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第5話・別室の十数人の男女

 おとなしくなった俺に、ナガタたちはしばらく雑談を交えながら幾つかの質問をした。

 やはり親父の仕事……新エネルギーの研究についての質問がほとんどだ。

 もちろん聞かされていないものは聞かされていないのだから、ロクな返答はできない。

 新しく思い出したこともなかった。

 

 その日は結局それで終わった。

 男たちはとりあえず礼を言ったが、立ち去り際に見せたその背中から落胆の色が見てとれた。

 

 それから数日間、数回にわたって、不毛とも思える質疑応答が続けられた。

 その間、朝昼晩と三食しっかり出されているので、食事に不便はしなかった。

 質素で、決しておいしいとは言えないものばかりだが、体に異常は出ていないので、栄養は摂取できているようだ。

 

 部屋の隅には小さなドアがあって、その先には簡易のシャワールームとトイレもあり、その点も問題はなかった。

 

 もちろんその部屋にはテレビもないし、ネットができる環境でもない。気を利かせて本や雑誌を用意してくれることもない。

 何もない部屋で一日を過ごすのは退屈で、そこが一番大きな問題だった。

 

 とりあえず体がなまらないようにストレッチをしたり、体育倉庫に幾つか紛れている弾まないバスケットボールみたいに、小さなスキップで部屋を動き回ったりして時間を使った。

 

 あるいは、この部屋から脱出はできないものか、出入り口の青い扉や窓に近づき、何度か確認をしてみた。

 扉は目を覚ました初日に試みたように、隙がない。

 すぐ傍にはマジックミラーと思しき物もあるので、あまり大胆なことはできない。

 

 一度、消灯された夜間にこっそり扉へ歩み寄ったことがあったが、すぐに外側から足音が鳴りはじめたので引き下がった。

 二四時間体制で監視しているのだろう。

 

 同じ理由で窓からの脱出も難しそうだ。

 それにこの部屋の窓は嵌め殺しになっていて、割るにも強度が高そうだった。


 俺は脱出を諦め、彼らの言葉を信じ、自由になれる時まで耐えて待つことにしたのだ。

 そう決意すると、囚われの身でありながら、最低限の環境は用意してもらっているように思えてきた。

部屋は清潔だし、消灯時間までは夜でも明るい。

 

 エアコンのようなものは見当たらないが、どこかから暖かい空気が流れ込んでいて、寒さに凍えることもない。

 窓が開閉できなくても空気が澱んでいるということもなかった。

 外に出られず退屈ということを除けば、快適に過ごせていると言えなくもなかった。

 

 ストックホルム症候群とまでは言わないが、ひげ男たちに対してもわずかながら心が開けてきた。

 そして彼らの雑談にも時折加わるようになっていった。

 

 目が覚めてから四日目(この部屋には時計という物がないため、日没と日の出で確認するしかないが)。

 男たちの尋問中に出てきた単語に、頭の隅の引き出しが静かに開いた。

魔溜石(まりゅうせき)』という単語だ。


「魔……溜石……?」と、オウム返しに言うと、三人は視線を交わし合ってから、輝いた目でこちらを見返してきた。

「知っているのか? 魔溜石を」


「今、その名を聞いてふと思い出しただけです。確か親父がそんな名を口にしたことがあったような……」

 

 金髪男が腕を組みながら、明るい顔で言う。

「ああ……。まぁ、惑星探査の話を聞いていれば、いくら口数の少ない親父さんでもその名ぐらいは口にしているかもな……。数年前、その魔溜石という石を、君の親父さんたちは地球に持ち帰ることに成功した。つまりその石が、次世代のエネルギーになり得るものだったわけだ」


「君の父親たちは国の援助も受けながら、その後も何度か魔溜石の採取に成功。持ち帰られたその石をしばらく研究していたわけだ。その時の研究データに関して、息子である君にも何か話してはいないかな? 忘れているだけかもしれん。よく、思い出してくれ」

 ひげ男がいつになく興奮気味に語りかけてきたが、その後やはり俺は何も思い出すことはなく、その日の尋問も終了した。

  

 男たちの顔に再び失望の色が浮かんでいた。

 それを見て俺にも焦りや不安が蘇ってきた。

 

 このまま大した情報が引き出せないとわかったら、俺はどうなるのだろう?

 解放するなどというのは真っ赤な嘘で、最終的には始末する気なのかもしれない……。

 

 扱いが悪くないと言っても、これがいつまで続くかなんてわからないし、少し雑談をしたからといって、男たちがどういう集団なのか未だはっきりしていない状態だ。


 今までのやりとりで、魔溜石という物に強い関心があり、自分たちも新エネルギーの研究を進めているグループ、ということはわかっているが、自分たちの求める物のために、どこまで手を汚すつもりなのかはわからない。

 他人の家にあんな侵入の仕方をして、住人を強引に連れ去ってきたのだ。用無しになれば、始末されることも充分あり得る……。


 その日の夜はほとんど眠れなかった。

 と言っても、ここに連れて来られてからぐっすり眠ることができた日なんてないわけだが、ここまで寝つけなかったのは、目が覚めてから初めて迎えた夜以来だ。

 

 家を離れてから何日経っているのか?

