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第63話・姉妹所属のパーティー   ≪キャラ挿絵≫

 喫茶店『アイラブコーヒー・アイラブティー』で、俺の正面に座る美咲の眉が下がって、わずかに沈んだような表情になった。

「ハァ~……気持ちはわかるけど、そんなに焦らなくても……。もし、魔獣を倒したり魔溜石を集めたりしたいなら、君たちだけではダメだよ? 魔巣窟に行くにしても依頼をこなすにしても、一緒に行動する仲間がいるよ」


「いわゆる……パーティーってやつだな?」

 俺が言うと、美咲はゆっくり頷いた。

 その横で雛季が両拳を握って、はしゃいだ声を上げた。

「カケル君たちも雛季たちのパーティーに入ればいいんだよ!」


「君たちのパーティーに……?」


「そうだね。入るのなら、私たちと一緒がいいね。カケル君たちを護ることもできるし。それにうちらのパーティーに入れば、少なくとも魔法剣士の生活に慣れていない初めのうちは、納税義務の問題も助かるわ。一般市民は中央本部へ毎月いくらかの納税があるんだけど、それを魔溜石で払うことができるの。と言うか、中央本部は魔法剣士なら魔溜石で払う方を推進しているぐらいよ。それでパーティーでは、獲得した全員の魔溜石からメンバー分の納税をまとめて行うの。余った分はパーティーのストックにするか、メンバーに分配されるのだけど、まずはみんなの納税が先」


「つまり、活躍した奴が他のメンバーの穴埋めをするわけか……」

 俺の言い方に少し不満のニュアンスを感じ取ったのか、美咲はすぐに言った。

「でも、うちのメンバーの能力はみんな似たり寄ったりで、持ちつ持たれつって感じなの。それに、今の君たちが得するのは間違いないよ?」

 

「まぁ、そう言うのなら……」

 どうすればいいのか正直何もわからないので、俺は曖昧な返事をした。


 一方で鮫川は、両手を組んでソファの背もたれへふんぞり返った。

「しかし、お前たちのパーティーというのは小さくて稼ぎも少ないとか言ってなかったか?」


「そ、そうだけど……」と、明らかに動揺した美咲。

 雛季はすかさず「でも、みんな楽しくていい人たちなの!」と負けずに言った。

「そうね、雛ちゃん。みんないい人だよね。少しだらしない人もいるけど……。何より私たちがいるんだよ? 知っている人がいない集団の中に飛び込むよりは不安がなくていいでしょ? 明日の午後さぁ! パーティーに時間ができるの。君たちの方も、お父さんたちに農園の手伝いを早く切り上げさせてくれるよう頼んでおくから、よければ一度見に来ない?」


「ああ、俺は構わないけど……」

 そう言ってチラリと隣に目を向けると、鮫川も渋々というように頷いた。


「でも、そんなに簡単に入れさせてくれるのか?」と俺が質問を投げかけると、美咲は即答した。

「うちは大丈夫! いつでもウエルカムって感じだよ。パーティーのキャプテンたちもカケル君たちの話をすると、いつも会ってみたいって言っていたし」


「そうそう。カケル君のことカッコいいって話したら、みんな急に突然会いたいって言い出したんだよ~、アハッ」


「カ、カッコいいって言ったのか? ……ハードルを上げてくれたな」

 自分のルックスにそれほど自信があるわけじゃないし、現に向こうの世界で女子たちにチヤホヤされていたということもない……。

 この『惑星サライ』に暮らす女性たちの、男性に対する基準というのはイマイチわかっていないが、日本と大して変わらないだろう。

 そうなるとやはり、姉妹のパーティーの女性たちを幻滅させそうで怖くなるが、隣にいる鮫川を見て多少気を取り直すことができた。

 常に彼を横に置いて、自分を引き立たせる効果を期待しよう……。


「……よし。じゃあ、とりあえず、鮫川と一緒に見に行ってみよう」


「うん。じゃあ、明日の午後ね。いつもパーティーが集まるお店に行って、みんなを紹介するね」


「また、いらっしゃってくださいね」と愛らしい笑顔を向ける星野さんと、ガンジーのように喋らない日というものを決めているかのように本日まったく口を開かなかったマスターの一瞥(いちべつ)に見送られながら、『アイラブコーヒー・アイラブティー』を後にする。




