ユメクイ
ドドドドド。
大きな滝の音。うっそうとした深い緑に囲まれた中、川が流れている。
――ここは……? ああ。そうか。私は夢を見ているんだ。川のほとりにいるのは……、青い髪の……、シュウだ――
シュウは、なにか呪文を唱えていた。その手は印を結び、空を切る。なにかの術を行っているのだろう。その動作は力強く、空手の形のような迫力と美しさがあった。
ドドドドド。
流れ落ちる滝の音……。
続き、暗闇。
テレビの電源を切ったように、その後しばらく夢のない眠りが訪れる。
ドドドドド。
――また、滝だ。さっきとは少し場所が違う。広がる岩場。滝の上だ。
巨大な岩の上に、不気味な怪物と一頭の獣がいる。
怪物は、とても大きく嫌悪感をもたらす醜悪な姿をしていた。首と尻尾が異様に長く細く、実在するどの動物にも似ていない、異様なバランスの姿だった。首にも尻尾にも何か所か節がついていて、そのあたりだけ毛が無かった。そのうえ、首と尻尾の部分だけが妙にぶよぶよとしていて、そこだけ見るとまさに巨大な芋虫といった風情だ。胴の辺りは長い毛に覆われ、その毛色は灰色がベースで所々に毒々しい赤い斑模様がついている。耳は大きく尖っていて、頭には大きな角二本と小さい角が二本生えている。目はなぜか、人間の目のような形をしていた。それだけでも充分気味が悪いのに、ご丁寧に四つもついていた。瞼が下から上へ閉じるようになっていて、四つの目それぞれ違ったタイミングでまばたきをしている。まるで目だけが蠢いているようだ。鼻は先端が豚の鼻のように潰れていて、口は大きく裂け唇が醜くめくれあがり大きな牙が出ている。足は六本もあり、足先は猿の手のような黒く長い指になっていた。その爪は、鉤のようにとても鋭い。
――この恐ろしい巨大な怪物が、「ユメクイ」なのか……。こんな化け物と、シュウは戦うんだ……。
ユイは今まで心の中に灯っていた希望の明かりを必死に守ろうと、「絶望」という言葉をなるべく心に思い浮かべないようにした。
――大丈夫、そうシュウは何度も言ってくれていたじゃない! 私が諦めてしまっては、絶対にだめだ……!
獣の方は、美しく青い立派な毛並みの、青い目をした狐だった。
――青い狐……これは、きっと、シュウだ!
二頭は睨みあったまま動かない。
四ツ目の怪物が不気味な唸り声をあげる。
青い狐は相手をまっすぐ睨みつけ、そのまま微動だにしなかった。
ドドドドド。
――ああ! シュウ! どうか、無事でいて……!




