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第867話・【三人称視点】英雄にあこがれて ≪キャラ挿絵≫

【挿絵】左『SDG』上から忍野、キャプテン・知立、十和田

紋章・王冠を模したSDGの文字。Soli Deo Gloria!(ただ神のみに栄光を)の略。

右『プライド』上から志木、キャプテン・大刀洗、長門

紋章・獅子の口の中に骸骨。『プライド』はライオンの群れの呼び名から。

 挿絵(By みてみん)


 偵察を務めた『SDG』メンバーの長門(ながと)たちの姿が、『プライド』のメンバーに立ち並んでいるのが見える。


「長門! どういうことだ?」と、忍野(おしの)

「お前ら……裏切り者め!」と、茅野(ちの)兄妹たちも各々(ののし)った。


 長門は口の端を少し上げて、返す。

「『SDG』はもうダメですよ。中央本部の徴収が厳しくなっているというのに、まるで変わっていない。いずれ解散されるのはわかっている。だから俺たちは『プライド』との合併を期待したのに、ちっぽけな自尊心のために逆らってしまって……。それで、俺たちは俺たちだけで『プライド』に所属することにしたんです」


「長門……! お前ら……!」と、『SDG』キャプテン・知立(ちりゅう)も顔を歪める。

 

 そんな間も、(とき)の声を上げた『プライド』メンバーたちが、中央にいる『SDG』メンバーに迫っていた。

 彼らもとりあえずは『SDG』メンバーを殺さずに捕らえるつもりだが、まず痛めつけてからという指示と、その際に相手が死亡してしまっても致し方ないという考えで、『SDG』メンバーのスタンスとは違っていた。

 

 その違いと、根本的な数の問題で、『SDG』メンバーが次々に捕まり、あるいは倒されて行く。


「キャプテン、知立昂暉(こうき)! あんたも捕まえる! ハンギング・ベルトッ!」

【BELT(=ベルト、帯)・志木所持魔溜石、A、『B』、『E』、I、『L』、O、S、『T』、T】


『プライド』の志木が、『エイト剣』から黄緑の棒状の気を放った。

 それはまっすぐ伸び、やがて空中でクネクネ曲がり、知立の右腕に巻き付く。

 しかし知立はすぐに左手へ剣を移し、その気を叩き切った。

 

 その間、さらに間合いを詰めた志木が『BEAST(ビースト)=獣』を放つ。

 しかしそれも防御魔法で防いだ知立は、素早く攻撃魔法を放って志木を吹っ飛ばした。


「志木! 自分、この前の傷、完治しとるんか? 引っ込んどれ!」

 そう言って入れ替わり知立に迫って来たのは、身長176ほどの男。

 サイドを刈り、真ん中だけ伸ばした黒髪を後ろで結っている。一重の目と眉の間が狭く、片方の口角が吊り上がっている。

 これが『プライド』の現キャプテン・大刀洗(たちあらい)(れつ)だ。


「大刀洗……(はか)りやがったな? こうでもしなきゃ俺たちには勝てないか?」

「何言うてんねん、知立さん。自分らが先に奇襲なんてこと考えたからやろ? とにかく、この状況どうすんねん? うちらの要求呑むんなら、能力高い奴は所属させてやってもええんやで?」


「そんなことはできないな。デス・ビフォアー・サレンダー(降伏よりも死)だ!」

 知立が放った気を受け、大刀洗が押し返される。

「死ぬこと考えているっちゅうことかい」と、大刀洗が反撃。

 二人の、人一倍威力ある気をまとった剣がぶつかり合い、激しく光の火花を散らした。


 


 数十分の戦闘の後、多くの『SDG』メンバーが捕らえられた。負傷者も多い。また、最後まで抵抗したため命を落とした者もいる。


「キャアアッ……!」

「もう、ダメ……」

 ここまで奮闘していた女性3名も倒れた。大島と白石(しろいし)は、カケルたちが『SDG』入りの試験を受けた時に魔巣窟へ同行した二人で、茅野夏妃は琴浦家の近所に住んでいた茅野兄妹の妹だ。


