捕まって溺れる
ザークの紫色の瞳。
私と同じ色。
さっきまでのザークではない。
――もっと近くにいないと。
――もっと深く深く。
私の中の何かが訴える。
心臓のあった場所が、掻きむしりたくなるほどの熱を感じる。
ザークの腕を掴んでいた手を、彼の頬に添える。
無意識に動いた私の手に、ザークの瞳が驚き見開いた。
手をゆっくりと、彼の頬をなぞる様に滑らせる。
少し熱った肌を感じながら、スルスルと存在を確かめる様に輪郭をなぞる。
彼の紫色の瞳が柔らかくなる。
それは少し潤んでいて、とても艶やかで、色っぽくて………………たまらない。
はぁ。
自分の体から熱を吐き出す様に、息が漏れる。
その息を感じて、ザークがペロリと唇を舐めた。
その仕草がより私の身体を高まらせる。
熱に浮かされる感覚の中、ふと思う。
――あぁ。私は彼をたべたいんだ。
かじって、なめて、抱きしめて、この腕に閉じ込めて。
頭のてっぺんから足の先まで。
彼の全部を、彼の声も、頭の中も、全て全て私のもの……
彼の頬に添えていた手に少し力を加える。
ゆっくりと背伸びをする。
彼も引き寄せられる様に、ゆっくりと背を丸める。
少しずつ、少しずつ、紫の瞳が近づく。
お互いの熱のある息がかかる。
「あぁ……やっとだ……」
ザークが何か言っていると、頭の片隅で思うけれど、それどころじゃない。
――欲しい。欲しい。欲しい。
きっと、おかしくなっている。
いつもの私ならわかるはず、でも目の前の彼が、彼だけが全てになる。
これが、『ペアになる』ということなんだろう。
お互いの鼻が頬を擦る。
少し濡れた唇同士があたる。
腰からゾワゾワと、くすぐったい感覚が後頭部まで上がってくる。
全身を今まで感じたことのない熱が駆け巡る。
頭がクラクラするくらいの熱さ。
あまりの熱さに、お互いの口から息が溢れる。
そして、すぐにその隙間を埋める様に口づけを深くした。
まるで全部飲み込む様に、奥へ奥へ。
彼の味も、その中の熱い厚みも、根元から求める様に、深く奥へ絡ませて。
とても綺麗なキスではない。
噛みつく様にくっついて、首筋まで濡れても構っていられない。どうしても離れられない。
私の初めてのキスは、欲のままに衝動のままに過ぎた。
どれくらいお互いを堪能していたのか。
ふとザークが私から唇を離した。
――ダメ。まだ足りない!
離れていくザークに、まだ物足りなかった私は、首に回っていた腕にグッと力を入れる。
ザークの動きが止まって、目の前で嬉しそうに笑った。
いつもクールで顰めっ面な彼しか見ていなかった私は、そのあどけない笑顔に頬が熱くなる。
元々綺麗な顔だけれど、笑うと可愛いなんて思う。
「あぁ、アルテナ。まだ、俺が欲しいか?」
変わらずニコニコしながら聞いてくるザーク。
なんだか急に居た堪れなくなって、でも楽しんでいる様なザークになんだか嫌だと思った。
ザークが私の眉間に触れる。
「そんなに険しい顔をするな。冗談だ。俺も足りない。」
私は知らないうちに、物足りないという思いが顔に出ていたのか、眉間を寄せていたらしい。
ザークがグッと私の腰を掴んで引き寄せる。
彼の体温を感じて、自然に口角が上がる。
そんな私を見て、より目を細くする彼は、私の頬に右手を添えた。
私を覗き込む目が、熱を持って紫色に光る。
「アルテナ。教えてくれ。君は、俺のものだろう?」
その言葉は、たずねてはいない。確認する様だった。
私は、今までのザークを思い出していた。
カッコいいけど、よくわからない人。
縋りついて泣いて、自分のものだとストーカーのようなことを言うちょっとあぶない人。
確かにそう思っていた。
とにかく話し合って心臓を取り戻さないといけなかった。
確かに私が思っていたことだったのに、今はそれが別人のように違う。
でも、とくに気にならない。
あんなに気になっていた心臓の事も、どうでも良くなっている。
ザークに触れている。
それだけで、もういいように思う。
これが正解なのだと感じる。
頬にあるザークの手へ、擦り付けるように頭を傾けた。
彼の瞳をしっかりと見つめて言う。
「ザーク。あなたは、私のもの。」
彼が満足そうに微笑むと、かぶりつく様に唇が覆われた。