11話 地下組織と偽聖女
「ち、父が捕まっているってどういうことですか? 借金で逃げたんじゃ……」
「お前の父親のことは半年前から調べていた」
「え……」
「黙っていたことは謝る。しかし確証が掴めないままお前達親子に期待を持たせるわけにもいかなかった」
この半年お父さんはずっと行方知れずだったから、もしかしたら生きてないのではなんてことも考えた。だけどまさか地下犯罪組織に捕まっているなんて想像もしてなかった。
思わずルトガー様に詰め寄ったら、意外な答えが返ってきた。
つまりお父さんの行方に関する確実な情報が手に入ったってことだ。だからわたしに教えてくれたんだ。
「一年ほど前、このトビアスにアストラの関係者が出入りしていたようだ。組織の仲間を増やすために人を集められる場所が作りたかったようだ」
「アストラはね、反貴族を掲げながらも中心にいるのはおそらく貴族なんだよ。それも現状あまり優遇されてない立場の」
貴族でも優遇されない立場の人やヨハン様の家のようにお金に困っている貴族、わたしの家のように没落した元貴族。貴族と言っても色々いる。そういう人たちを集めて現在の高位貴族たちに成り代わろうとしているらしい。
……なんていうか、暇なのかな?
「フローラのお父上が声をかけられたのも、もとは貴族だからだろうね。地下組織のことは隠して共同で店を立ち上げないかと持ち掛けたらしいんだ。ただ、途中でお父上はその正体に感づいてしまったんだろう」
「そ、それで捕まってしまったんですか?」
「そういうことになるな」
なんてことだろう。行方不明になっていたお父さんがそんな犯罪に巻き込まれていたなんて。
この半年、お父さんのことはあまり考えないようにいしていた。それよりも目の前の生活で手一杯だったからでもある。とにかくお母さんのためにも借金を返して生活を安定させなくちゃって。
まさかお父さんがそんな出来事に巻き込まれていたなんて思いもしなかった。
「お父さん……」
「フローラ」
乗り出していた身を引いてソファで俯いていると、ルトガー様がまっすぐにこちらを見つめていた。
「できるか」
もしわたしが無理だと言ったらきっとルトガー様は無理強いしないんだろう。
わたしはしっかりと頷いた。
「できます。というか、やらせてください。父を助けないと。……それから、ルトガー様」
「なんだ」
わたしはルトガー様に頭を下げた。
「父を捜してくださって、ありがとうございます」
「……借金は本来お前の父の作ったものなのだから、捜すのはあたりまえだ」
まさかこの半年、ルトガー様が父を捜していてくれたなんて。そっけない顔で当たり前のように言うけれど、きっと大変だったろう。それに借金を返すだけならわたしをこき使っていればいい話。
顔は怖いし仕事には厳しいけど、ルトガー様は優しい人だ。
「やっぱり王都はどこもすごい人だね」
「うん、すっごく賑やか」
トビアスもあの辺じゃ一番大きな街だけれど、王都には負ける。人にぶつからないように歩くのも大変そうだ。
仕事の依頼を受けてから数日後。わたしは王都にやってきていた。今回もサポート役にロッティとクルト、そしてカイル様も一緒だ。
「時間があったら美味しいものでも食べに行くかい? 女の子に人気なスイーツとかもあるよ」
「スイーツ! 食べたいです」
「フローラ食べ物で釣られてる……」
「もちろんロッティちゃんも一緒だよ」
御者席からカイル様の声がした。
前回来た時はまったく街を見に行く暇もなかったんだよね。王都には珍しい食べ物も多いって聞く。ロッティは呆れた様子でこちらを見ていた。大丈夫だよ、本当に釣られたりなんてしないって。本当よ。
それにしてもカイル様はやっぱり女の子慣れしてる感じだ。
仕事に出発する前、アンナが心配していた。
『あの女ったらしの軟体動物には気をつけるんだよ。あいつは女なら誰でもいいんだから』
酷い言われようだけど、以前アンナとカイル様は一緒に仕事をしたことがあるんだよね。一体何があったんだろう。
まあ確かにちょっと軟派な感じではあるけど悪い人ではなさそうだけどなあ。
「すごい高級住宅街だなあ。俺、浮きそう……」
「目立つのが困るようなら俺の服を貸そうか」
御者席からクルトの声が聞こえてきた。窓の外を覗くとそこは高級住宅街だ。以前仕事をしたクレーデル家があった場所より城に近い、高位貴族たちが住むエリアを馬車は走っていた。どのお屋敷の門も高級そうで厳重な警備が敷かれてるみたい。
わたし達の馬車は美しく整えられた庭園のある大きな門の前に停まった。周囲のお屋敷よりさらに大きい。そのまま馬車で敷地内をゆっくり走っているとやがてお城みたいに大きな建物が見えてきた。
「ここがフェティス家のタウンハウスだよ」
カイル様の案内でやってきたのは、これからわたしが成り代わるアリアナ嬢の住むタウンハウスだ。
「あなたがわたくしに成り代わる人なの? ねえ、こんな地味な子で大丈夫なんですの?」
銀色の髪の美少女がえらく高飛車な態度でそう言った。
彼女がアリアナ嬢だ。
仕事の打ち合わせのためさっそく顔合わせしたのだけれど、なんていうかナチュラルに悪役令嬢が似合いそうだ。たくさんのご令嬢達に会ってきたけど意外にもこのタイプは初めてで密かに感動してしまう。まあ地味な瓶底眼鏡の平民の女が来たから不安に思ったのだろうね。
「それはもちろんです。安心しておまかせください」
「初めまして、アリアナ様。フローラ・リンクです。全力で勤めさせていただきます」
「ふうん」
わたしが挨拶するとアリアナ嬢は目を細めて上から下までじろじろ眺めてきた。それからクスっと意地悪な微笑みを浮かべた。
「まあいいですわ。こちらの安全が保障されるなら。せいぜいがんばってくださいね」
せ、性格悪~~~!!!
