月蝿い、五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!!!

 テメェにイチイチ言われる筋合いは無いっての…………ッ!!」



 次の瞬間には激情に駆られ、火山の噴火のように身体を起こし再度、美紗希へと斬りかかるのだった。

 腕を組み、美紗希はもう何度目か分からぬ溜息を吐くと



「憂鬱だ……」



 そんな愚痴をこぼし、振り下ろされた大剣を黒板の方へと殴り飛ばした。

 そして驚きを隠せていない夕夏を余所に、即座に彼女の腕を掴み、そのまま床へと倒して彼女を拘束した。



「なっ……離せっ、離せよ……ッ!!!!!」



「いえ、このまま校長室へ運び今回の件を全て報告します。

 警告を無視したのだから、少しは痛い目を見てもらいます」



 暴れる夕夏の首筋に当て身を食らわし、意識を奪う。

 そのまま、彼女を脇に抱えて美紗希が生徒達に振り向き、



「再度、遅れます。

 貴方たちも大人しく待っていなさい……特に御門(みかど)君と風魔君の二人は」



 と短く言い、教室を出た。

 当然、先程の圧倒的な気迫に気圧された秋夜達は無言でこくこくと頷くしか無かった。



 美沙希が教室を出たその数歩後───────巨大な爆発音と共に校舎全体が揺れ始めた。

 一難去ってまた一難。否、災害。

 そうとも呼べる現象に美沙希は戸惑いながらも事態を推測し始める。



(爆発───────!?

 何事、いや、敵襲!?

 平和主義連合(へいわしゅぎれんごう)

 でも、どうやって侵入した?

 ……いえ、一先ずは生徒の避難を確保しなければ!!)



 踵を返して、数歩先の教室へと美紗希が足を動かす。

 その刹那、彼女の背後の窓が割れる。

 振り返ると、彼女の目の前には両目が紅い、人と同じ姿の獣がいた。

 ───────『鬼』。人々は亜人でもあり獣でもある存在をそう呼称している。



「な、っ…………鬼!?」



(バカな……鬼琉軍(きりゅうぐん)がどうやって東京まで侵入することが出来た!?)



 驚きを隠せず、戸惑っている美紗希に、獣の凶爪が襲来する───────




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 爆発が起き、鬼の襲撃から数分後。

 征鬼軍訓練校の南校舎の2階廊下にて。

 空間に『裂け目』が現れ、そこから煉が出てきた。

 何食わぬ顔でいた煉だったが、周囲を見渡すと割れて床に散らばった窓硝子と、床に転がった血肉袋が複数。

 それに加え、両目が紅く光る獣……鬼が三頭いた。

 奥側には遊ばれているのか、怪我をした訓練生達と、気を失っている教師が固まっていた。



「……なんだ、コレ?」



 震えた、煉の声はその空間に響き鬼達に存在を知らせた。

 振り返り、煉の姿を見た鬼達はニタニタと笑みを浮かべていた。

 下卑た笑みを浮かべながら、何も知らない間抜けな、呆けた獲物がいると鬼達は歓喜の声を上げた。



「おい、まだなんも知らねえ餓鬼がいたぞ!!」



「なんだこれって……見てわかんねぇのか? 殺してんだよ、オレたち鬼様が人虫をよォ!!」



「なんだ、訓練でもサボってたらこの場面に出会してブルっちまったのかァ!?

 声もビビっちまってか震えてるし、なっさけねぇよなぁ!!」



 笑い声が、響く。

 それと同時に、「助けて」という声が掻き消される。



 ───────なぜ、彼等は人を遊ぶように殺している?



 そんな疑問が過ぎり、煉は更に声を震わせた。



「テメェら……!!」



 怯えている……否、煉の中にあるのは圧倒的な怒りだった。

 怯えなど、元よりない。

 彼が抱えた怒りは、入学式の時と同じく。

 弱者を理不尽を強いらせ、虐げることしか出来ない、情けのない強者に対して怒りの炎を滾らせていた。

 煉が憤っている事に、鬼達は気付いてすらおらず。



 ───────暴風が吹き荒れるなどと、思いもしていなかったのだった。

魂装具はもう少し後で出したい設定でしたがここで出さないと最終盤にじゃないと明かせない気がしたので。

夕夏ちゃんは調子乗りやすいし口が軽っ軽なのが有難い。

次回は煉君の戦闘メインとなると思います。

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