第64話・美女軍団?『グラジオラス』 ≪キャラ挿絵≫
飲食店兼宿屋・『スピリット・オブ・セントルイス』。
琴浦姉妹が所属するパーティーの名が『グラジオラス』だと聞いて、鮫川が言った。
「カッコよくはないな」
「むむっ……あんたは誰?」と、パーティーのキャプテン・鹿角はそこで初めて鮫川に目が行ったようだった。
「カケル君の友達の鮫川くんだよ~。鮫ちゃんって呼ばれてるの!」
「お前しか呼んでねぇよ……」
鮫川が雛季に鋭い眼光を向けている間、美咲が付け加えた。
「前にも話したでしょ? カケル君と一緒に転移させられてきた人だよ。うちで寝泊まりしている……」
「ああ、君が鮫川君か……。キャプテンの鹿角愛海那、よろしくね」
鹿角は握手をすることなく、鮫川の手のひらを強く叩いた。
パーティー名をカッコよくないと言われたことを根に持ったようだ。
「ソレでぇ、二人もウチに入るんデスよネ~?」
茶髪の子が歩み寄って来て、深緑の目をしばたかせて訊いてきた。
その瞳の色、高い鼻、透き通るような白い肌と妙なイントネーションからして、この人はどうやら外国の血が入っているようだ。
「カケル君なら私もダンゼン、オーケーよ!」と、彼女が左腕に手を絡めてきた。
彼女も防具を外した状態で、上は薄ピンクの小さめのTシャツという格好だった。
それなので、体をつけられると、俺の肘には柔らかい感触がよく伝わってきた。
はにかんでいると、背後に回った黒髪の女性が、俺の肩に手を乗せてきて言った。
「私も歓迎よ。美咲ちゃんたちから話は聞いていたけど、本当にステキよ、カケル君」
「松川さん……! 私はそんなこと言ってませんからっ……。雛ちゃんが言っていただけです」
「フフフ、照れちゃって、美咲ちゃん……。でも、本当に素敵よ、カケル君。歳の差はあるけど、私もこれから気になっちゃいそう」
首筋に甘い吐息が掛かって、俺は思わず肩をすぼめた。
「杏華姉さん……。あなたは人妻なんだから、自重しなさいよ」と、鹿角に指摘されると、「旦那は仕事人間で、放置プレイが続いているんだもん……」と可愛らしく拗ねた。
どうやら彼女は松川杏華という名の人妻らしい。
「みんさん……パーティーを組むのは、不純な異性交遊のためではないはずですよ?」
続いて声を出したのはカウンター席に座っていた黒髪ショートボブの小柄な女性だ。
振り返って見せた端正な顔にはレンズが薄い眼鏡を掛けている。
彼女は立ち上がり、こちらへ近寄って言った。
「違うんだっけ? あ、私は同性交遊でもいいんだよ?」
鹿角がメガネ女性の腰に回した手を下げ、お尻を触った。
メガネ女性は顔を赤く染めながら、その手を払いのける。
「鹿角さんっ! キャプテンのあなたがふざけないでください……。コホンッ……二人の加入を認めるためには、まず彼らの剣士としての力量を見るのが普通でしょう? 美咲さん。二人は魔法剣士の能力があったと言うことですけど、現在どのくらいなのですか?」
「う~ん……まぁ、この前手にした魔溜石でそれぞれ魔法発動はできるようになったけど、まだ初期段階かな……」
「珠ちゃん。それはこれから強くなればオーケーでしょ?」
「そう、珠実だって剣の腕には自信ないってよく言っているだろ?」
ハーフ女性と鹿角が諭すように言うと、メガネ女性は身をすぼめた。
「そ、そうですけど……一応最低限そういうことは聞いておかないと、誰でもすぐ入れるパーティーだと思われても……」
「尻軽と思われる?」と、鹿角がニタニタして口を挟むと、メガネ女性は眉根を寄せ溜息をついた。
「わかるよ、坂出さん」と、美咲が彼女をなだめるように言った。
