第6話・告白
「……まず、君達には共通点がある」
集められた『囚われの身』の俺たちを見回しながら、パチンコ玉みたいなオッサンが渋い声で、おもむろに話し始めた。
「それぞれの部屋で担当の者たちと話し、何となくわかっているだろう?」
椅子に座る者たちへ投げかけられた言葉だが、答える者はいない。
剣呑な沈黙が続く。
それを破ったのは、俺の左前にいた明るい茶色に髪を染めた若い奴だった。
「……家を荒らされて、強引にここへ連れて来られた」
そう言ってから、自分で小さく声を出して笑った。
推理小説なら最初に殺されるタイプの人間だ。
彼につられて他にも笑った奴がいたが、部屋に充満している緊張感はまったく変わらない。
冗談を飛ばしたつもりの本人も、だんだん自信を喪失し、何で自分が笑ったのかわからなくなったかのように暗い顔に戻っていった。
今のくだらない失言のせいで、皆の前に座るパチンコ玉をはじめとした三人の男、そして壁際に立ち並ぶひげ男や金髪男をはじめとした男たちの目つきが一斉に鋭く変わった気がする。
パチンコ玉の左に座る岩のような顔の男が、顔をしかめながら言い継いだ。
「君たちは全員、同じ研究施設で働いていた者の家族、あるいは親しい関係にある者だ。宇宙にある新エネルギーを研究していた『キルデビルヒルズの空』の研究員の関係者であるという共通点があるのだ。……残念ながら研究員本人は一人もいないが」
岩のような男は本当に残念そうにうなだれた。
パチンコ玉が続ける。
「……もしかして君たちの中でも、顔見知りの者がいるのではないかね?」
それを聞いて、椅子に座っている者たちは顔を見合わせた。
俺も前方からいくつかの視線を感じ、とりあえず見つめ返すが、その中に知っている顔はなかった。
一人だけ一瞬覚えのある顔だと思ったのだが、テレビで見たテニスの試合に全裸で乱入した男に似ていただけだった。
みんなが視線を交わし合っている中、メガネを掛けた一人の中年女性が向かいに座っている青年を指差して、交差点の向こう側の人に呼び掛けるような大声を上げた。
「あなた! 会ったことがあるわ。挨拶も交わしたと思うけど、覚えているかしら? うちの父親がさっき言われた研究施設で働いていたのよ。そこの忘年会か何かで会ったでしょう?」
「え、ああ……確かに母親が『キルデビルヒルズの空』……だっけ? そこの研究員で、忘年会に連れて行かれたことがあるけど……人の顔まで覚えてないかな。でも母が研究員なのは確かだよ。みなさんの家族もそうなんですか?」
青年がそう言いながら見回すと、みんな肯定したり小さくうなずいたりした。
特に反応しなかったが、俺もそうだ。
パチンコ玉たちが言うように、ここに座らされた十数名の男女には、『キルデビルヒルズの空』の研究員である家族や知り合いがいるようだ。
一つの共通点がわかったことで、一同の中に親近感のようなものが生まれたのだろう。どんよりしていたその場が一時和やかな雰囲気に変わったような気がした。
しかし、甲走った女性の声がして、また緊張の糸が張り詰める。
俺の斜め右にいた、いかにも気の強そうな女の子が口を開いたのだ。
「確かに私の母方のおじ様もそこで働いておりましたわ。でも、私のお父様は関係ありませんの。お父様は『白鷹スターカンパニー』の社長ですから。皆様もご存じでしょう、『白鷹スターカンパニー』を。私はそこの一人娘、白鷹せいらです。『聖人君主』の『聖』に、『森羅万象』の『羅』と書いて『聖羅』。だから、おじ様のお仕事とお父様……ましてや私とは何の関係もないのです。なぜ、私がこんな刑務所のような場所に連れて来られ、監禁されなくてはならないのかしら?」
白鷹聖羅と名乗ったその女の子は脚を組み、縦ロールにした薄い金色の綺麗な髪を指先でいじりながら、いかにも不機嫌そうに言った。
襟元に凝った花の刺繍が入ったエレガントな白のカーディガン、ひざ丈のネイビーのフレアスカートという服装は、パーティー会場か豪華なレストランを抜け出してきたようでこの場では浮いている。
本当に社長令嬢らしい見た目だ。
服装や化粧は少し背伸びをしているが、顔立ちも悪くない。柳眉に、綺麗に通った鼻筋、時折人を見下したように細められる大きな瞳も綺麗だ。
現在可愛らしさと美しさの途中の段階にいるという感じだ。
それだけに、眉間にしわを作らない方がもっと綺麗だろうと思うのだが、こんな状況で笑顔を作る方が難しいか……。
社長令嬢だからなのか、怖いもの知らずの強気な口調。
それには少し感心さえしたが、ただ単に世間知らずで、この状況に対する危機感が薄いだけなのかもしれない……。
「お嬢ちゃん。それはあんたが連れ去られた日、そのオジサンの家を訪ねていたからなんじゃないのかい? だからこの男たちに目を付けられたんだ、きっと……」
