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万象  作者: 桐崎浪漫
第三章 「パライソへ」
64/620

7(泰河)


「あれって、キリシタン狩りなのか?」


海の十字架に、朋樹が さっき言った言葉。


キリシタンを弾圧していた時代

棄教... キリスト教から抜けさせるために

拷問していた。

それでも棄教せずに、たくさんの人が苦しめられながら亡くなったらしいが。


海の十字架に磔にして満潮の時に溺死させる拷問もあった と、何かで読んだことがある。


「だろうな。その頃は仏教に帰依させようとしていた。だから枷には 大祓より陀羅尼が効く」


海から「助けて!」と叫ぶ声。

なんとか追おうと海に入ってるヤツら。

砂浜でガタガタ震えてるヤツもいれば

海を指差して笑ってるヤツ。

その隣で動画撮ってるヤツ。


「まとめて引き上げるか。

あっちは おまえの好きにしろよ」


朋樹は笑ってるヤツらを顎で示し

砂浜に右手をつけると、呪を唱える。


海の中にいるヤツらの動きが止まり、徐々に こっちへ引き戻されて行く。

どうやら海草に呪をかけて、引っ張らせているようだ。


オレは 笑ってるヤツらの前に立った。


「え? 何あんた? あんたもギャラリーだろ?

おもしれーのに、そんなとこ立ったら見えねえじゃん」


ひとりを無言で殴り、隣のヤツのスマホを取って海に投げ捨てる。


殴ったヤツは転がって鼻血を出し

スマホの方は「何す... 」と怒鳴りかけながら

オレを見上げた。


「おまえら、何してんだ?」


急激に顔色が変わっていく。


「人が死にかけてんのが おもしれえってのか?

答えろよ、オレに」


「... いえ。でも

あなたには関係ない っていうか、その」


ほう。


「バカだろ、おまえら。

オレの気分を害したのは、おまえらなんだよ」


二人の腕を掴んで、朋樹の所まで引き摺って行く。

途中、暴れやがったので腹蹴って大人しくさせた。


朋樹の前には、海に引き摺られたヤツと

憑かれたヤツ三人、後を追ったヤツ二人。

座り込んで震えてるヤツを足せば、人数はちょうどだ。


オレらの周囲を、髷に袴の男達が取り囲む。


「とりあえず、目ぇ覚ませな」


朋樹が バカ二人に言って、呪を唱えて

二人の肩に手を置くと


「えっ?」

「うわあああああっ!!」


二人とも腰を抜かして へなへなと座り込み

一人は失禁した。


「さっきまで笑ってたじゃねぇか。

しっかり相手しろよ」


朋樹が憑かれたヤツの背を叩いて、身体から霊を出す。簡単に出るヤツは、念が弱いらしい。


憑かれてたヤツも 後を追ったヤツも 一纏めに集めて、砂に円を描いて囲むと 結界を張る。

これでこいつらは、霊からは見えない。


霊は自然と オレらと 腰抜かしてる二人に眼を向けたが、弱っている二人の方へ向かっていく。


「あああっ! いやだいやだいやだあああっ!」


一人は喚き散らしているが、一人は固まったままだ。


そのうちに、霊が手を伸ばした。


「あっ...  あ あ... 」


「いいか、“棄教する” と言え。

で、次に “仏教に帰依する” だ」


朋樹が指示するが、聞こえていない。

固まっていた 一人は 失神した。


「無理じゃねぇの?こいつ」


そろそろ許してやるか。

そう思いながら オレが言うと

結界の円の中から、一人が走り出てきてオレの腕を掴んだ。


「あっ、結界 破れたぜ」


朋樹が張り直しに行く。


「すみませんっ、許してやってください!」


そいつは オレの腕を掴んだまま

必死にバカ二人を擁護する。


「バカなんです、あいつら本当に。

でも、オレが言って聞かせますから

もうあんな態度取らせません!」


そいつが泣き出し、オレは

「まあ オレも殴ったりしたしなぁ」と

態度を軟化させると、また円から 一人出て来て

「おい!」という朋樹の声がした。


「オレが代わりに何でも言います!

オレ、みえるんです。

でも おもしろがって来たから... 」


そいつは震えながら言う。


「いいや、おまえら!

もう邪魔すんな! 円に入れ!

いいか? いい と言うまで出るなよ。

その二人も連れて行け!」


めずらしく朋樹が怒鳴って、出てきた二人と

残念な二人を円に追い立て、また結界を張る。


霊は オレと朋樹に ぞろぞろと近づいて来た。


「棄教して仏教に帰依する」

「オン ボロン ソワカ オン アミリタ アユダディ ソワカ」


一人一人の枷を外していく。


ふと、少し離れた場所で震えているヤツの方へ目を向けたが

そいつには、霊たちが近づく様子はない。


なんでだ?