「二人が加入しても、戦力にならないと意味ないものね。でも、心配しないで。私と雛ちゃんでこれからも二人を鍛えていくから」
「私たちも、手取り足取り教えるよ」
鹿角がわざと艶めかしい声を出すと、ハーフ女性と人妻・松川さんも色っぽい身振りをした。
手取り足取り……。
色々な光景が浮かんできたが、一旦その雑念を追い払うように頭を振った。
「ちょ、ちょっと、待ってくれ。まだ、君たちのパーティーに入ると決まってはいないんだが……」と、俺。
雛季が「え~?」と眉を八の字にして言った。
鹿角をはじめ、他のメンバーも承知してくれない。
「よく言った、瀬戸。まったくだな。俺も思っていたのとは違った。全員女というのがなぁ。おまけに不真面目そうだし」と、鮫川は遠慮なく言った。
「お、おいおい……そこまで言わなくても」
さすがに彼女たちの気分を害するだろうと、俺は鮫川に鋭い視線を送った。
しかし当の彼女たちはそれほど腹を立てたという感じではなく、むしろ笑う者さえいた。
さすがに心底から笑っているとは思えないが、鹿角も口の端を上げていた。
「まあねぇ……真面目って感じではないけどね、ウチは」
「鹿角さん……。納得しないでよ」と、美咲。
「ヘヘヘ……あ、でも、女ばかりだからってナメてもらうのは困るなぁ!」と、鹿角は思い出したように怒った表情を見せる。
「美咲が魔法剣士としてなかなかできるのは、君たちも知っているでしょ? その美咲よりも私の方が……若干、上って感じ?」
美咲の肩に手を掛け、胸を張る鹿角。
「まぁ、それは本当だよ。彼女は……こんな感じだけど、魔法剣士としてはこのパーティーで一番優れているの」
「こんな感じって言うのはどういう意味よ?」と言いながら、鹿角は美咲の背後から前へ手を回し、彼女の胸を豪快に揉んだ。
「ハアウッ……そ、そういうことを言っているのよ……!」
俺は家族でテレビを観ている時にエッチなシーンが始まった時のような居心地の悪さを感じながらも、頬を染めて初々しい表情を浮かべる美咲をこっそり見ていた。
今までの感じからすると、この鹿角という女はいつもこうなのだろう。
どうやら同性にも興味があるようなことも言われていたし……。
きっと他の女性たちにもやっているに違いないと思うと……「そこ代われ」と言いたくなる。
呆れるとう言うよりは羨望の眼差しで見ていた俺に対し、鮫川はへその臭いを嗅がされた奴のように、余計顔をしかめた。
「この中で一番と言われてもな……。他は大したことなさそうじゃないか?」
「ブ~! そんなことないよ~。雛季だってがんばったじゃん!」
雛季が相変わらず迫力のない怒り方をすると、鹿角は、今度はその雛季を抱き寄せて頭を撫でた。
「そうそう、雛季もなかなかだよね~。それに他の子だって……」
鹿角は雛季を抱きしめながら、他の者たちへと視線を巡回させる。
少し黙ってから、「……ほら、みんないいカラダしているじゃん?」と言った。
「だから、そういうことじゃないって!」
この中ではまともだと思われる坂出というメガネ女性と美咲だけが、眉をひそめてツッコんだ。
その他の者は笑うか、自分の体のラインを強調するような身振りをしている。
真っ先に前に出てきたハーフ女性は後者で、自分の腰に手を添えて言った。
「ハ~イ、私、玉城フェリシー。プロポーションには自信ありマ~ス!」
「フェリシーは地球のヨーロッパ人の血を引いているの。だから……夏はトップレスで過ごしちゃうのよ、カケル君」
鹿角が俺に身を寄せて囁いた。
「ヨーロッパの人がみんなそうだとは限らないが……それがマジなら……」
夏よ、早く来い!