 琴浦家に帰宅すると、見慣れぬ顔がリビングにあった。

「ああ、お帰り。美咲ちゃん、雛季ちゃん」

 今や鮫川の専用になりつつある一人掛けソファに腰を掛けていた、その見知らぬオバさんは、玄関の方を振り返って小さく手を振った。


「あ、オバさん! いらっしゃっていたんですか?」

「わぁ、オバさ~ん! こんにちは~」

 姉妹は表情を緩め、その人の元に駆け寄った。


「あら、こないだ会った時より大きくなって……特にお胸が。フフフ」とオバさんは、ハグした雛季の胸元と美咲の胸元を交互に見て微笑んだ。


「も、もう~、オバさんったら……」

 美咲は眉根を寄せ、自身の胸元を隠すように身体の向きを傾けた。


「私もお母さんも大きいでしょ? 家系なんだね、家系」

 そう言ってまた笑ったオバさんに、テーブルを挟んで床に座っていたお袋さんが溜息をついて言う。

「もう、姉さん……。ちょっとは遠慮してよ」


「フフフ……。そうね、調子に乗りすぎたわ。これからはおとなしくします……」

 オバさんは口に添えた手でチャックを閉める仕草をした。

 その仕草がこっちの世界……一〇〇年以上経っても使われていることに驚いた。

 

 その後の美咲やお袋さんの話では、そのオバさんはお袋さんの姉……琴浦姉妹にとっては伯母(おば)さんにあたる人らしいことがわかる。

 お袋さん側の家系の人だから、俺とはさほどは関係ないことになる。

 親父さんと一緒にダイニングにいたオジさんはその人の旦那だ。旦那の方は全体的に、苦労がにじみ出ている印象を受ける。


 何でも二人は『北西エリア』でレストランをやっているそうだが、その話を美咲がすると、伯母さん夫婦、そして琴浦夫婦もなぜか沈んだ表情になった。


「ねぇ~、伯母さん」と、雛季が彼女の肩を叩き、こちらは変わらず明るい声音で訊いた。

「お土産は~? 前に買ってきてくれたクッキー、おいしかったな~」

 ねだるように言ってから、雛季はリビングをキョロキョロ見回し、壁際に置いてあったその夫婦のものと思しき荷物に目を留めたようだ。

 やけに大きなカバンが三つ、四つ並んでいて、お土産が期待できそうだと思ったか、雛季は口元に笑みを浮かべる。

 

 しかし、伯母さんは困惑した顔でかぶりを振った。

「ごめんね、雛季ちゃん。一応お菓子は持ってきているけど……今日はそういうんじゃないのよ……」

 

 不思議そうな顔をする雛季。

 美咲が先に「どういうことですか?」と問いかけた。


「実は……私たち、レストランを畳んだのよ……」


「えええ?」

 姉妹はびっくりしたようで、二人ともけったいな声を上げ、お互いの顔を見合わせた。


 だから、美咲がレストランの話をすると暗い表情になったのだ。


 そこからはお袋さんが話す。

 どうやらその店は『アイラブコーヒー・アイラブティー』と同じように、テレビジョンを目玉にしていたらしい。

 しかしやはり放送がなくなって客足が減り、赤字が続いていたらしい。


 さらに、借りていた家も出ることになって、しばらくは琴浦家に居候したいということだった。

 もちろんその分、家事や農園の手伝いをしてもらうらしい。


「ごめんね、美咲ちゃん、雛季ちゃん。それにそこの男の子たちも。しばらくお世話になるわね」

「できるだけ迷惑にならないように静かにするから……」

 伯母さんは涙声で、旦那さんは寂声(さびごえ)で言って、頭を何度か下げた。


「気にしないで、伯母さん、オジさん。中央本部の強引な政策や課税が厳しくなっていることもよくわかっているから……。家族同士助け合わなきゃね」

「雛季も大歓迎だよ~!」


「ありがとう、本当にありがとうね!」と、伯母さんは立ち上がり二人の手を強く握りしめた。

 

 その後ろで鮫川が肩をすくめ言った。

「まぁ、俺も構わねぇけど」

「当り前だ! 俺らも居候の身なんだから!」と、一応ツッコむ。


「……それじゃあ、美咲、雛季」

 親父さんが近寄って来て、二人に手招きし言った。

「悪いが二階の部屋、空けてくれないか? 俺も手伝うから」


「え?」と、姉妹が口を半開きにして固まった。


「まさか姉さんたちにリビングで寝泊まりしてもらうわけにはいかんだろ? それに、以前は我々の方が何度か世話になったし」


「そ、そう言うことね……」と、美咲は引きつった笑顔で無理やり納得しようとしたようだが、雛季は明らかに不満顔をした。

「え~……雛たちの部屋がなくなっちゃうの~?」


「一時的にだよ。二人の部屋をどうするかは……今後考える」

 

 美咲が雛季の手を引っ張り、親父さんの後を追って二階へ上がって行ったあと、俺は鮫川に「俺たちが部屋を出るか?」と相談したのだが、「いいだろ、そんな遠慮は。この家の者にとって、お前は優遇されて当り前の人間だろ? 先祖なんだから」と言いくるめられた。