白鷹の隣に座っていた初老の男性が、周囲に立つ武装した男たちを窺いながら小声で言った。
「だから……たまたまですわ。一人暮らしだったおじ様が帰ってこなくなって空き家になっていた家……それもお母様が懇意で貸していた家なのですけど、そこをたまにお掃除する家政婦さんが新しく代わったため、学校帰りに私が案内しなくてはならなくなっただけですわ。それだけです。そうしたら、たまたまその時、この人たちが現れまして……」
白鷹は臆することなく、自身の背後に立つ男に冷ややかな目を向ける。
「おじ様の家の中を荒らし回り、私たちにわけのわからないことを質問したかと思うと、最後は眠らされて……。気がついたら家政婦さんはおらず、私だけが狭い部屋の硬いベッドの上に……」
彼女が今閉じ込められている部屋がどんなものか見ていないので何とも言えないが、もし俺と同じくらいの広さの部屋が与えられているのだとしたら、あれを狭いと言えてしまうあたりはさすがお嬢様だと思う。
それはともかく、白鷹が連れて来られた状況は俺と似ていた。
他の連中も頷きながら彼女の話を聞いていたので、似たり寄ったりなのだろう。
見ず知らずの男たちが突然現れ、家の中を荒らし、最後には麻酔銃ならぬ麻酔剣で眠らされ、いつの間にか運ばれてきたわけだ。
ただ一人、先ほどのメガネをかけた中年女性の隣に座っている痩せ型の男だけが、妙に落ち着きなく体を揺すっているのを俺は見逃さなかった。
男は何かを言いかけたが、言葉を飲み込んだようだった。
「静かにしたまえ」
白鷹の避難の言葉や、周りの者たちの賛同する声を黙って聞いていたパチンコ玉だったが、そこで机を叩き、一同を黙らせた。
再び重い空気が張り詰める。
「とにかく……我々は、君たちの家族や知人が働く研究所と協力して新エネルギーの研究、開発に努めていた。そのエネルギーの源とは、君たちももうご存知だろう……魔溜石だ。研究所と我々が相互に協力し、魔溜石エネルギーの開発は概ね順調に進んでいた。が、しかし……」
パチンコ玉は、両肘を机につき手を組んだ姿勢で数秒間固まった。
そして重く息を吐き出し、続けた。
「一つ大きな問題が生じた……。その解決策については、彼ら『キルデビルヒルズの空』の研究員たちの、少なくとも一部の人間は知っているはずなのだが、君たちも知っている通り、彼らは姿を消してしまった。我々に問題だけを残して……。そのため、問題解決の鍵を我々だけで探さなくてはならなくなった」
「その鍵を俺たちが握っていると……?」
長机に近い席に座る、ボサボサ頭の若い男がそう呟く。
パチンコ玉の右隣の男が初めて口を開いた。
「そう。あの段階……つまり君たちを連れてくる前までは少なくともそう考えていた。いなくなった研究員たちの代わりに、彼らと近しい間柄である君たちから何か情報を得られればと……」
男は小さなメガネを掛けていて、周りの男たちと比べて細身だ。
いかにもその頭脳を買われて今のポストに就いているという印象を与える。
男はメガネのブリッジを中指で押し上げ、話を続けた。
「個人個人の尋問が進むにつれ、なかなか有益な話も得られたのだが、核となることについては未だわかっていない。だから今日はこうして君たちを集め、自分の知っていること、耳にした情報を語り合ってもらい、それをきっかけにして思い出すことがないか試しているのだ」
ボサボサ頭の男は襟足を掻きながら、首を傾げた。
「だったら、最初からそう説明してくれれば……。こっちの時間が空いた時に家とかファミレスとかでゆっくり話しできたのにさぁ。って言っても、俺は時間かけても大した情報を提供できないですけど……」
「ファミレスとは、ファミリーレストランの略だな? まぁ、それはもっともだ」と、パチンコ玉が仰々しくうなずく。
「しかし我々はあの日……君たちをここへ連れて来た日、一刻も早くやるべきことをやらなくてはならなかった。研究者の自宅などに残された資料、メモ等をかき集め、そして君たちを……君たちの中に入っているかもしれない魔溜石研究についての知識、それらを得るための時間が限られていたのだ」
「あの時は我々も想定外の事態に、少し混乱をきたしていてね。強引なやり方を取ってしまった。申し訳ないと思っている」
メガネの男はさほど反省していないような顔で言った。
その時、俺の右隣の女性の肩が小刻みに震えているのが目に入った。
先ほどからずっと俯き、その小さな両手は太もも辺りのスカートを握りしめている。
こんな状況でありながら、不謹慎にも可愛らしい子だと思ってしまった。
セミショートのチョコレート色の髪が前に流れて顔の半分を隠していたが、時折見える白い頬には光るものが伝っていた。