「夏妃……クソッ!」

「お兄様……私のことはいいから、逃げてください」

「そんなわけにはいくか……ぐあっ!」

 兄の茅野春樹もここまで健闘していたのだが、ついに相手の魔法に捕まった。


 そんな中、『SDG』側で残っているのは知立、忍野、十和田(とわだ)を含む6名となった。

 大刀洗と互角にやり合っていた知立だが、途中から大刀洗の方に他の『プライド』メンバーの加勢があり、その均衡(きんこう)は破られた。


 


 押され始めた知立は、何度か魔法に突き飛ばされ、転がった。足首をひねり、痛みが走った。

 しかし忍野や十和田が助けに入り、何とか捕まらずに現在、林の中を駆けている。一旦『プライド』の囲みを抜け出し、少人数ずつを相手にしていく作戦だ。


 知立も足の痛みを堪え、他の者の手を借りつつも走った。

 しかし追っ手の人数の方が圧倒的に多く、倒しても倒してもすぐにまた囲まれそうになる。


 防御で知立や『SDG』メンバーの反撃をことごとく防いだ大刀洗が、今度は特殊攻撃魔法で知立たちの体を捕えようとしてくる。


「センチネル・ウエァ!」

【WEAR(=服などの着用)・十和田所持魔溜石、『A』、B、C、『E』、H、I、K、『R』、『W』、X】

 十和田が剣先から『コート』のように広がる黄緑色の光を出して、それに包まれ、大刀洗の攻撃は防がれだ。


「ここは私が足止めさせる! その次は忍野君たちがやって、とにかくキャプテンと、一人でも多く相手から逃して、どこかに隠れるのだ。私も後から行けたら行く!」

 十和田は前を向いたまま叫びながら、がむしゃらに剣を振って前進する。『捨て(がまり)』のような作戦だ。


「……もう、ダメです」

 知立に手を貸しながら走り出した忍野だが、ポツリ呟いた。

「忍野……」


「もう降伏をして、あなたたちは助かるべきだ……」

「な、何を言う? 降伏しても、みんなが『プライド』に迎え入れられるわけではないのはわかっているだろう? 半数以上の者は魔溜石や金だけを取られて、追い出されるんだぞ?」

 

 知立が活を入れるように大きな声を出すが、忍野は弱々しく返した。

「俺たちは、そうなるかもしれませんね」

「ああ……」と、他の3名もうなずく。


「それでも、キャプテンや十和田さんは残れるでしょう。あなたたちは元々の能力が優れている。『プライド』の奴らも、切り捨てたりはしないでしょう」と、忍野は言った。

 周りで 3名もうなずく。


「知立さん……。まだ俺が若かった頃、俺に襲い掛かってきた魔獣を一撃で(たお)したあなたの勇姿を忘れていません。俺はあれを見て……こんな人になりたいと憧れ、『SDG』入りを志願しました。あなたのような有能な剣士が、俺たちのために自棄(やけ)になって戦うことは、もう、ありません。充分です」

 忍野は涙声で言った。


「相手はさっきから闇雲な攻撃もしてきます。捕らえ損ねて殺すこともあるかも……」と、他の一人も言った。


「そうです。それであなたや十和田さんのような人が死んでは、もったいなさすぎる! 知立さんたちの魔法剣士としての腕や、市民がもっと豊かに暮らせるよう魔溜石をたくさん採取していくという熱意が、ここで絶たれてしまうのは残念です」


「忍野……お前たち……」

 知立は忍野たち4名を見回した。

 忍野以外の3名も同意見のようで、うなずくだけだった。

 