 夜半、なかなか寝つけない俺は、静かに部屋を出た。

 なかなか寝つけない理由として、鮫川の断続的なイビキが耳障りということがある。

 まるで電気を消してから現れ、耳元でブンブン鳴く蚊のようだ。

 叩いて殺したと思っても、一時したらまた耳元でうるさく鳴く……。そんな感じだ。


 しかし、鮫川のイビキ以上に気になっていたのは、やはり下で寝ることになった姉妹のことだ。

 一階のソファは寝返りをうつには狭いし、床はその硬さで長時間横になると体が痛くなるだろう。

 場所が変わったということも(あわ)せて、二人もうまく眠りにつけていないのではないか……。


 その心配が的中した。

 薄明りが漏れる下の階から、姉妹の声が聞こえてきたのだ。

 やはりもう一度話をして、俺たちの部屋を彼女たちに明け渡した方がいいかもしれないと思った。

 

 俺が階段側から回ってリビングに出た途端、美咲が悲鳴を上げた。

「キャア~ッ! カケル君?」


「いいいっ?」と、俺は奇妙な声を発し、瞳を凝らす。

 

 目に飛び込んできたのは、床に敷かれたカーペットの上に座りながら、Tシャツを頭から脱いだ直後の美咲の姿だった。

『元いた世界』のようなオシャレなものというわけではないが、十分魅力的な眩い白のブラが、彼女の何とも柔らかそうな胸を包み込んでいた。

 下もスカートをすでに脱いでいる状態だった。魔溜石灯が投げる淡い光の中で白く浮き上がっているように見える綺麗な太ももと、その奥の小さくてシンプルなショーツが、短時間で俺の目に焼き付いた。


「カ、カケル君! いつまで見ているのっ? あっち向いてよ!」

 美咲に(わめ)かれて、慌てて体の向きを変え、二人に背を向けた。


「アハッ。早く着替えないからだよ、お姉ちゃん」と、雛季ののんきな声が後ろから聞こえてくる。

「仕方ないでしょ、いろいろ忙しかったんだから。それに雛ちゃん。あなたもボタン留めていないと胸が見えちゃうよ?」

 

 それを聞いて俺は反射的に首を回し、三人掛けソファに腰掛けた雛季を横目で見やる。

「いつもこうじゃん……」とふくれた雛季は、自分の胸元に視線を落としながら呟いた。

 確かに、彼女は薄ピンクのパジャマのボタンを一つも留めず、全開にしていて、その豊かな胸の谷間が露わになっている状態だ。


 美咲のようにブラジャーは着けていなかった。

 そういうものに彼女が無頓着で普段から着けていないのか、寝る時は外しているのか、あるいはこちらの世界ではブラジャーをしていない女性も多いものなのか……それはわからないが、とにかく美咲が心配しているように、大きく体を動かせばポロリしそうだ。


 美咲は雛季のボタンを留めるのを手伝いまがら、こっちに視線を投げた。

「ところでカケル君……あっ、そっち向きながら話してね。それで、こんな時間にどうしたの? トイレ?」


 俺は棒を回して動かすサッカーゲームの人形みたいに、クルッと二人に背を向け、部屋の話を持ち出した。

 美咲はやはり断った。

 

「カケル君は本当に気にしないでいいよ……。君が安心してゆっくり眠れることが一番だよ、私は」と、ブランケットの上に横になって美咲は言った。

 ソファからは「雛季も……」と言う同意の声がしたが、彼女はすでに両目を閉じていたので、話を聞いていたのか寝ぼけて呟いたのか判然としなかった。


 結局俺はまた部屋に戻った。

 美咲たちの言葉はありがたかったが、この部屋でも『ゆっくり眠れる』かどうかはわからないな、と鮫川のイビキを聞きながら思う。


**********************************************************


 翌日、琴浦の親父さんたちは、早速畑に出てきた伯母さん夫婦に作業を教えていた。

 以前に畑仕事の経験があったらしい伯母さん夫婦の手際が良く、約束通り俺と鮫川は早めに作業を切り上げさせてもらえた。


 家に戻り、シャワーで汗と汚れを流す。

 俺に次いで鮫川も、その中華料理屋に置いてあるマンガのようにやたらと汚れた体をシャワーで洗って、すっきりして出てきたところで、丁度琴浦姉妹が迎えに来た。


 そして、『東北東通り』を横断し、喫茶店・『アイラブコーヒー・アイラブティー』より手前で、横道に入る。

 そこからすぐ勾配(こうばい)の緩やかな石畳の坂道になっていて、両サイドには服屋や床屋などの店が軒を並べている。それほど道幅が広い通りではないが、賑やかだ。

 