唖然としているわたしの横でカイル様も苦笑しているしロッティの目が据わっている。
いやこれは振られるわけだ。すごく美少女なのにもったいない。
なんて考えながらもわたしは彼女の立ち振る舞いとか外見をなるべくよく観察した。だってこれからわたしがこのアリアナ嬢になるわけだからね。でもこれ普段わたしが演じてる悪役令嬢そのままの感じでいけそうだよ。逆にすごいと思う。彼女に成り代わる役目に悪役令嬢に白羽の矢が立ったのもうなずけるほどだった。
アリアナ嬢はそのあとすぐに身を隠すため屋敷を出て行ってしまった。
残されたわたしはロッティと顔を見合わせる。
「なんだか強烈な人だったね」
「貴族の令嬢なんてあんなもの」
「そうなの?」
わたしが今まで会ってきたご令嬢達はもう少し普通の人が多かったけどなあ。ロッティは不機嫌そうにメイドの衣装に着替えていた。今回もロッティはわたしの侍女という設定だ。
アリアナ嬢に変装して部屋から出るとカイル様がにこりと笑った。
「これは可愛らしいお姫様だ」
「アリアナ嬢に見えますか?」
「遠目からならいける……気がする」
目を細めて答えたのはロッティだ。
今わたしはアリアナ嬢の髪型に似せた豊かな銀髪のかつらを被って彼女の薄紫色のドレスを着ている。元々わたしが選ばれた理由の1つがアリアナ嬢と背格好が似ていたから、なんだけどそれでも変装は初めてだったので少し心配だった。
いつもは誰かじゃなくて、悪役令嬢になってたからね。
「アリアナ嬢は現在休学中で屋敷に引きこもっているからね。知り合いに会うこともないし大丈夫だよ」
カイル様の言う通り現在アリアナ嬢は通っている貴族学校を休学していた。聖女の噂が広まってしまい後に引けなくなったみたい。ちなみにアリアナ嬢はわたし達と面会した後すぐにカイル様の仲間の騎士団員達に連れられて屋敷を離れた。
「カイル様、これからわたしはどうすればいいんですか?」
「俺とデート……は冗談、冗談だってば。そんな蔑んだ目で見ないでよ。君には聖女として人前に出てほしい」
ロッティからの視線がよっぽどこたえたのかカイル様は慌てて真面目に話し出した。この人騎士のはずなのにだいぶ軽いなあ。騎士っていうともっとお堅い人たちってイメージだったけど。
「アリアナ嬢には最近毎日、その聖女の力を求めて面会の依頼が何件も来ている。その何人かに会うんだ。大丈夫、正体がばれないように会う相手はこちらで選別するよ」
「それで敵を釣る……」
「そう、ロッティちゃんの言う通り」
「でも下手に会うと偽聖女だというのがばれちゃうんじゃないですか?」
そもそもアリアナ嬢は偽聖女だったわけで。わたしだってそんな特別な力持ってない。聖女の力を求めている人に会ったら逆に聖女じゃないとばれちゃうんじゃないだろうか。
手を上げて質問したわたしにカイル様はおっとりとした顔で頷いた。
「聖女の力は特別なものなんだから、そう簡単には見せられないってことにするよ。大事なのはアリアナ嬢が表に顔を出すことだからね。まあ、あとは君の演技力に期待かな」
「ご期待に沿えるようがんばります……」
滅多に表に出てこなくなったアリアナ嬢に接触できる機会をわざと作るってことだ。
まさにおとり捜査だ。不安だけど、父のことも心配だしここは悪役令嬢として培った演技力でなんとかするしかない。
そう、悪役令嬢だ。
考えてみればアリアナ嬢は今までわたしが演じてきた性悪悪役令嬢とよく似ていた。案外彼女に化けるのは簡単かもしれない。大分失礼なことを考えながらわたしは覚悟を決めた。
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