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第二投 ウィンドウボールがない!

 話は、校門で勧誘を始める1週間前に(さかのぼ)る。


〜〜〜


 入学して間もないこの時期、学校の説明が目白押しである。

 今日は、帰りのHR(ホームルーム)で部活動の説明が行われた。

 説明するのは我らが担任、中本(なかもと) (れん)である。30歳独身、いわゆる三十路である。九州出身で、話をすると不思議なところにアクセントが来る事がある。

 今も将に、標準語ではないアクセントで手元の資料(カンペ)を読み上げている。


「……ということで、最近の『教師の働き方改革』で今年から1人の先生が週に3時間以上、部活の面倒を見てはいけないことになりました。

 それで、恐らく他の学校もやってくると思われますが、強い部活に複数人、交代で面倒を見て練習時間を確保して県大会の上位を目指します。

 風中はテニスと卓球、合唱部が比較的強いので、今年からこの3つにそれぞれ5人の先生が付くことになりました。

 つきましては、今年から部活動は7つに減りましたので、この中から選んで下さい」


 小さい学校ほど先生の数が少ない。時間を確保するためには、強化したい部活を取捨選択するのだ。

 ちなみに残った部活動、生徒に人気があるからではない。先生が押したいからである。

 生徒会?先生の立場でいくらでも言いくるめて終わりである。

 格闘技はもちろん、野球やサッカーは怪我が多いという理由で全国的にも廃部になっており、風中も例外ではない。

 一方、文化部は怪我が少ないので、残しやすくはあるのだが、ここの市の教育委員会(お上)が運動部と言っているので右に習えしているのだ。


 風中は1学年2クラスで、授業をする時は1クラスに補助教員が2人必要とされているが、実態は英語の授業を行う時、国語と数学の先生が補助教員としてつく等してギリギリで回している。

 なので、1学年に先生はだいたい7人しかいない。つまり、学校全体で、校長を除いて21人しか先生がいないのだが、ワンチャン狙って、朝練、放課後の他、土曜も部活できるように15人の先生を3つの部活に極振りしているのだ。こんな人数で指導して、曜日で部活の方針がバラバラになってしまわないか心配である。


杉橋(すぎはし) 夏菜(かな)が挙手する。


「恋ちゃん先生!

 残りの先生は(なん)ばしよーとですか?」


「皆さんの授業の準備や、教材の作成をしています。

 今日授業で使ったプレゼンファイルも、先生たちの手作りですよ」


 サボっているわけではないらしい。

 用事のある先生が早帰りできるように、ローテーションが組めるようにしてあるという意味合いもあるのだが、恋ちゃん先生は面倒臭がって生徒には説明しないようだ。


「去年の、無いの?

 学習要綱変わって無いなら、使い回せる」


(こずえ)さん、去年の反省点を踏まえて毎年作っているのよ。

 より良い授業を目指した方がいいでしょ?」


 先生が食い下がる。

 外から見ると使いまわせそうだが、ちゃんと改善しているらしい。


「それ、多分無駄。

 余程のことがない限り、変わらない…….zZ」


 それを言っちゃ、いけません。というか、寝る時間じゃありません。


(こずえ)さん、寝ないで下さいね」


 ほら、怒られた。


「あと、微風さんも、HR中に手紙は回さないで下さいね」


「だって、端末のメッセンジャー使ったらログ残っちゃうし」


「ログには残らなくても、先生の記憶にはちゃ〜んと残ってますからね?

 そ・よ・か・ぜ、さん?」


 当然である。


「「「ははは・・・」」」


 主人公はクラス中から笑われたようだ。


「それで、何を書いていたのか、微風さん、読んでみてくれますか?」


「恋チャン先生、それ、プライバシーの侵害!」


「微風さん?」


「あ〜、もう、はいはい、読みますよ〜」


 どうやら、主人公は観念したようである。

 微風さんは息を吸って、思いっきり叫んだ。


「うちの学校、最近流行(はや)ってるのに、ウィンドウボール部がな〜い!」


 ……流石に、叫ぶのはお調子者のする事である。というか、馬鹿である。



 実はこの手紙、微風と夏菜がやり取りしていたものである。二人共、流行りものが好きというのもあり、中学に入ったらウィンドウボール部に入ろうと決めていたのだ。

 微風は、


「無いんじゃしょうがないよね」


と諦めていたのだが、放課後、何故か梢が来て、


「無いなら、作ればいい」


と言い出し、こうしてウィンドウボール部を作る相談が始まったのだ。

 基本面倒くさがり屋の梢。

 彼女が何故、部活を作る相談に加わったかは、今の所謎である。


 さらっと読みたい人は、ここは読み飛ばして下さい。


 恋ちゃん先生が言っている「1人の先生が週に3時間以上、部活の面倒を見てはいけないことになりました。」という部分には、大した話ではありませんが、今回この話を書いた思いつきの一つが入っています。


〜〜〜

 現実の世界で、教員は残業時間は36協定は締結するそうですが、残業代自体は教職調整額で月に基本給の4%しかもらえないのだそうです。


 でも、もし、教員も労働基準法(以下、労基法)で守られていたらどうなるでしょうか。


 学校の先生が労基法で守られていれば、残業すれば(ホワイトな会社と同様に)全額残業代が出ることになります。

 現状のまま残業代が全額出るとすると、計算していませんがかなりの金額になると思われます。

 そうすると、経費削減のため残業を削減しようという圧力がかかる筈です。

 そこで、『教師の働き方改革』と銘打って残業の原因を潰す事になるわけです。


 ですが、授業やその準備、生徒指導の時間を削れと言うわけにも行きません。

 +αの活動として目に付くのは、やはり部活動で顧問をする時間となるでしょう。


 ここで出てくるのが、部活廃止論です。

 なにせ、やらなければ0時間ですから。


 でも、急に今までやってきた部活を廃止しろと言われても、生徒もその親も納得できるものではないでしょう。それでいろいろと議論した結果、部活の顧問は週に3時間までという所で折り合いをつけたというのが、このお話の裏に隠れています。


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