守護してるヤツが強いのか?


「よし、最後だ」


朋樹が「帰依する」と言った後に

短呪を唱えると、そいつからも枷が消え

海の十字架も消えた。


霊たちは お互いを見渡している。


「仕上げだな」


「待ってください!」


また出てきやがった。

さっき、みえるって言ってたヤツだ。

朋樹が片手で自分の額を抱える。


「なんだよ?」


オレが聞くと、そいつは霊たちの方を向いて土下座した。


「ごめんなさい! 本当にすみませんでした!

どうか安らかに、どうか... 」


そいつが言うと、また円から

オレの腕を掴んだヤツが出てきて

隣に土下座する。


「すみませんでした。

オレ達はふざけて、あなたたちの心を乱しました。オレには見えないけど、祈ります」


「あのっ、私も」「オレも祈ります!」


憑かれたヤツやら引き摺られた子まで出てくる。

ついには、さっき腰抜かしたヤツまで出てきて


「観自在菩薩 行深般若波羅密多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄 舎利子 色不異空空不異色... 」


なんと、般若心経を詠み出した。


だが、霊たちは穏やかな表情で薄れて消えていく。


「まあ、いいか」

「なんとかなってるしな」


すっかり霊たちが成仏した後

般若心経唱えた元バカが泣きながら

「オレん家、寺なんです」とか言う。


なんだと... オレ、こいつのこと

やっぱりキライ。


「おまえらなぁ、おもしろがって来て

あげく 何度も結界破りやがって。

本当にヤバイ霊だっているんだぜ。

今回は これで済んだけど... 」


朋樹が説教する間に、ずっと震えて座り込んでたヤツの前に行くと、そいつが気づいて顔を上げる。まだ怯えた顔をしていた。


「よう。もう済んだぜ。

おまえもまた “おもしろ半分に” とか

もう 二度と行くなよ」


そいつは、オレの言葉にコクコク頷くと

立ち上がって 車の方に走り出した。


「あっ」


何か落としたが、気づいていない。

拾ってみると小さな金色のメダルみたいなやつだった。

あとで あいつらの誰かに預けるか と

オレは それを、ジーパンのポケットに入れた。


朋樹のとこに戻ると、説教は済んだようだが

大半が泣いている。まったくなぁ。


「オレらは帰るからな。

おまえら、今日のこと他人に話して回ったり

ネットに書き込んだりすんなよ」


全員 頷いたので、じゃあ帰るかと車に向かうと

「あの!」と、元バカが呼び止める。


「オレを弟子に」

「断る!」


オレと朋樹は、だいぶ疲れながら車に乗り込んだ。弟子って何だよ。オレ、見えねぇのに。


「ガキ共のせいで余計に仕事した気分だよな」


「結果的には良かったのかもしれねぇけどな。

で、なんで急に 古い霊が出たりしたんだろな」


「それだよな。今まで まったく聞いたことなかったのにな。

朝、この近くの教会に行ってみるか。

まあ、教徒の霊が出た訳じゃないから

何も得られんかもしれんけど。

あと、この辺りの郷土史も調べた方がいいかもな」


時間は 午前4時。

一度帰るには、微妙な時間だ。


安いビジネスホテルで仮眠をとり

軽く飯を食って、教会に向かう。

オレらが住む町のキャンプ場の山の麓にある教会より、でかくて新しい教会だった。


「噂は耳に届いておりましたが、私が海に行った時は、十字架は現れませんでした。

その時に祈りましたが、迷える者に会うこともなかったのです」


神父は オレらの話を聞いた後に言った。

本物のキリシタンが行ったのに、出なかったのか...


「妙な質問ですが、一般的に言われる霊感はある方だと思われますか?」


「いえ、勘も鈍い方ですので... 」


ああ、そういう単純なことか。

出てても見えなかったのかもな。


神父に礼を言って 教会を後にし

図書館へ向かった。


この辺りの郷土史を朋樹と手分けして読んでみたが、その時代に他の土地と同じように弾圧はあったものの、特にオレらが引っ掛かるような記事はなかった。


「結局 原因はわからずか... 」


図書館を出て車の鍵をジーパンから出す時に

金のメダルに指が触れた。


あっ、あいつらに渡し忘れてた。


「なあ、これさぁ」


朋樹に見せると、これは メダイという物らしい。


「まあ、御守りみたいなもんだな。

... ふうん、メッキじゃないな」


メッキじゃない?

言われてみると、確かに それなりの重みもある。


「朋樹、これに 何か念とかついてる?」


「たいしたものはないぜ。

持ち主の念だろ。祓ってやるよ」


朋樹が簡単に祓うのを見ながら

小さいけど いくらかにはなるかな... とか

ほくほく考えた。

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