 直後、遠くで十和田のものと思われるうめき声が響いた。

「十和田さん? ……知立さん、もうあなたを誰も責めはしません。『SDG』のために最後まで戦ってくれました。降伏をしてください!」


「……」

 知立は向かって来る大刀洗たちに顔を向けたまま、視線を落とす。


「どうしたんや、知立さん? 追いかけっこはおしまいか? そうやな。足()()()()いるみたいやし、逃げられへんわな」と、大刀洗が剣を構えながら近寄ってきた。


「……伏する」と肩の力を抜いた知立は、呟いた。

「あん? 何て?」


「降伏す……」

 知立の背後で激しく風を切る音がし、慌てて振り返った。

 闇だった背景が青白く染まっていた。その中で、『SDG』の3名が崩れていく。

 そしてまた、青白い気が流れ星のように飛んできて、忍野の胸を突いた。


「があはっ……かあ……!」

「お、忍野ぉ!」

 忍野はそのままひざまずき、前のめりに倒れた。


「おお? 『弓』の連中かい? おい! やめえ! やめえ! 向こうのキャプテンさんがお話ししようとしてるんや!」

 大刀洗が、気の飛んで来る方へ叫んだ。

 周りにいる『プライド』メンバーも木立の中に向かって叫び、ようやく『プライド』の『エイト(きゅう)』士たちが放っていた攻撃魔法の気が止んだ。

 

 しかしすでに忍野をはじめ『SDG』の4名がその場で(くずお)れるか、突き飛ばされて木に激突し倒れるなどしていた。

 知立もわずかに気を受け、左腕に激痛が走っている。

「お前ら……こっちが無抵抗になっても、なぜやめない!」


「何や、待て待て、知立さん! 仕方ないやろ、向こうにまだ指示が伝わっていない段階だったんやから!」と、大刀洗たちは一歩引いて剣を構え直した。


「ち、知立さん……ダメだ……」

 膝を突き前に倒れていた忍野が、苦痛に歪んだ顔を上げて呼び止める。


「うおおっ!」

 知立は構わず、剣を振った。

 刀身から飛び出した青白い気の球は一気に(ふく)らんだ。


 それを受け流し、大刀洗は顔をしかめて言う。

「あんた……降伏するつもりやったんちゃうんか? 降伏するんなら、以前も言うたように、あんたらは迎え入れてやってもええと思うているが、やる気ならこっちもやったんぞ?」

 大刀洗たちは一斉に刀身に気を溜め始めた。魔溜石ランプの淡い灯りばかりの林の中が、寒々しい青に染まる。


「大刀洗っ! 大刀洗っ! 大刀洗いいいっ!」

 知立は一振り、二振り、三振りと剣を振り回した。

 後退しつつもそれをうまく避ける大刀洗。


「目ぇ、イッとんな……」と小さく呟き、大刀洗は反撃に出た。

 知立もまた剣を振り下ろす。

 双方の間で、ザクッと、鈍い音が鳴った。


「……ハッ」と、知立はようやく我に返る。

 目の前に、忍野が立っていた。

 

 大刀洗の剣、そして知立の剣も、忍野の体を斬りつけたのだ。

 青白い光の残滓(ざんし)が消えるのに合わせたかのように、防具に切れ目が入って、そこから血が滲み出してきた。

 忍野はうめき、またひざまずく。


「邪魔だ!」と、『プライド』の一人が蹴り倒そうとするが、前にいる大刀洗に制された。

 その大刀洗、そして口の開閉を続けるだけの知立が見つめる中、忍野は顔だけを上げた。

 そして消え入りそうな声で知立に言う。

「……あなたは、生きなければいけない剣士だ。降伏を……」

 

 それから、うつ伏せに倒れた。それでも言葉を発する。

「たちあ……らいさん……」

「うちのことか? 何や?」と、大刀洗がやや戸惑いつつ訊いた。


「頼みます……知立さ……ん……たちを」


「お、忍野っ! 忍野ぉっ!」

 知立はしゃがみ、忍野の背をさすった。

 しばらくは浅い呼吸をしていたが、やがてそれもなくなり、口の端にわずかな笑みを残して忍野は動かなくなった。

 

 知立はうなだれたまま、ゆっくり立ち上がる。

 それを、先ほど以上に多くの数の『プライド』メンバーが囲み直す。


「彼は降伏を(うなが)しとったぞ? どうすんねん、知立」と、大刀洗が静かに問いかける。

 知立はギロッと大刀洗をにらみ返した。しかし、またうなだれた。

 

 それを見た大刀洗が目で合図し、周りの『プライド』の者たちが一斉に剣を振って、幾つかの黄緑色の気を知立の体に巻き付けた。

 同時に、知立の手から落ちた『エイト剣』を大刀洗が拾って自分の腰のベルトに()した。

 

 事実上、この日が、『SDG』が『プライド』に吸収された日となった。

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