異変
空がゆっくり金色に染まっていく。様々な想いや願いを抱え懸命に生きる街の人すべてを、並んで歩く若い二人を、そっと祝福してくれているかのようだ。ユイはシュウがずっと歩調を合わせてくれているのを感じていた。静かな優しい時間が流れていく――なにかを話したい、歩調だけじゃない、もっと心で寄り添ってみたい――でもこの柔らかな空気を壊してしまうのも少しもったいない、ユイはそう感じていた。
シュウは小さな古いレストランの前で足を止めた。昔から地元の人々に愛されているような、親しみやすい、そしてちょっと洒落た雰囲気のある店だった。
「ここで食事をしましょう。作っていただいたばかりでは申し訳ないですし、これから帰って支度をするのでは、ユイさんが疲れてしまいます。それに、洋服を選んでくださったお礼に、ご馳走させてください」
そんな、別にワリカンでいいよ、と言おうとしたユイだったが、それではあまりに味気ないかな、と考え直し素直に甘えることにした。
「ありがとう。嬉しい」
少しはにかんだユイの微笑みは、初々しく清らかな輝きを放っていた。
高級というわけではないが、優美な装飾と確かな品質の品々でしつらえられた店内は、浪漫溢れる古きよき時代で時が止まっているかのようだった。キャンドルのような柔らかな照明、流れる音楽は耳に心地よい音量のクラシック、とても落ち着いた空間だった。
席につくなり、ユイは突然異常な眠気に襲われた。急激に意識が遠ざかる。睡眠というより、気絶に近かった。
――ああ。暗闇に飲みこまれる……。
深い、深い暗闇。
冷たい空気の中に、生ぬるい、不気味な風。
すぐ近くに獣の息遣いを感じる――
シュウはすぐにユイの両手を握りしめた。
「シュウ!」
驚いて目が覚める。
ちょうどそこに水を持ったウェイトレスが来た。いかにも世話好きといった感じのふくよかな年配の女性。ずっとこの店で働いているのだろう、店主の奥様なのかもしれない。ウェイトレスは大胆にも着席早々手を握る男女の姿にちょっと驚く。が、そこはプロ、すぐさまいつも通りの上質な「お客様をおもてなしする笑顔」に戻り、
「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりでしたらお呼びくださいませ」
と流れるように述べた。
自分のとりあえずの役割を果たした後――わかっていますよ、お若いんですものね。頑張って頂戴ね、この店でよいひとときを過ごせますよう私も協力しますとも――とでも言いたげな、意味深な笑顔を残しつつ、早々に立ち去った。
ウェイトレスが背中を向け歩き出すやいなや、シュウの髪は逆立ち、全体に空気をはらんだようになった。その瞳は金色に輝く。そして一瞬にしてシュウの髪と瞳が、ユイの眼前で鮮やかな青に変化する。




