第859話・チェンジングマン ≪キャラ挿絵≫
銀髪男の『MOON』という攻撃魔法を受けて吹っ飛ばされた俺と美馬さん。
俺が瓦礫の中で上体を起こしている間、美馬さんが銀髪男に迫っていた。
「人に愛されなかったから、人を愛せないのね? 私がたっぷり愛してあげるから、これを吸いなさい! 華麗テンプテーションッ!」
【TEMPTATION(=誘惑)・美馬所持魔溜石、『A』、『E』、H、『I』、L、『M』、『N』、『O』、O、『P』、S、『T』、『T』、『T』】
確かに、彼女の『TEMPTATION』を一度は試しておくべきだろう。
もしもこの男が『TEMPTATION』によっておとなしく美馬さんの恋のしもべになったら、戦いは簡単に終わる……。
しかしそううまくはいかなかったようだ。美馬さんの刀身から流れ出た銀の煙を浴びても、銀髪男の様子に変化はない。
「どう? 私にいい子いい子してもらいたければ……」
美馬さんに向け、男が「スヌーズ」と言って剣先を突き出した。
【SNOOZE(=うたた寝)・射水所持魔溜石、A、A、B、D、『E』、K、M、『N』、『O』、『O』、『S』、S、U、『Z』】
直後、美馬さんの瞼が閉じられ、彼女はうなだれた。膝も曲がり、今にも頽れそうだ。どうやら催眠系の魔法を掛けられたらしい。
「美馬さんっ!」と、美咲が叫ぶ。
「ハッ……」と、美馬さんが意識を戻した時には遅かった。
「サンビーム」と言った男が剣を振り下ろすと、天井から赤い光線が降り注いだ。
【SUNBEAM(=太陽光線)・射水所持魔溜石、『A』、A、『B』、D、『E』、K、『M』、『N』、O、O、『S』、S、『U』、Z】
「きゃうっ! きゃうっ!」と美馬さんはその幾つかを食らって倒れ、服についた火を払うためか、その場でのたうち回る。
「うちの生徒に何すんのよ! ランッ……」
【RUN(=走ること)・レンジリー所持魔溜石、B、C、E、H、I、L、M、『N』、『R』、R、S、T、『U』、W、Y】
レンジリー先生が『RUN』を発動し、壁際から一気に相手へ迫る。そして両手で剣を振り下ろした。
「ブルー・ブッチェリー!」
【BUTCHERY(=大虐殺)・レンジリー所持魔溜石、『B』、『C』、『E』、『H』、I、L、M、N、『R』、R、S、『T』、『U』、W、『Y』】
青い大きな円弧の気が何発も出て、男を斬りつける。その派手さからして特大攻撃魔法のようだ。
男は黄緑の気をまとった二つの『エイト剣』をクロスさせ、防御。しかし、さすがに体勢は崩れ、両の腕が左右に開いた。
だが……空いた胸で、レンジリー先生の斬撃を受け止めた。
防具に裂け目が入る。肌に深い傷が付き、赤黒い血が飛び散る。体も数メートル下がった。しかし、耐え切った感じだ。
「防御魔法が破られたと思ったのに……体で受け止めた?」と、俺は目を瞬く。
レンジリー先生も驚いたようだが、しかしすぐさま地面に気を当て跳び、銀髪男に迫った。
空中で剣を振り上げ、落下しながら振り下ろそうとするが、先生の動きが一瞬止まった。
その隙を突かれ、相手に反撃される。
相手の剣先がレンジリー先生を突き飛ばした。
「先生! 何で振り下ろさなかった?」
その俺の疑問は、自分ですぐに答えが出た。
こちらに向かれている男の顔が、香取先生の顔に変化していたのだ。いつの間にか『MASK』という魔法を発動して顔を変えたらしい。
動揺したレンジリー先生は、斬りかかることを躊躇してしまったようだ。
「ああ、もう~! 本物じゃないとわかっていてもやり辛いわね……!」と、レンジリー先生は眉を険しくする。
そんな先生に向かって、銀髪男は『BAZOOKA』を放った。
レンジリー先生は防御魔法を築くが半端になって、破られた。赤い『砲弾』を受け、彼女は後方の瓦礫の中へ突き飛ばされた。
「先生! クソッ……! 今度は俺だ!」
俺は剣を構え前進した。
「お前も『牙』生か? 次から次に……。『牙』と言う所は、無駄死にすることを教えているのか?」
銀髪男はわずかに口の端を吊り上げて言った。
