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第866話・【後半三人称視点】青空

 魔獣人となった射水(いみず)夜紗(やしゃ)は、入念に火葬され灰と化した。

 さらにそれは、中央本部の手によって何か所にも撒かれるらしい。

 そうして射水は、ようやく安らかな眠りにつくのだ。


 中央本部兵や闘技場の人たちと別れた俺たち『グラジオラス』メンバーや美馬さん、そして先生たちは、広場で改めて治癒魔法を施し、そして健闘を称え合った。


 俺は個人的に、射水から受け継いだこの『射水』の名が刻まれた『エイト剣』を大事にしていくことも誓った。


 それから、他の教師たちと合流した香取先生、レンジリー先生とも別れた。

 とにかく、香取先生に掛けられていた疑惑も晴れ、先生自身が抱えこんでいた謎も解けてよかった。

 鳩ケ谷(はとがや)には言えないが、レンジリー先生のお胸も拝見できたし……。


 


 それから、目抜き通りの方に出てミュウとトラヒメと再会できた。

 ミュウは広場のベンチに寝転がっている酔っ払いの丸森さんとその友人の傍にいた。二人は酔い潰れてまったく保護者にはなっていないが、夜の大通りにミュウ一人(&眠そうなトラヒメ)だけでいるよりはマシだったか……。


 まだ眠たそうな丸森さんたちに別れを言って、俺たちは『北西部エリア』西の7ブロックにある住宅地に向かった。孤児院の()()()()につき合うことにしたのだ。その約束を先にしていたため、院長はミュウたちとの合流にも付き合ってくれていたのだ。


「足が痛いの」と言う雛季に美咲や二宮が手を貸し、同じくまだ痛みが少し残っているらしい桜川には東御(とうみ)とミュウが手を貸し、青葉には鹿角(かづの)と美馬さんが手を貸しながら歩いて行く。青葉は鹿角に不必要に体を触られたり、美馬さんに何か色っぽいことを囁かれたりして、負傷しているのに気の毒だ……。

 

 ちなみに鳩ケ谷も痛がっているが、誰も手を貸さない。彼はほとんど戦っていないし、あきらかに負傷はしていない。ただ女子と寄り添いたいだけなのだ。


 そして鮫川(さめがわ)は、痛みなどはなくなっているようだが、単純に知らないじいさん(院長)につき合うことが面倒臭いようだった。


 そうこうしているうちに一行は、林の中の世羅(せら)大和(やまと)邸前に着いた。

 しかし、『本物の世羅』の遺体が発見されてからあまり経っていないわけで、決して細かな鑑識の作業をすると思えないこの世界の鑑識や中央本部の者たちでもさすがに作業を終えているということはなかった。


 そのため、玄関前に立つ衛兵に止められる。

「遺体はもう、北部の墓地に運ばれましたけどね、まだ部外者を入れられる段階ではありません」と、その衛兵は言った。


「入れないの~? おじいさんはここの人の父親みたいな人なんだよ~」と雛季が口火を切り、美咲や鹿角、そして院長本人も事情を説明した。

 

 衛兵は中にいる中央本部兵たちに伝え、その中央本部兵が英田(あいだ)という人などと連絡を取り合った結果、()()()()だけは確認することができることになった。

 

 中央本部兵がリビングにあったという、世羅に宛てられた孤児院の子供からのファンレターと書きかけの手紙を、玄関前の俺たちの所まで持ってきた。その手紙は、ファンレターに世羅本人が返事を書き、まだ出されていなかった物だ。

 

 射水が最期、院長に呟いたのは、それを子供に返してやれという内容だったのだ。

 

 それには犯人である射水の指紋が残っているかもしれないわけだが、そこはこの世界の鑑識ということなのか、ファンレターを書いた子供に渡すことが容易に許可された。そのファンレターが院長の孤児院にいる子供からの物だったということもあるだろう。

 

 院長は世羅邸のポーチの灯りを利用し、俺たちの前でその中身を確認した。

 子供のファンレターには世羅への応援のメッセージと、自分が親から見捨てられて寂しい思いをしていることが(つづ)られていた。

 

 それに対して、世羅の書きかけの手紙にはお礼の言葉と共に、エールの言葉が書かれていた。

『どんな雲も裏側は太陽で光り輝いている。希望を捨てるなよ』


「あの時……」と、院長が口を開く。

「夜紗は、最期の言葉で、これを子供に渡してやれと言ったんだな。それなら、彼にはやはり人間としての優しさも残っていたんだ……」

 院長は深く息を吐き、夜空を見上げた。

 雨はすでに止んでいる。だから、院長の頬に光っているのは涙なのだろう。


 


 射水が葬られたこの日の翌日……。

『ゴブレット』一帯は雲一つない……快晴となった。


 ********************************************


 昨年からメンバーのイザコザが続いている『プライド』と『SDG』。

 

 双方の知らないところで、北部エリアの墓地に勤める飛島(とびしま)という男の策動もあり【第752話・参照】、その争いごとは日を追うごとにエスカレートしていき、イザコザの域を越えた衝突が度々起きていた。

 双方に死者も出ている。

 

 これではお互いによくないということで、双方のキャプテンや重鎮が顔を合わせることになった。

 しかし、すでに双方に被害者は出ているし、相手パーティーに金や魔溜石を奪われたという事案もある。『プライド』のキャプテン・大刀洗(たちあらい)(れつ)も『SDG』キャプテン・知立昂暉(ちりゅうこうき)も、自分たちの方が被害者であるという立場は変わらず、初めから相手方にいくらか譲歩させるつもりでこの日を迎えている。

 

