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万象  作者: 桐崎浪漫
第四章 「伴天連」(泰河)
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11


「なんて言った って?」


「たぶん、ヴォッリョ トルナーレ」


朋樹から連絡を受けたルカが、沙耶ちゃんの店に来た。


オレは 何故か、話せなくなった時のように

また唐突に話せるようになっていた。

さっき何語かわからないコレが、口から出てからだ。


「Voglio tornare...  帰りたい、か」


ルカにわかる ということは、どうやらイタリア語らしい。


沙耶ちゃんから コーヒーとサービスのシュークリームを受け取って

「お! やった!」と 笑顔で礼を言ったルカは

急に隣のオレに顔を向け


「あっ! 泰河、喋れてるじゃん!

戻ってよかったなぁ!」と、今さら言い

ぱんぱん背を叩いてきた。


「あ、おう... 」


なんだろう。こいつの この

もう長い付き合いみてぇな遠慮のなさ というか

人懐こさというか...


「オレ、手話 習おうか って考えてたぜー」


ルカは ほっとした顔でコーヒーを飲む。

昨日は「大人しくていい」とか、言ってたくせによ。ま、いいヤツではある。


「しかしさぁ。

“帰りたい” って、毎晩教会に向かってるんだから、クリスチャンなんかな?」


「または、シスターとか?

けど占い客として来た女は、ごく普通の子に見えたんだよな」


それに、シスターって修道院にいるんだよな?

教会に帰りたいなら、やっぱりキリスト教徒か?


占いの鑑定依頼だった “願い” は、“帰ること” なのか? 教会に? なんか変だ。


「まあ、なんせ

普通の人間じゃないっぽいよなー。

ふたりに分離したり、溶けたりするし」


ルカは そう言って

「オレ、なんか食おっかな」と

メニューを開き出した。


普通の人間じゃなければ、何だ?


占いに来たのは、普通の女だった。

だから朋樹が『あの女だ』と言った時も

とても信じられなかった。

オレらの前を通って帰った時も、やっぱり

ごく普通の子 って感じだったしさ。


でも、パーテーションの奥にいたのは、教会で見た あの女だった。

溶けずに消えたちまったけど...


「なぁ、ルカ。

教会の女の眼の色、何色だった?」


ルカは メニューから眼を上げ

「濃い青に見えた。ラピスラズリみたいな」と、答え

「顔は 日本人ぽかったのになぁ。

軽めにサンドイッチにしとこかな」と

またメニューに戻る。


朋樹は、アイスティーを持って行った時

顔と眼の色で あの女だ と判断した。

青い眼だった、と。


沙耶ちゃんが占った時は青い眼。


女が帰る時は、帽子で眼が見えなかった。


女が、パーテーションから出た時 

この時に、女が ふたりに分離した... とする。

女は確かに帰って 朋樹が追ったのに

パーテーションの奥には、まだ女がいたからだ。


パーテーションの向こうにいた女と

帰った女は、同じ色の眼だったんだろうか?


そもそも さっきは、本当に 一人が分離したのか?


それとも、人に憑いた何か なのか?

昨日 朋樹は、憑依じゃない と言っていたが

帰って行った女に憑いてた何か が、パーテーションの奥に残ったんじゃないか?


でも、顔が同じだった。


オレが ぐるぐると まとまらないことを考えている間に、ルカは沙耶ちゃんにミックスサンドを頼んだようだ。のんきなヤツ。


ハムとチーズのを横からつまむと

「タマゴには手ぇ出すなよ」と 釘を刺してきた。


「そうだ。今日 ハーゲンティはいるのか?

女のこと聞いてみたら、何かわかるんじゃねえの?」


ルカは 口の中身を飲み込んでから

「いや、今日は契約があるらしいぜ。

女のことは 一応聞いてはみたんだけど、黙ってたから わかんねーんじゃね?」と普通に言った。


契約...

それ やっぱり、魂の だよな?

なんか複雑な気分になる。


沙耶ちゃんが キッチンから出てきて、オレとルカの前に またサービスのアイスを置いてくれた。


「えっ、沙耶さん

さっきシュークリームもらったぜ」


「いいの。食べてちょうだい」


沙耶ちゃん、まだちょっと落ち込んでるのかな?

そういう時とか何か考え込んでる時は、余計に

サービスのデザートを出してくれる傾向がある。


「まだ朋樹くんからは 連絡ないの?」


「そういや、まだないな」


朋樹が出てから 結構 時間が経つ。


「大丈夫かしら? 危ない目にあってたり

何か問題になってたりしてないわよね?」


沙耶ちゃんが不安そうに言う。


「こっちから電話してみりゃいーじゃん。

泰河、顎ヒゲにアイスついてるぜ」と

ルカが軽く言った。


ジーパンからスマホを取り出しながら顔をしかめて、反対の手で顎をこする。


「アハハ。すげぇ悪そう!

おまえ、元々 眼とか鋭いしさぁ

そういう顔すると 更に悪人面になるよなー」


ルカは「アイス付いてんのにさぁ」と

まだ笑っている。


沙耶ちゃんまで「ふふっ」とか笑ったので

顔に熱が帯びるのを感じながら

朋樹に電話して、呼び出し音を聞く。


... 5回目、6回、7回

出ねぇな。

出れない状態なのか、電話に気づいてないのか。


電話 切って、メッセージにしようかと思った時に

店の外で 猫の声がした。


大人の猫にしては小振りで、きれいな黄緑の眼をした 三毛猫の露だ。ただし、尾は二本ある。


店の外に出ると、露は オレに向かって しきりに鳴き、膝に前足をかけた。


「どうした? 露」


何かを訴えているようだが、露は人語は話せない。困ったな...


「猫じゃん! かわいいなぁ、こいつ!

ずいぶん美人な猫又だな」


ルカが しゃがみこんで

「オレ、猫好きなんだよー」と

露の顎を撫でようと触れる。


「ん? なんか、朋樹の顔が見えるぜ」


どうやら露の思念が見えたらしい。

オレらは 露についていくことにした。

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