……と心揺らいだが、美咲や鮫川の冷たい視線を感じて顔を引き締めて言った。
「いや、俺たちがパーティーを選ぶ理由はそういうところじゃなくて……」
今度は人妻がスラッと長い手を挙げて、微笑みながら前に出てきた。
「私、松川杏華は、マッサージでみんなの疲れた体を癒すのが得意だわ。旦那様も昔は褒めてくれたんだけど、今は本当に仕事ばかりで私を鬱陶しがるし、別居中だし……」
「ああ……杏華姉さんの愚痴はもういいから……。珠実もね、真面目でムッツリなところがあるから、殿方の気持ちよくなることも勉強していると思うのよ」
鹿角が坂出の肩を叩いて紹介すると、坂出の方はさらに眉間にシワを作って「してません!」と強い口調で否定した。
その後も鹿角が、店内の奥の方にいた女性メンバーの良い所をアピールしようとしたが、鮫川の大きな溜息がそれを遮った。
「ハァ~。そういうエロアピールされても、瀬戸のような男しか釣れねぇぞ」
「お、俺だって別にノッてねぇよ……」と、弱々しく言う。
「何よ……鮫川君って本当に硬いわね」と、鹿角が困り顔で頭を掻いた。
そこで雛季が口を挟んできた。
「鮫ちゃん、鮫ちゃん! あのね、女の子だけじゃないんだよぉ。このパーティーに入れば、丸さんのおいしい料理が格安で安く食べられるんだよ?」
「あん? 誰だ、その丸さんって……」
「丸森さんのこと」と美咲が妹の言葉を継いで、カウンターの向こう側を指した。
「この店のマスター夫婦。『グラジオラス』はここを拠点のようにいつも利用しているから、料理も飲み物も少しだけまけてもらえるの。ここの料理は本当においしいよ」
自分たちに話題を振られ、マスター夫婦は揃って作りかけの料理から視線を上げた。
アフロでひげもじゃの小柄な旦那と、ぽっちゃりとした大柄な奥さんという組み合わせの、まるでチョウチンアンコウのように体格差のある夫婦だ。
「本当は正規の値段払ってほしいんだがなぁ、ガハハ」と旦那の方が豪快に笑うと、奥さんの方は冷めた目を向けて言った。
「あんたが若い娘に弱いから、いつの間にかまけることになったんでしょう?」
「そ、そうだったか? ハハハ……まぁ、いつも食ってもらっているからいいじゃないか、ガハハ」
「それじゃあ、丸さん! 今日はカケル君たちの歓迎会ということで、何か二人にサービスしてあげてよ?」
「そう来たか……参ったなぁ。じゃあ、ピラフでいいかい?」
俺は、内装の汚さからそんなに景気がいいとは思えないマスター夫婦に気を使って最初は遠慮したのだが、気兼ねすることを知らない鮫川の「もらえるもんはもらおう」という言葉と、やたら料理を勧めてくる雛季に押されて、俺も御馳走されることになった。
「丸さ~ん! カケル君にソーセージも付けてあげてよ~」
雛季がさらにサービスを要求すると、旦那は困り顔にも嬉しそうな顔にも見える表情で、了解した。
奥さんが言ったように、このオヤジが女性に弱いということがわかった。
そして、カウンター席に座った俺の前に出された料理を、物欲しげに見つめてきた雛季が、自分もそのおこぼれにあずかろうと思ってあんなに尽力していたのだということもわかった……。
今にもよだれを垂らしそうな顔をして傍で見られていると食べにくい。
仕方なく彼女にもピラフとソーセージを分けてあげると、待っていましたと言わんばかりの顔で喜ばれた。
「じゃあ、これだけもらうね?」と、自分の皿の上にピラフを少し移した雛季は、しばらく黙考した末、「もうちょっとだけ、もらおう!」と誰の許可もなくさらにピラフを自分の皿へとよそった。
その上、ソーセージは半分以上取られ、その際さらにその下のピラフを追加で持っていきやがった。
まぁ、幸せそうに食す雛季の顔を見て、文句を垂れる気はなくなったが……。
そして共に半分以下になったピラフとソーセージを口にすると、本当にうまかった。
「ね、おいしかったでしょ?」
「こんなおいしい料理がいつも安く提供してもらえるんだよ? ウチらといると」
美咲や鹿角が笑顔で言った。
「いつもじゃないよ、愛海那ちゃん……?」と囁くマスターの奥さんに愛想笑いを返してから、鹿角は付け加えて言った。
「おいしい料理にいい女たち! 『グラジオラス』に入るっきゃないね、カケル君?」
「確かに女性が多いのは嬉し……」と、危うく本音を漏らしそうになった中途で、隣の鮫川が唸るような声を上げてから言った。
「まぁ~、飯はうまかったが……女は関係ないし、重要なのはこのパーティーがどんだけ強いかってことだ」
「……その通り」と、俺はとっさに方向転換する。
「かぁ~、しぶといねぇ、君たち」と、鹿角はカウンターに突っ伏しながら呟いた。
「ソウダ! ホラ、杏姉がMっ気あるっていうのも、ボーイズにはタマらないんじゃな~い?」
玉城というハーフ女性が人妻・松川さんの長い黒髪を後ろへ流し、露わになった白い首筋に、自分がつまんでいる氷をあてがった。
松川は何ともセクシーなよがり声を発し、体をくねらせた。
何だ、このハレンチな人たちは……と思いながらも、このパーティーに加わればこういう光景が日常的に拝めるのかと妙に胸が昂っているのも確かだ。
挿絵・左、松川杏華、右、坂出珠実




