24(ルカ)
「それで、灰になったって?」
「そう」
キッチンで野菜を切っているジェイドに
今あった話をする。
「預言か?」
「わかんねーけど、レナちゃんと同じだった」
男の腕の深く長い傷。
あれは、自分でつけたものなのだろう。
レナちゃんには青黒い縄の跡が首に浮かんでいた。
レナちゃんという子は、生身の肉体を持って現れて、預言だという言葉を残した。
「自殺者ばかりを使っているようだな...
しかし、ヒポナの姿を取ったというのも気にかかる。
かなり前から、おまえのことを知っているということだ」
そうなんだよな。
オレが ヒポナに出会ったのは、まだハタチの時だ。アリゾナに留学している時だった。
「レナちゃんてさ、“5つ目の預言” って
言ってなかったか?」
1つは、リン... オレの妹が悪魔に憑かれるというもの。
もう1つは、ジェイドが日本に留まるというもの。
「言っていたな。あとの3つは何なんだ?」
「いや、聞いてないぜ」
ジェイドは切った野菜を大量のオリーブオイルで炒めながら
「彼女は “17年前に死んだ” とも言っていた」と、考え出した。
「17年前。僕らはまだ10歳だったが
僕は 一度 日本に来ている」
リンが生まれた時か。
「ちょっと待てよ。もう、そんな時から
誰かがオレらを見てる ってことかよ?」
気持ち悪。なんだそいつ。
「そうと決まった訳じゃないけど、一応 気に留めておく方がいいかもしれない。
オーブンを見てくれ」
オーブンを開けると、ジェイドもオレの背後から肉の焼け具合を見る。
「もう止めていいけど、余熱であと10分程置いておこう。チーズを乗せて溶かす。
皿とワインの準備を頼む。パンもね」
オレに指示しながら、炒めた野菜にトマトの缶の中身を入れて煮詰めている。
テーブルの準備が済み、ワインのコルクを抜いていると、ジェイドが溶けたチーズの上にソースをかけたチキンと、さっき炒めた野菜とトマトの大皿を持ってきた。
「うまいけどさぁ、米欲しいよな」
「じゃあ、炊飯器を持って来てくれ」
そうか、炊飯器は持ってないよな。
今度買ってこよう。
「あ、そうだ。オレが よく腹減るようになったのってさ、ハティがいるから らしいぜ」
ジェイドは、ほらみろって顔でオレを見る。
うん。
めんどくさくなりそうだし、話を次に移そ。
「あとさ、おまえ
田口恵志郎さんのこと、なんか考えたりする?」
「... そりゃあね」
「そうやって残るもんが、そいつの魂の証だから、胸に抱いて生きろ だってよ」
ジェイドは、素知らぬ顔でワインを飲んでるけど
黙ってる ってことは、ちょっときてやがる。
「... ハティがいる時に、預言者が出たことはないな。僕を見る視線の主も」
「ああ、言われてみりゃ そーだな。
でも そもそも普段、ハティは教会に来ねーじゃん」
「だが、何か関係があるのかもしれない。
竜胆に レナという子が持たせた紙は、ハティの魔法円だった。間違ってはいたけど」
そうだ。
そして、レナちゃんはそれを “天使の印” だと思っていた。
悪魔を呼び出すための魔法円だとは思ってなかった。
「ハティにも何か関係してるんじゃないか?」
「かもなぁ...
また、おまえを見てる視線の主を見に来るとは言ってたぜ」
ジェイドは ちらっとオレを見たが、特に何も言わない。
教会やこの家に立ち入らなければOKってことかな?
「まだ わからないことが多いな。
とにかくだ。食事の片付けが済んだら、僕は
今日灰になった彼のために祈るとしよう」
ジェイドは 空になったテーブルの皿を指差す。
「わかった。洗い物はオレがやるよ」
オレがソファーを立つと、ジェイドは
「コーヒーも頼むよ」と添えた。
コーヒーを飲んで、裏口から教会に行く。
夜になると肌寒くなってきた。
教会の灯りを点けると、長椅子に座ってステンドグラスを見ながら、ジェイドが祈る声を聞く。
この下に、あの教会がある。
そう思うと、信仰心が薄いオレでも
今までより 神聖な場所だと感じる。
もう、0時になるのか。
... ん?
何かの気配を感じる。外だ。
長椅子を立つと通路を歩き、教会の扉の鍵を開けて外に出てみた。
教会の外門の所に誰か立っている。
「ルカ、どうした?」
祈りを終えたジェイドがオレの隣に立ち、外門に眼を向けた。
「なんだ? あれ」
急に身体が重くなった。
空気が のし掛かってきた感じだ。
ジェイドも動きを止めている。
オレらは、そのまま
その光景を ただ見ていた。
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「ダメだ。どうやら、その間は
僕は 動くことは出来ないようだ」
「オレも動きは制限されるんだよなぁ...
なんなんだろな?
琉地まで動けない って 何だよマジで」
深夜0時になると、それは始まる。
オレらは もう何日も それを見ているだけだった。
「このままでは埒が明かない。
ルカ、誰か こういうことに詳しい知り合いはいないのか?」
「えー、いねーよ。
だってオレ、一応プロだしさぁ」
「僕も そのつもりだ。
だが、僕らだけではもう... 」
「わかった。探してみるよ」
あーあ。マジかよ もう。
まさか祓い屋探すことになるとは思わなかったぜ。
で、スペインから戻ってきたハティを伴って
ネットで広告出してる何人かの祓い屋に会った。
オレの背後には、姿を消したハティがいる。
それなりの感があるヤツじゃないと見えないってこと。
「最近、やたら肩凝っちゃってー。
どうすか? オレ 何か憑いてます?」
戻って来る答えは
「あなたの御先祖様の霊が警告を... 」とか
「生き霊です。あなたを恨んでいる女性がいます」とか
「今すぐに除霊しないと! 三体も憑いてますよ!」とか。
話に ならねーよなー。
「やばいなぁ... あとは占い屋さんとか
ヒーラーさんとかだしなぁ... 」
オレが スマホ画面スクロールしまくってると
ハティが
「おまえと似たような者を見た」とか言う。
「えっ、どこでだよ」
「海だ」
海? そういや、仁成くん達が
海水浴場でも十字架が出たとか、祓い屋がどうとか...
でも待てよ。
「ハティ、海なんかで何してたんだよ?」
「月明かりで読書を」
ふうん。どこ行っても本なんだな。
「そいつ今、どこにいるか わかる?」
「探してみよう」
ハティは遠くを見た。
「一人は 地下のバーにいる」
早っ。もう見つけたのか。
「じゃあ行こうぜ。道案内してくれ」
オレはバイクを走らせた。
着いたのは、クラブ崩れの中途半端な感じのバーだった。
ジェイドに バーの情報をメールで送り、後で来るように言って、階段を降りてバーに入る。
「目的の相手は、このところカードで賭けをしている」
どうやら 一番奥のテーブルにいるヤツらしい。
あれ? あいつ...
染めたブラウンの髪に顎ヒゲ。
涼しげな眼元、きゅっとした鼻。
あいつだ。前にコンビニの駐車場で見た。
「行こうぜ、ハティ」
おもしろくなってきたな、なんか。
意気揚々と奥のテーブルへ向かった。




