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9話 王都からの訪問者

「フローラ、お前宛ての手紙だ」

「え、わたしですか?」


 一体誰だろう。

 王都での仕事から1か月ほど経ったある日。パラディス邸のルトガー様の執務室で掃除をしていたわたしにルトガー様が手紙をよこしてきた。派遣悪役令嬢の仕事が無い時はパラディス邸のメイドとして働かせてもらっているの。


「わあ、アンジェラ様からですよ」

「好きに読め」


 手紙の差出人はアンジェラ様だった。

 あれから二人はマルレーン夫人と話し合ったみたいだ。王都にあるクレーデル家のお屋敷は人に貸し出して、ヨハン様とマルレーン夫人はバースへ移り住むことになったそうだ。ヨハン様はバースでアンジェラ様のお父上の仕事を手伝うことになったみたい。


「ルトガー様、二人は来月にも結婚することになったみたいですよ! 素敵!」

「アンジェラ嬢が王都にいると聞いたときはどうなるかと思ったが、どうやら丸く収まったようだな」

「あはは、確かにあのときは驚きました。でもそれで良かったと思います」

「良かった?」

「だってあの時アンジェラ様が王都に来なければもしかしたら二人は本当に婚約を解消してしまっていたかもしれないじゃないですか。せっかく両想いなのに。だから二人がちゃんと結ばれて良かったなあって」

「…………」

 ルトガー様は呆れたように目を細めて紅茶に口をつけた。能天気な女だなあと思われてるのかもしれない。


「……まあ、今回はお前もよくやった」

「え」


 めずらしく褒められた。

 変わらない表情のまま書類に目を落としているルトガー様を見つめてわたしはぽかんと間抜けな顔をしていた。だって叱られたりお説教されることはあっても褒められることなんてほぼないからね。

 そのとき扉がノックされて執事のバルタザールさんがやって来た。


「ルトガー様、シェーンハイト様がいらっしゃいました」

「わかった、この書類が終わったらすぐに行く。応接間に通しておけ」

「かしこまりました」


 わたしも大体掃除が終わったところだし仕事の邪魔になるといけないから執務室を退室した。ルトガー様は王都で働いているお父上に代わってパラディス領内の仕事をしている。パラディス商会とは2足のわらじってやつね。もしくはダブルワーク?

 大体いつも眉間にしわを寄せて不機嫌そうな顔をしているけど、別に機嫌が悪いわけじゃなくてもともとそういう顔だと気づいたのはつい最近だ。まあ、怖いことには変わりないけど。

 だから最近はルトガー様との会話もそんなに緊張せずに済んでいる。

 モップを持って廊下を歩いていたら先に退室したバルタザールさんがお客様を伴って歩いてきた。わたしはさっと廊下の隅に寄って頭を下げる。

 ……え? あの人。

 柔らかな金髪の長身の男性。

 この人見たことある。わたしには気づいてない様子だったけど、間違いない。

 王都で強盗に遭ったときに助けてくれた人だ!





「え、王都で助けてくれた人?」

「そうなの。ルトガー様とはどういう関係なのかは聞けなかったけど」


 仕事が終わってパラディス商会の休憩室に戻るとちょうどロッティが買い物から帰ってきたところだった。

 シェーンハイト様と言っていたっけ。まさかこんなところで会うとは思わなかったから驚いた。ロッティも目を丸くして山盛りの野菜をキッチンに置いた。


「似た人じゃなくて?」

「絶対本物だよ。間近で見たもの」


 向こうは気づいてないようだったけどね。あのときは令嬢の恰好をしていたから、今の使用人姿のわたしを見てわからないのは無理もない。だけどこちらはあの天使と見紛うばかりの美形を見間違うはずがない。


「社長とどういう関係だろう」

「さあ……」


 それはわたしも気になった。ただシェーンハイト様も身に着けている物や雰囲気から身分の高い人だと思う。だからパラディス家と関わりがある家の人なのだろう。

 ロッティは少し考えこむように顎に手を当てた。


「偶然じゃない……と思う。だって出来過ぎてる」

「まあ、確かにね」

「あの広い王都で助けてくれた人が偶然ここにやって来るなんて」

「へーえ、それってイケメン?」

「アンナ」

「おかえり、お疲れ様ー」


 わたしとロッティが話していたらアンナが帰ってきた。今日は次の仕事の打ち合わせに出かけていたみたい。高い場所で括っていた黒髪をさらりと下ろす姿だけでも絵になる美女だ。


「ピンチの時に助けてくれた王子様と運命の再会ってやつ? で、どんな人なの?」


 そんなロマンチックな感じじゃ全然無いんだけどなあ。

 楽しそうに聞いてくるアンナにわたしとロッティは一度顔を見合わせた。


「「イケメン」」


 シェーンハイト様は柔らかそうな金髪に端正な顔立ちの美丈夫というやつだと思う。キラキラした青い瞳のまるで天使がそのまま大人になったような姿。さすが王都ともなるとあんな顔の整った人がいるのだなあと感心したくらいだ。

 ルトガー様も整った顔立ちをしているけど、硬質でちょっと冷たい感じというかシェーンハイト様のような柔らかで優しそうな感じとは正反対だ。


「シェーンハイト様って言うらしいんだけど、アンナ知らない?」

「シェーンハイト……? なんだ、あいつか」

「知ってるの?」


 名前を聞いた途端アンナが顔を顰めた。アンナはわたしやロッティよりも先輩だからどうやらシェーンハイト様と面識があるみたい。……だけどあんまり良い印象はないのかな?


「カイル・シェーンハイト。社長の士官学校時代の友人だよ。時々パラディス邸にやって来るし、商会の仕事も手伝うことがあるんだ」

「ルトガー様って友達いるんだ」

「驚くとこそこ?」


 本人に聞かれたら殺されそうなことをつい呟いてロッティから突っ込まれてしまった。

 それにしても二人が友人だということはやっぱりあの時出会ったのは偶然ではないんだな。一体どういうことだったのか聞いてみたいけど……。


「ああ、フローラ殿。こちらでしたか」

「バルタザールさん」


 三人でお茶にしようかと準備していたら執事のバルタザールさんがやってきた。

 本邸からこの商会の建物までは敷地内とはいえ結構な距離があるけれど、初老のバルタザールさんはまったく息も切らさずいつもと変わらない穏やかな調子で言った。


「ルトガー様がお呼びです」


 一体何の用だろう?

ここまでお読みいただきありがとうございました!

少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったらブクマや下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると嬉しいです。

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