第四投 呼び出し
校歌のイントロが流れ、校内放送が始まる。
──これは、風中放送部の伝統である。
ピン、ポン、パン、ポーンのチャイムは著作物に当たらないので気兼ねなく使っていいはずだが、それではつまらないということで変わったらしい。伝聞形なのは、もう何十年も前の話なので真相を知る人が学校にいないからである。
それはさておき、放送の内容はこうだ。
『1年生の、曽我 微風さん。
放課後、生徒会室までお越し下さい。
繰り返します。
1年生の、曽我 微風さん。
放課後、生徒会室までお越し下さい。
今朝の件でお話があります。
お友達を連れてきても構いません』
呼び出しである。
それも、生徒会の。
山科先輩だ。
今朝、というか第一話の後のお咎めなのは明らかである。
放課後、微風と夏菜が生徒会室に行った。
「「失礼しまぁ〜す」」
そう言って引き戸を開け、恐る恐る中に入ると、数名の先生と生徒会のメンバーがいた。
先生側は、校長先生と生徒会顧問の桜木先生、あと、独身で三十路の恋ちゃん先生である。
そして生徒会側は、生徒会長の時川 学、今朝煩かった副会長の山科先輩、後はおっとりしていた書記の吉田先輩だ。
これだけの面子が揃うと、微風も夏菜も自然と背筋が伸びる。
「今朝の件だがね」
会長が切り出した。
「ああいった呼びかけをする場合は、生徒会を通してくれたまえ」
生徒会長がこんな口調でしゃべるのは、物語の中だけである。
現実にいたら、上から目線だし鬱陶しくて会長選挙で落選間違いなしである。
「校長も、校則を承認している立場なのですから、ちゃんとやってもらわないと困ります」
次は、副会長が校長に苦言である。校長、肩身が狭そうだ。
「校則にあるのは、知りませんでした。
申し訳ありません」
「謝ってもぉ、話が先に進みませんからねぇ。
1年の土方さんとぉ、どんな話をしたんですかぁ?」
書記の吉田先輩がゆっくりとしゃべる。
「いや、顧問をお願いされまして。
若者が頑張るのは良いことだから、協力しようかと。
なので、ビラを配って人を集めるのも許可しました」
校長先生、ハンカチで額の汗を拭っている。
生徒会長が嫌そうな顔をした。
副会長が校長を詰問する。
「校長、ちゃんと立場を理解していますか?
校長は各部活の監査役になっていますから、部活の顧問にはなれません。
それに、他の先生方も既に部活を担当していますから、これから顧問になれる先生はいません。
先日、各部活の予算と顧問の人事案の書類に判を頂きましたが、ちゃんと監査しましたか?
まさか、読まずになんてことはありませんよね?」
校長先生、タジタジである。
と言うか、この生徒会、強すぎじゃないだろうか。
「まぁ、まぁ。
今は、一般の生徒もいますし」
生徒会顧問の桜木先生が宥める。
微風達に聞かれると、校長の立場がないということだろう。
生徒会長が舌打ちをした。
「曽我さん、悪いがそういう事だ。
人数が集まっても、顧問になる先生はいない。
なので、ウィンドウボール部の創設は諦めたまえ」
生徒会長は、微風にそう告げた。
このままでは、部活が出来る前に終了である。
微風には、もうひと踏ん張りしてもらわないと話も続かない。
「分かりました。
では、失礼しても構わないでしょうか?」
微風は、この場を早く立ち去りたいようである。
「えっと……。
私も失礼しても構いませんか?」
夏菜も、一緒に帰る気満々のようだ。
「その、なんとかなりませんか?
折角、ビラまで作って頑張っていましたし」
恋ちゃん先生、担任なだけにフォローしようとしている。
しかし、これを否定したのは生徒会顧問の桜木先生だ。
「立場があるでしょう?
それに、予算とかも考えて言っていますか?」
ここは『仕方がありませんね』と言って折れてもらえると、作者としては助かるが、そうはいかないようである。
校長先生が、すまなさそうに一言。
「申し訳ありませんね。
力及ばずでした」
以上、このような顛末でウィンドウボール部の立ち上げは失敗となった。
このお話はこれで終わりである。
……であるのか?
おっさんが学生の頃は、校長先生とはほとんど話す機会もなく、壁もあったように思います。
気軽にお話できる校長、現実にはいるのでしょうかね。(--)?