 お袋や咲花(えみか)はどうしているだろうか?

 きっと二人は警察に捜索願を出しているはずだが、まだこの場所が把握できていないのだろうか?

 

 そして、一緒に眠らされた伊賀や鮫川(さめがわ)はどうなっただろう?

 胸の底に無理やり抑え込んでいた様々な疑問が次から次に噴き出してきて、頭の中でずっと渦巻いていた。


************************************************************


 翌日。

 いつものように男たちが部屋に現れた時になって急に眠気が押し寄せてきた。

 しかしそんな時に限って、初めて部屋の外に出るよう言われた。

 尋問は別室で行われるということで、男たちの後をついて来るようにとのことだ。


 これは監禁状態から抜け出す絶好の機会……もしかしてラストチャンスになるかもしれないと思ったが、先導役としてひげ男が前に立ち、その後ろを行く俺の両側に金髪男と坊主頭がくっついて立ち、両腕をしっかり押さえられてしまった。

 写真で見たことのある捕えられた宇宙人のように、サイドの二人に引っ張られて歩く。


 室外に出ると、部屋よりも薄暗い陰気な廊下が長く続いている。

 廊下へ出た瞬間から空気が変わったように感じた。

 海外旅行でよその国へ降り立った時に感じる独特の変化に近いのではないだろうか。


 廊下の床や壁や天井はコンクリートがむき出しで、部屋の中よりも簡素で寒々しい。

 部屋にいた時はあまり感じなかったが、こうして廊下を進んでいると、この建物自体が急造で(こしら)えられたもののように思えてくる。

 

 廊下の先には石造りの階段があって、一度こちらを振り返って「下りるぞ」と呟いたひげ男の後について行く。

 一つ下の階の廊下を無言でまた進む。この階も上とほとんど雰囲気は変わらず、湿っぽい場所だ。


 同じように扉が並び、その一つの前で、俺を取り囲む三人の男は立ちどまった。

 ひげ男が扉を開け中に入り、手招きして俺にも入るよう促した。

 

 部屋の中は学校の教室二つ分ほどの広さで、廊下と比べてずいぶん明るかった。

 廊下の反対側の壁一面に大きな窓があり、日の光がさんさんと差し込んでいるということもあるが、前後と廊下側の壁にいくつか巨大な電球のようなものが取り付けられていて、白光を放っているのだ。

 

 部屋の中央に、簡易の椅子がU字になって置かれ、そこに十数人の男女が座っていた。

 

 彼らを取り囲むように、ひげ男たちと同じようないでたちの男が十数人、壁際に立っている。やはり皆、時代錯誤の武装で統一しており、剣を携えているのだった。


「これで揃ったな」

 入って右手の壁の方(椅子に座っている者たちはそちらに体を向けている)に座っていた男が言った。

 禿げ頭で綺麗に揃った白いひげを生やし、様々な経験によって刻まれたであろう深いしわが風格を漂わせ、どこかの王様を想起させる。

 だが俺はわかりやすく『パチンコ玉』と彼を心の中で呼ぶことにしよう。


 パチンコ玉の左右にも男が座っていて、彼ら三人の前にだけ長机があり、その上に紙の束や飲み物の入ったグラスが置かれている。

 一見して、彼らがこの場を仕切る偉い奴らなのだとわかった。

 身に着けている装備も、周りに立っている男たちよりも立派に見える。

 

 立ち止まってそんなことを考えていると、ひげ男が空いている椅子に座るよう促した。

 それは今までになく尖った声で、上司の前で恥をかきたくないというひげ男の胸の内が表れているように感じる。

 

 わけもわからないまま、空いている席に着く。

 U字になって置かれている椅子の丁度真ん中あたり、長机の前に座っている三人とは一番離れた席だ。

 

 先に座っていた者たちのほとんどが前にいる三人の男たちを見ているか床へ視線を落としていたが、俺が椅子に座る時になると、義務であるかのように一様にチラリとこちらを見た。

 

 部屋の中央で椅子に座っている者たちの格好は様々だ。

 俺と同じようなパーカーを着ている者もいれば、生肉の包み紙みたいな柄のセーターを着ている者、海外の囚人服のような派手なオレンジ色のよれよれのシャツを着た者。

 もちろん女性は女性らしい服装をしているし、年配者と思われる人は歳相応のシックな身なりだ。

 

 彼らも俺と同じようにどこからか、いきなり連れて来られたのだろう。

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