 そこを少し進むと、有袋類のペニスの如くY字に道が二つに分かれるのだが、丁度突き当たり、二つの道に挟まれるように、その店はあった。


『スピリット・オブ・セントルイス』。

 リンド―バーグの愛機の名を店名にしたその店は、一階を飲食店、二、三階を宿とした小さな店で、美咲が扉を開けた瞬間から、熱気、喧騒が通りに向かって溢れ出してきた。


「みんな~! カケル君、連れてきたよ~」

 美咲の横を抜け真っ先に店内に入った雛季が、うららかな声を出した。

 

 美咲が微笑みながら、俺たちにも入るよう手で合図する。

 緊張気味に店の敷居をまたぐと、複数の甲高い声がまとまって押し寄せてきた。

「待っていました~!」

「キャ~、男の子~!」

「さぁ、早くこっちに来てよ~」

 

 見れば、カウンター席と立ち飲みの細長いテーブル、壁一面に付けられた長椅子と三つほどの丸テーブルだけの狭い店内を多くの女性たちが埋め尽くしていた。

 今日はみんな大した仕事をしなかったのか、防具を纏っている者は少ないが、一様に腰や背中に『エイト剣』を吊るしている(あるいは傍の壁に立てかけて)。

 みんな女性だが、美咲と同じパーティーの魔法剣士なのだろう。

 

 彼女たちは一斉に手招きしたり、自分の隣の席を叩いて俺たちに着席を促したりしている。

 

 想像していた以上の歓迎にたじろいでいた俺の前に、いつの間にか一人の女性が立ちふさがっていた。

 

 セミショートの赤茶色の髪、やや日焼けして健康的な色の肌の女性。

 大きな茶色い瞳を時折細め、俺たちを品定めしているようだ。

 蠱惑(こわく)的な微笑を浮かべ、どこか悪戯好きそうな印象を与えた。

 彼女は手を前へ伸ばし、そのイメージ通り明朗な声を発した。

「こんにちは。話は二人から聞いているよ。瀬戸カケルくんだよね? よろしく!」


「あ、はい、そうです。よろしく……」

 俺はこもった声で返事し、前に出されていた彼女の手を握った。


 その直後、急にその手が前に引っ張られた。

 咄嗟(とっさ)のことに俺は調子の外れた声を漏らして、前へよろけた。

 それを受け止めたのは手を引っ張った張本人だ。

 彼女はその流れで俺の肩に手を回し、顔を自分の胸元に引き寄せた。


 彼女は白いシャツの下に黒いブラジャーという格好(こっちに来てからそういう大胆な格好の女性はよく見かけるので、慣れ始めてきてはいるが)だったので、今俺の顔は、彼女の豊かな胸の谷間に直で押し付けられている状態だ。


「はふ、はふぅ……」

 興奮と息苦しさで大きく鼻息を鳴らす俺に、彼女は上から笑い声で言った。

「ここでは挨拶の時ハグをするんだよ」


「嘘はやめなさい!」と、ようやくそこで美咲の助けが入った。

 眉を吊り上げ、俺と彼女を力強く引き離す。


「ハハハ、さすがキャップ。ハジメテのボーイにもエッチだね!」

 左前のテーブル席に座っていた、明るい茶髪の女性が言うと、彼女の隣に座る黒髪の女性も上品に笑って言った。

「フフフ。どちらかと言えば、ガールの方が好きだけどね……愛海那〈あみな〉ちゃんは」

 

 俺は胸の高鳴りを何とか鎮めながら、美咲に訊く。

「キャップ……って?」


「ああ、うん……」と、美咲は自嘲気味に笑った。

「彼女がこのパーティーのキャプテンなの。鹿角〈かづの〉愛海那さん」


「そう、私がこの『グラジオラス』を作ったんだ」


「『グラジオラス』……? それがパーティーの名前か?」


「そう。花の名前だよ。地球にもあるでしょ? こっちのも地球のグラジオラスとほとんど変わらないから、『オルタナティブワード』で……あっ、その本のことは知ってる?」


「教えたよ」と美咲が短く答えると、鹿角という女性は細かく頷いた。


「それで、こっちでもグラジオラスの名が付いているんだけど、葉が剣の形に似ているから剣士のイメージにはいいでしょ? 花言葉には『武装完了』というのもあるし、勇敢さと美しさを併せ持つ、まさに私たちにピッタリじゃん?」

 

 確かに花の中ではそのイメージは悪くないが、あくまでも花の中ではということであって、剣士のパーティー名が花の名前というのはやはり俺には可憐すぎる気がした。

挿絵(By みてみん)

挿絵・左、玉城フェリシー、右、鹿角愛海那。

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