戦闘
バキバキバキッ!
木が倒れる轟音でユイは目覚めた――。いや。目覚めたのではない。その逆だった。
――私は夢を見ているんだ!
無残に倒された木……。ユイの好きな紫木蓮の木、だった。美しい紅紫色の花びらが、六本の不気味な足で容赦なく蹂躙された。
――ユメクイが木々を倒し岩を蹴散らしながらなにかを追いかけている……。ユメクイの先にいるのは……、シュウだ!
シュウは人間離れしたスピードと跳躍で疾走していた。腰には日本刀を携えている。木々の間を風のように走り抜け、岩の上を軽々と飛び越えていく。
ドンッ!
閃光と爆発音。
ユメクイの足元でなにかが爆発した。
シュウはただ走り回っているわけではなかった。所々に術を施しておいたのだ。
緑の炎がまたたく間にユメクイの全身を包む。
激しく燃え上がる炎。緑の光と熱が勢いよくユメクイの巨体を舐めつくす。
――やった! 怪物をやっつけたんだ……!
しかし、ユイの喜びは空しく、緑の炎は徐々に消えていった。煙の中から現れたユメクイにダメージはまったくないようだった。胴の部分の長い毛も見た目は変わらず、炎に燃えた痕跡はどこにも見当たらない。ユメクイは唸り声をあげかぶりを振り、少し立ち止まっていたが、またすぐにシュウ目がけて走り出した。
――どうしよう。あんなに爆発したのに、あんなに炎に包まれていたのに、まったく平気みたいだ。またすごい速さで走り出している。あんな怪物にシュウは勝てるの!? どうしよう。シュウだってあんなに速く走っているのに、どんどん距離が縮まっていく……。
実は、ちゃんと緑の炎には意味があった。それは、ユメクイの全身を覆う被膜のような目には見えない防御の壁を焼き尽くすためのものだった。確実に次からのシュウの攻撃は有効になる。計画通りだった。
ユイの目には、圧倒的な強さの怪物に、ただ逃げるだけが精一杯のシュウ、そう映っていた。
――距離がみるみる縮まる……。
ユイの心に、先程のあっけなく引き裂かれ、踏みしだかれた紫木蓮の姿が思い出された。
――シュウが八つ裂きにされる所なんか、見たくない!
ユイは心の中で叫んでいた。
――シュウ……!
シュウ! もういいよ! やめて!
もう諦めて! 私のことはいいから、シュウはもう現実に帰ってきて! もうこんなこと、やめようよ!
私のことなんて忘れていいよ!
途中で放り出したことになんてならないよ! シュウはもう充分戦ってくれたよ!
もうやめて!
シュウ!!