強引に連れ去られた時のことを思い出し、また恐怖が押し寄せてきたのだろうか。
彼女のこぼれ落ちる涙と縮こまった細い身体が、俺の胸を締め付ける。
この場には白鷹やメガネの中年女性をはじめ六名ほどの女性がいるのだが、彼女が最もか弱く見えたし、この環境に耐えかねている様子だった。
「強引にもほどがあるぜ……」と、茶髪の男が漏らした。
中央に座らされた者たちの中で最初に口を開いたあの男だ。
怒っているようにも笑っているようにも見える表情を浮かべている。
気がつけば俺も後に続いて発言していた。右隣で泣いている子のためという思いもあったかもしれない。
「本当だ! 麻酔みたいな物で眠らせて、こんな所に何日も閉じ込めて、尋問、尋問って……。知らないものは知らないんだ。いい加減に解放しろよ? もう限界だ!」
俺が喚くと、背後の壁際に立っていたひげ男や金髪男が小声で制止しようとした。
まるで他の教師に盾突く不良生徒を止める担任教師といった感じだ。
それでも俺は続けた。
「こんなことをする労力があるなら、俺の親父や、ここにいる人たちの家族……事情を把握している研究所の人間を捜し出す方に力を注いでくれよ!」
「もちろんそっちの方も並行して行っている」と、パチンコ玉は曇った顔つきのまま嘆くように言った。
「……手を尽くしたと言ってもいいぐらいだ。それに、君たちもいずれ解放することを約束しよう。ただその前に、一度こうして君たちを集め話し合ってもらい、魔溜石に関しての知識をできるだけ絞り出してもらうことにしたわけだ」
「だから、こうして誰かが無駄に抵抗し本筋から脱線している時間、それだけ君たちが解放される時も延びてしまうことになるのだ。わかっているかね?」
岩のような顔の男が苛立ち気味に言葉を吐き出すと、一旦場が静まり返ったが、すぐに白鷹がその白い手を挙げた。
「あの……解放されるって、いつです? それがわからないと不安で、話し合いをしようにもできないわ」
長机の向こう側に座る三人は顔を見合わせた。
そしてやはり、パチンコ玉が代表して口を開いた。
「正確には決まっていないが、そう先にはならないはずだ。今日のこの会合による進展次第では、数日以内に終わることもあり得る。まぁ、解放後も、何かあれば素直に協力をすると約束してもらうが……」
そして机を一度大きく叩いた。
「さぁ、君たちからの余計な質問は終わりだ。君たちが今考えなければならないことは魔溜石についてだ。どんな些末なことでもいい。思い出したことがあったら話すんだ。それが自由への近道になるのだ」
「ま、待ってくれ!」
再び話の流れを断つ声がして、パチンコ玉たちはあからさまに顔を歪め、不快感を露わにした。
口出ししたのは、先ほどから落ち着きのなかった痩せ型の男だった。
この状況に参っていそうな点では、俺の左隣の女性と引けを取らない奴だ。
男はレフェリーのカウントを聞いて必死に立ち上がるボクサーのように少しよろつきながら椅子から立ち、周囲に目線を泳がせた後、パチンコ玉たちへ向けた。
「し、質問はまだある。……あれは、あれは一体どういう現象だ? 個室にいる時からまともに答えてくれないじゃないか?」
震える声を振り絞る。
その男の発言の直後、俺の後ろでひげ男たちのものと思われる舌打ちが響いた。
もしかしたら、彼もひげ男たちが担当しているのかもしれないと思った。
男は構わず疑問を投げかけた。
「俺は……さっきは言い出せなかったが……連れて来られる時、うっすら意識があったんだ!」
途切れ途切れではあったが、男の言葉はしっかり俺たちの間に浸透し、どよめきを起こさせた。
一方、部屋の前に座る三人と、周囲に立つ複数の男たちも、わずかに波立つ。
彼らは近くにいる者と視線を交わし、何かを囁き合った。
やがて男たちの視線は一点へ集中する。それは俺の背後、ひげ男たちの方だ。
俺も首を回し肩越しにひげ男たちを見やる。
金髪男が肩をすぼめ、ひげ男に何か呟いていたところだった。やはりこの男たちがあの痩せた男の担当なのだろう。
俺たちの時と同じようにこの男を眠らせる際、何らかのミスがあって、男の眠りが浅くわずかに意識があったということなのだろうか?
男は泣き出しそうな声で叫び続ける。
「あんたらは俺を担いで車に乗せた。そしてどこかの広場に運んだんだ……! 他の連中もどこからか運んで来られた。そしてっ……」
金髪男が男に歩み寄って「静かにしろ」と言い、男を羽交い絞めにした。
後からひげ男と丸坊主も彼を取り囲み、三人で男を壁際の方に引っ張る。
しかし、そうされながらも痩せた男は声を絞り出す。
「……俺たちは突然光に包まれっ……」
「黙れって!」と金髪男は怒鳴ったが、痩せ型男は最後に言い放った。
「この建物の中に……瞬間移動してきたんだ!」