「お前はその顔、もう変えなくていいのか? ハリウッドスターの顔とかの方がいいんじゃないの、死んだ時にさ!」と、俺はつよがる。
双方の『エイト剣』同士がぶつかり、気の欠片が飛び散る。
相手は香取先生の顔から元の銀髪男の顔に戻っている。おそらく『MASK』で顔を変え続けているのは、魔法力を消費して大変なのだろう。
「俺はこれでいい。それより、お前は赤いマスクを被ることになるだろう」
銀髪男が攻撃魔法を放った。
俺はそれを何とか弾いて逸らし、再び刀身に青い白い気を溜める。
「それはお前が被れ! パーフェクト・ヒットッ!」
【HIT(=打撃の当たり、命中)・カケル所持魔溜石、A、E、G、『H』、『I』、N、P、R、S、『T』】
「モーセ」
俺が放った『HIT』の青白い弾丸が、あっさり左右に割れた。男の横を過ぎて行った二つの気は、後ろの壁を砕いた。
「チッ……」と、俺は舌打ち。
今度は男が片方の剣を低く横に振った。
「スネーク」
【SNAKE(=蛇)・射水所持魔溜石、『A』、A、B、D、『E』、『K』、M、『N』、O、O、『S』、S、U、Z】
『蛇』のようにクネクネした黄色い気が這って迫って来る。
この魔法は俺もかつて食らったことがあった。その時は、上に跳んでかわしきれると思ったが、気から伸び出した小さな稲妻のような光の筋に足が当たってしまったのだ。
だから、今度は『TRIP=旅行』で横へ逃げた。しかも『SET=セット』によって『TRIP』を連続発動し、男との距離を一気に広げた。
奏功し、『SNAKE』をかわしきった。
さらに、ダブルの『TRIP』で左斜め前に進んで行った俺の目の前に、壁。それを勢いよく蹴り、反動で男の背中に迫る。
「デビルズネイル・リップッ!」
【RIP(=引き裂き、裂傷)・カケル所持魔溜石、A、E、G、H、『I』、N、『P』、『R』、S、T】
銀髪男は二つの剣をクロスさせ防ごうとするが、不十分だったのだろう、気の一部が男の首や肩に刀傷を付けた。赤黒い血が噴き出る。
ただ、男の表情はそれほど変わらない。
「本当は痛いんだろう? 泣き顔のマスクに変えたらどうだ? パーフェクト・ヒットッ!」
素早く振った俺の剣から、『HIT』の気の『弾丸』が飛び出す。
「モーセ……。無駄死にを教える『牙』の代わりに、俺からも教えてやろう」
相手の『MOSES』と言う防御魔法によって『HIT』の気はまたサイドに割られた。
それならば、と、俺は間髪入れず剣を振り下ろし、『レイン・オブ・ペイン』を発動。
【RAIN(=雨)・カケル所持魔溜石、『A』、E、G、H、『I』、『N』、P、『R』、S、T】
その名の通り、雨のような……いや、槍のような鋭い火焔の気が10ほど、男に降り注いでいく。
しかし、男は小さく「ドーム」と言って、黄緑の防御魔法のドーム型の気に包まれ、『RAIN』を壊していく。
男は俺を見据え、先ほどの続きを口にする。
「戦場で何人殺しても、与えられる本物の勲章は一つだけだ……生きて帰ったという、命という勲章一つだけ」
男の剣から放たれた一撃が、俺の張った防御魔法の気を壊し、斬撃を与えてきた。
「ぐはっ!」
俺は吹っ飛び、何メートルも後ろで転がった。
魔法を受けた痛み、地面に叩きつけられた痛みもあるが、地面には歪なコンクリート片が幾つも転がっているから、それでも傷を負った。全身、痛すぎる……。
「せ、瀬戸さん……! バインさんっ!」
【VINE(=つる植物)・桜川所持魔溜石、A、D、『E』、E、G、『I』、L、『N』、R、『V』】
桜川の細い声が聞こえた。痛みに耐えながら、彼女が『エイト弓』から攻撃魔法を放ってくれたようだ。
放たれた黄緑に光る『矢』は、空中でクネクネとした蔓のような気に変わり、銀髪男の腕に絡みついた。
死角からの攻撃に対処が遅れたようだが、男はもう片方の手にも『エイト剣』を持っている。それを使って、左腕に絡みついている『VINE』の気を散らし始めるが……。
さらに美咲が続いた。『エイト剣』を真下に振り下ろす。
「トン・ブラストッ!」
【TON(=重量の単位・トン、およそ1000kg)・琴浦美咲所持魔溜石、A、B、D、E、『N』、『O』、R、『T』、U】