 そのため、話は平行線で続く。

 特に『プライド』側には、自分たちの方が所属メンバー数で勝り、依頼も魔溜石採取、魔巣窟探索も多くこなしている……(ゆえ)に魔法剣士、魔法弓士としての能力が高く、強いのだという思いがある。


 そしてこの会議で吸収合併の話を切り出したのも『プライド』側からだった。

 しかしそれは『SDG』側からすると、『プライド』のメンバーになれということに等しい内容だった。これには知立たち『SDG』側も憤慨した。


 結局折り合いはつかずにこの会議は終わり、その後二度行われた会議も同じような展開をして虚しく終わった。むしろ、お互い相いれない部分を露呈した形となった。

 



 それからも何度か衝突が繰り返された。

 そして、8月某日。

『プライド』メンバーにより、また『SDG』メンバーが数名死亡する事件が起きた。その際、幾つかの魔溜石も奪われた。

 

 これを受け、『SDG』キャプテンの知立(ちりゅう)は報復を決意した。これまでとは違い、自分も出動する、と。

 

 その機会はすぐに訪れた。

 例年に漏れず、『ゴブレット』外の南の森で『プライド』の一部のメンバーが合宿を始めたのだ。

 知立を含む『SDG』メンバーも7、8名が数グループに分かれ、目的地付近へ向かった。

 

 知立のいるグループは現地で、先に偵察をしていた長門(ながと)壱郎など数名と合流した。

「おお、長門たち……。相手の様子はどうだ?」

 知立グループの忍野(おしの)が訊ねた。


 長門は昨年パーティーに入った、まだまだ新参者であるが、最近は腕を上げ、偵察グループではリーダー的な扱いになっていた。

「はい。向こうから森に入って10分ほど進んだところに開けた場所があるのですが、そのテント内に『プライド』のメンバーがいます。夕飯を終えてからだいぶ経ちますから、もう防具を外して(くつろ)いでいるでしょう。実際用を足しに出てきた者はみんな、防具を外していましたから」


「テントは幾つある?」と、忍野がまた訊ねる。

「総勢50余名が、5、6名ずつで10のテントに分かれています。固まって張っているわけではなく、東西南北に2、3ずつに分かれている感じです」

 

 それを聞き、知立は小さくうなずいた。

「それは都合がいいな。テントを囲みやすい。よし、もう少し具体的な作戦を立てて、他のグループにも知らせよう。ああ、長門も来てくれ。他の偵察隊の者たちは次の指示まで待機していてくれ」


「はい」

 長門はうなずき、他の偵察グループの者たちと目配せをした。


 


 数十分後。『プライド』のメンバーがいる10のテントのうち南西にある5つを、『SDG』メンバー35名ほどが囲んだ。

 

 今回の奇襲はできる限り殺さずに相手を捕らえることを目的としている。そのため、いくら奇襲とは言え、数的に不利である『SDG』メンバーが10のテントを一気に襲うことは難しいと判断された。簡単に特大攻撃魔法を使うわけにはいかないからだ。

 

 しかし南西に張られた5つのテントと東北に張られた5つのテントは木立で分断されたようになっているため、相手メンバーの一斉捕縛を迅速に行えば、東北側のテントの者たちには気づかれない可能性は高い。

 

 南西のテントを襲ってから東北のテントを襲えば、数的不利もなく、ほぼ全員の捕縛が可能になると、キャプテンの知立をはじめ『SDG』の重鎮たちは考えた。

 もちろん偵察グループにいた長門の助言も受けて……。

 

 暗い林の中を、最低限の灯りを頼りにゆっくり進んで行く。

 南西側に張られた『プライド』のテントに近づくと、長門の言った通り、5つのテントが張られていて、仄かな灯りの中に影も見えている。


 また、木立の奥にうっすらとした灯りを漏らしている、残りの5つのテントが見えている。確かに相当な声を出さなければ聞こえない距離のように思える。


 作戦通り、35名ほどの『SDG』メンバーは南西にある5つのテントを囲んだ。中からは度々談笑する声が漏れ聞こえていた。


 そして、知立が黄緑色の光をまとった『エイト剣』を高々と掲げると、それを合図として、『SDG』メンバーが5つのテントを一気に切り裂いた。


 しかし……。

「え? 布団? い、いない……」

「こ、これ……『メモリーボイス』?」

 切り込み隊長たちが5つのテントの前で次々に動揺した声を漏らす。

 

 それぞれのテントの中にあったのは、車座になった人に見えるように置かれた布団や丸い袋や、談笑しているような声を吹き込んだ『メモリーボイス』という『魔神具(マシング)』だったのだ。


「何……? クソッ、(はか)られたか?」

 知立が叫んだ直後、その背後で『SDG』メンバーの悲鳴が聞こえ始めた。

 

 振り返ると、『SDG』メンバーを囲うようにして、いつの間にか木立にたくさんの人影と揺れる魔溜石灯の灯り、そして棒状の青白い光や黄緑の光が並んで見えていた。

 その棒状の気が『エイト剣』、『エイト弓』として、相手は80名近くいることになる。

 

 獅子の口の中に骸骨……その刻印を確認するまでもなく、彼らが『プライド』の者たちだということは、『SDG』メンバーもすぐに理解した。


『SDG』メンバーは逆に囲まれていた。

 慎重に進んできたため、直前に『プライド』のメンバーに気づかれたということは考えられない。最初から木々や草むらに隠れ、待ち構えられていたのだ。

 人数も、偵察隊の報告よりも多い。

 

 何より、偵察を務めた長門たちの姿が、『プライド』のメンバーに立ち並んでいるのが見える。

 彼らが、『プライド』側と繋がっていたのだ。

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