15話 古き貴族の血
「――では行ってくる。あまりふらふら出歩くなよ」
「わかってます。いってらっしゃいませ、ルトガー様」
午後からルトガー様は伯爵代理としての仕事が溜まっているらしくフェティス邸から出かけて行った。相変わらず心配性だ。カイル様も今日の夜遅くならないと仕事で来られないらしいから今日は面会も無いし周囲に正体がばれても困るから部屋で一日過ごすことになっている。することが何もないとそれはそれでもどかしいけど。
アリアナ嬢の部屋の前にはカイル様が派遣してくれた騎士様が常時警備中だ。というのも、先日フェティス邸内に出入りしている業者の一人がアストラの関係者だということがわかって捕まったからだ。わたしの素性がばれたのも、おそらくそのせいだろう。
「お疲れ様です」
「いえ、ありがとうございます」
アリアナ嬢の部屋の前にいたのは騎士のアントンさんだ。ふっくらとして大柄だけど人当たりがよくて穏やかな人だ。今日は彼ともう一人の騎士様が警備してくれているみたい。
「……ロッティ? あ、そうか。買い物だっけ」
一人の室内に入ってソファに腰かける。
大体の物はフェティス家が支給してくれるけど、仕事も長期になると途中で買い出しにも出なきゃいけなくなるんだよね。
特に今回ロッティはイザークの話を聞いてからすごく警戒してくれている。フェティス邸内にアストラの関係者が入り込んでいた話を聞いてからロッティは食事も食材からチェックして部屋も隅々まで気をつけていてくれてるんだ。
でも本当はロッティを一人で外に行かせるのも心配なんだよね。この前の貴族の馬車を狙った強盗とかもたまにあるし。ロッティは自分は貴族じゃないから大丈夫、なんて言ってたけれど。せめてクルトが留守じゃなければ一緒に行ってもらえたのになあ。
「失礼します。お手紙です」
「手紙?」
部屋の扉がノックされてアントンさんの声が聞こえた。
手紙? 大量の面会願いだったら騎士団の方に行くし、アリアナ嬢個人宛のもの?
「招待状……?」
白い封筒の中には小さない紙が一枚。
『君の所のメイドを私の屋敷へ招待しました。貴女のこともお待ちしております』
差出人はイザーク・ルイス・フリーダ。
「これって……!?」
手紙から顔を上げた瞬間わたしは固まった。
ナイフを首元に突き付けられたからだ。
「アントン……さん……?」
「大人しく着いてきてください……」
屋敷に入り込んでいたアストラの関係者は一人じゃなかったんだ。……それにこの手紙の内容ってつまりロッティが攫われたってことじゃない!
部屋の外にはもう一人騎士様が倒れていた。他には誰もいない。助けを呼ぶにもナイフを突きつけられているから声も出せない。
暗い顔をしたアントンさんの言葉にわたしは黙って頷くしかなかった。
「フローラ、突然の招待にもかかわらず来てくれてありがとうございます。とても光栄ですよ」
「イザーク様……」
わたしが連れて行かれたのは貴族たちのタウンハウスが並ぶ地区から少し離れた郊外の小さなお屋敷だった。よく手入れされた庭、そして貴族の屋敷にしては少し小さめの白い壁にダークブラウンの屋根の家が見えた。馬車から降りたわたしをイザークが直々に出迎えに出てきた。
なーにが来てくれてありがとうよ!
「ロッティはどこですか? それにお父さんも」
「落ち着いてくださいフローラ。こうでもしないと君が来てくれないのではないかと不安だったのですよ」
イザークがわたしへと恭しく手を差し出した。
本当は嫌だけど今のわたしに拒否権は無い。しかたなくその手を取ると彼は屋敷の中へと歩き出した。
周囲にはなぜかたくさんの人達がいた。おそらく皆アストラの人間なんだよね。
「ここは私の研究室を兼ねたフリーダ家の別邸です。普段は私しか使っていません」
歩きながらイザークが説明する。
そこまでしてわたしって必要な存在?
わたしは少し前のルトガー様とカイル様との会話を思い出していた。
*****
「わたしの実家……ですか?」
「アストラは古き貴族の血を引く人間が欲しいんだよ。自分達のやっていることに正当性をもたせ、求心力を高めるためにもね」
イザークとの会話の内容をルトガー様とカイル様に正直に話した時のことだ。
カイル様の言葉通り、イザークが欲しいのは古き貴族の血を引く人間なんだろう。バルコニーでイザークから聞いた話からもそれは予想できた。だけどだからってとっくに平民になってるわたしを狙うなんて。
「リンク家は没落前は歴史ある名家だったと聞く」
「予定より少し時間はかかったけどフローラに接触してきた。これは予想通りだったんだよ」
カイル様達騎士団は元々イザークに目をつけていたらしい。ただ決定的な証拠が無く動くことができなかったんだって。そんな時ルトガー様に以前から頼まれて捜索していたわたしの父がその地下組織にいるかもしれないとわかって、わたしを連れてきたんだ。
聖女アリアナと、古き貴族の血を引くらしいわたし、フローラ。どちらにしても地下組織の興味を引くことはできるだろう。
*****
……でも、まさかその騎士団内にもアストラの関係者がいたなんて。
「さあフローラ。こちらへ」
イザークに促されて足を踏み入れたのはパーティー会場みたいだった。着飾った人達もたくさんいる。
これは一体……。
「今日は君のためのパーティーです。ようこそ、アストラへ」
いや地下犯罪組織に入るなんて一言も言ってないし。それに勝手に歓迎パーティー開催しないでよ! イザークの一方的すぎる話にいい加減怒鳴り散らしたい気分だった。
「ロッティとお父さんに会わせてください。話はそれからです」
「そんなに心配しなくても二人は無事ですよ。もちろん貴女の行動次第でどうなるかはわかりませんが」
にっこりとほほ笑んだイザークが冷たい赤い瞳でこちらを見つめる。
「よろしければ一曲」
ここで反発するわけにはいかない。だって父とロッティのことがある。気は進まないけどゆっくりとその手を取った。
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