男の真上に巨大な樽のような形の黄緑色の気が生まれ、それが勢いよく落ちた。美咲が発動できるようになった特大攻撃魔法の一つ、『TON』だ。
1トンの物が落ちたような破壊力で銀髪男を潰す。爆音と共に砂埃が上がって、男がいた場所を中心に、地面に亀裂が走った。
敵にも時折優しさを見せてしまう美咲にしては、大胆な攻撃だった。近くにいる鹿角の指示もあったかもしれない。
魔法剣士ではない者はもちろん、魔法剣士でも防御魔法をせずにまともに受けるとかなりのダメージになるだろう。
しかし美咲が躊躇なく使ったのは、それだけ手ごわい相手だとわかっているからだ(もっと前から戦っている鹿角なら、なおさらわかっているだろう)。
一方、銀髪男は片手の剣を掲げ『TON』の一部を破壊、ダメージを最小限に抑えたようだ。
「そ、そんな……」
「止まってはダメ! みんなで攻撃を繰り返すのよ!」
戸惑う美咲にレンジリー先生が叫び、膝を突いている相手の男に向けて走り出した。美咲も前進する。
俺も気を地面に当て、瓦礫を跳び越え、一気に迫る。
銀髪男は膝を突きながらも、レンジリー先生と美咲の攻撃魔法を押し返した。跳ね返された気が、二人の傍の壁や床を砕く。
俺はと言うと、空中から振り下ろした一撃で相手の肩を叩いた。
青白い気の残滓と男の防具の欠片に混じり、何かが飛び散った。一瞬目をやって、どうやらそれが血まみれの肉片だとわかった。
しかし……。
「体を斬られても、本当に顔色を変えない奴だな……。だけど、防具なしで直に体を斬られたらどうだ? ホーリー……ストリップ!」
【STRIP(=ストリップ)・カケル所持魔溜石、A、E、G、H、『I』、N、『P』、『R』、『S』、『T』】
着地後、体の向きを変えた俺はそのまま男の背中に向けブーメランのような気を飛ばす。相手の防具を外す特殊攻撃魔法・『STRIP』だ。
だが! その前に、見えている景色が回転した。先ほどと同じ魔法、『MAZE=迷路』を使われたのだ。
俺の前から銀髪男はいなくなり、代わりにいるのは剣を振り下ろした格好のレンジリー先生……。
俺の刀身から放たれた青白い気は、先生の肩を掠め、斜め上の天井に当たって消えた。
その直後に聞こえたのは、後方からの悲鳴だ。美咲のものだった。
一瞬振り返ると、美咲は俺の後ろの壁際に跪いていた。直後、その壁には穴ができる。
「琴浦さん! ごめん!」とレンジリー先生が言ったことから、先生が銀髪男に向けて放ったはずの気が、『MAZE』によってその場に現れた美咲に当たってしまったのだろう。
一方美咲が放った気も、彼女の体の向きからすると壁に当たったようだ。
「え? な、何よ、これ……?」
レンジリー先生が、美咲を心配してから少し経って、自分の状況にも気づいた。
俺の放った『STRIP』の気が、先生の『牙』教師用防具の肩甲を壊し、胴鎧のベルトも壊していた。
レンジリー先生の胴鎧はそのまま外れて下に落ち、下のシャツ、スポーツブラが裂け、胸のふくらみが露わになった。
「あ、あ、先生のおっぱ……」
鳩ケ谷よ、お前が後方で待機している間、俺はとんでもないものを見たぞ!
「ぶおっ!」と、俺はいきなり背中を押し飛ばされた。
「瀬戸君……よそ見をするな!」
香取先生が俺の後ろに体をねじ込み、銀髪男の斬撃から護ってくれたようだ。
先生はさらに相手へ攻撃魔法を放つ。
相手は後退させられたが、香取先生の方もこれまでずっと戦っていてダメージが蓄積されているようだ。息は荒いし、メガネに少しひびが入っているし、頭から血も流れている。
「瀬戸君……とにかく離れなさい!」
レンジリー先生に冷たく言われ、俺は我に返った。押されたことで彼女に抱きつき、手は柔らかな胸に触れていた。
「あ、ああ、はい……ぶっ!」
俺は苦笑いし手を離すが、ビンタされた。
「最後に一回揉まない!」
しかし、先生はさすが『牙』の教師というべきか、それほど顔色を変えず冷静にブラを引き上げながら、素早く後ろに下がった(防具の修理をするためだろう)。
【挿絵】レンジリー先生




