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14話 ルトガーの想い

「……元々俺がお前に任せた仕事だ。放っておくわけにもいかないだろう」


 ふん、と鼻を鳴らして紅茶に口をつけるルトガー様。この人は口調はきついし雰囲気も怖いし実際怒らせるとめちゃくちゃ怖いけれど、だけど部下想いなんだよね。良い人なんだと思う。わたしみたいな借金に困ってるただの小娘を雇ってくれるくらいには。

 今回の仕事だってわたしのお父さんが絡んでいるから受けてくれたんだろう。

 それなのに今、わたしは秘密を抱えてしまっていて申し訳なくなった。

 お父さんのことを助けるためにここまで来たけど、はたしてわたしに何ができるだろう?


「…………」

「…………」


 そして現在、わたしはルトガー様にイザークに言われたことを黙っているまま二人きりなわけで。

 すっごく、気まずいのだった……。

 ほらほら鋭い眼光がわたしを睨んでいるよ。まるで凄腕の捜査官みたいだ。犯人も一瞬で自白しちゃうね。


「フローラ、目が泳いでいるぞ」

「そ、そんなことは……ありません……」

「お前嘘が下手すぎないか? よくそれで今まで悪役令嬢をやれていたな」


 自分でもそう思います。

 普段はさすがにこんなんじゃないよ。ちゃんと演技してるよ。だけどどうもルトガー様の前だと嘘が上手くつけない。氷のような眼光が全てを見透かしてしまっている気がして……。

 わたしがビビっているとため息をついたルトガー様が紅茶を一口飲んでからこちらにクッキーの皿をよこしてきた。


「とりあえずクッキーでも食べて落ち着け」

「いただきます……」

「今回の仕事がきついのならば、別の者と交代しても構わない」


 あきらかに高級菓子店のものとわかるクッキーをひとつ手に取ったところで動きを止める。思わず顔を上げたわたしをルトガー様は責める様子もなく見つめていた。


「本来、お前は父親が捕らえられているのだから今回の事件の関係者だ。仕事にはどうしたところで私情がはさまる。だから今回の役目はお前を選ぶべきではなかった」

「じゃあどうしてわたしを……。アリアナ嬢に背格好が似ているからですか?」

「それだけではない。フローラ、お前ならばできると俺が判断した。この半年の仕事の実績を鑑みてだ」


 この半年、わたしは借金返済のためわけもわからず悪役令嬢という仕事をしてきた。ルトガー様にはお説教されてばかりだったけれど、一応認めてくれてたということなのかな。

 ルトガー様はわたしのこと信頼してくれていたんだ。そう考えたらなんだか胸の中がムズムズして口が自然とにやけてしまいそうになった。なんだ、わたし嬉しいんだな。ルトガー様に認められたことが。


「だが、俺ももう少し熟考すべきだった。敵の狙いは……」

「わたし、なんですよね」

「……そうだ。イザークに言われたのか」


 わたしはイザークから言われたことをすべてルトガー様に話すことにした。

 だってルトガー様はわたしのことを信頼してくれている。それなのにこのままイザークのことを黙っていたらわたしはルトガー様達を信頼していないってことになる。

 そうだよ、わたしはイザークの言葉なんかよりルトガー様やカイル様……仲間達を信じなくちゃいけなかったんだ。

 わたしは立ち上がって頭を深々と下げた。


「黙っていてすみませんでした。……この役目、最後までわたしにやらせてください!」

「大丈夫なんだな」

「はい」


 念を押すように聞かれてわたしは頷いた。ルトガー様はわたしのことを心配してくれている。見かけよりずっと優しい人だから。せっかくルトガー様がお父さんの行方を掴んでくれたんだ。ちゃんとわたしの手でお父さんを取り戻したい。




 わたしからイザークとの会話内容を聞いたルトガー様はそんなに驚くことはなかった。どうやらカイル様と一緒にイザークのことを調べている時点で予想していたらしい。


「アストラの人達は自分達に都合の良い世界を作りたいんでしょうか」


 我ながら身も蓋もないことを言いながらクッキーを摘まむわたしの向かい側でルトガー様は死ぬほど呆れた顔でテーブルに置いた書類を眺めた。


「血にこだわっている時点で己も選民思想の持ち主だということに気づいているのかいないのか……」

「結局今まで虐げていた側と同じことをするだけですよね」


 イザークはその出自や三男という立場のせいで虐げられていた。そのことに不満を持って現状を変えたいと思っているのだろうけど、やろうとしていることは彼を虐げていた側と同じだ。

 つまり血によって人を区別しようとしている。

 ふむ、とルトガー様が顎に手を当てて何事か考えていた。


「……世を変えたい、という気持ちはわからないでもない。俺も同じだからな」

「え?」

「俺の母も正妻ではなく妾だったからな」


 それは知らなかった。

 あっさりとそう言うルトガー様にこっちがどういう顔をしていいのかわからない。


「パラディス邸の使用人だった。俺の母は父によって屋敷を追い出されたがな」


 その昔パラディス邸で行われた婚約者のお披露目パーティーで使用人だったルトガー様のお母様はパラディス伯爵に切り捨てられてしまったのだという。その時すでにお腹にはルトガー様がいて、生まれてからもしばらくは平民として暮らしていたらしい。

 だけどルトガー様のお母様は若くして亡くなり、パラディス伯爵の正妻には子を産むことができなかった。だから彼はパラディス家に引き取られたのだという。

 なんていうかすごく身勝手な話だ。

 まるで悪役令嬢のように切り捨てられたルトガー様のお母様。わたしみたいに仕事じゃない、本当に好きな人から断罪されるなんてどんな気持ちだったろう。

 そして引き取られたルトガー様はどんな思いでいるのだろう。想像するだけで胸が苦しくなる。


「パラディス伯爵には感謝している。母が亡くなって路頭に迷うところを助けられここまで食うに困ることなく生きることができたのだからな。恩人として、だが」


 本当なら母親を捨てた憎い相手だろうに、それでも彼は父親を利用することを選んだんだ。

 そしてルトガー様はパラディス商会を作った。貴族の色恋沙汰を中心とする揉め事を解決するための人材派遣会社だ。わたしの悪役令嬢もそのひとつ。


「世の中には悪役が必要なこともある。それで揉め事が丸く収まるならそれでいいだろう」


 彼のお母様のように傷つく人をなるべく少なくするために。

 はっきりとは言わないけれどきっとそんな思いで作った会社なのだろうな。初めて仕事内容を聞いたときは唖然としたけれど、今では結構気に入っているんだよ。

 そう伝えたらルトガー様はどんな顔をするかな?

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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