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万象  作者: 桐崎浪漫
第二章 「花の名前」(ルカ)
48/620

13



『ルカ、夏までは まだ時間があるよ。

ずいぶん暖かくなったけど』


「そうだな。今、時間大丈夫か?」


『少しならね。司祭になったばかりで

いろいろとやることが増えたんだ』


「そうか、おめでとう。

おまえさ、これ 何かわかる?」


リンのバッグから取り出した、記号のようなものが描かれた紙を 通話相手のジェイドに見せる。


『... 魔法円みたいだ。グリモワールのどれかに載ってたかもしれないな。

二重円の間に書いてあるのが、呼び出したい者の名前や呪文なんだけど

僕は あまり、そっちには詳しくないんだ』


グリモワール...

確か、ヨーロッパの方の魔術書だ。

天使や悪魔を呼び出す方法が載っているというが、オレは 写本も見たことがない。


『少し調べてみようか?

後で写真を撮って送ってくれ』


「おう、頼む」


『その魔法円は、仕事で関わってるのか?』


「ああ、まあな... 」


ジェイドは『そうか』と言い、オレをじっと見た。

『ルカが 今いるとこ、自分の部屋じゃないだろ? 竜胆の部屋じゃないのか?』


「ん? ああ... 」


『竜胆は? 元気?』


「ああ、今日は友達のとこに... 」


とっさに、嘘をついた。


心配させたくないのが半分と

こうして勝手に部屋に入っている罪悪感と

リンのことを、口に出したくないのとで。


『まあ、いいけど。

何かあったら ちゃんと話すようにね。

ルカ、おまえが元気ないみたいだ』


「いや、ちょっと寝不足なだけだし」


調べたら連絡する、と言うジェイドに礼を言って通話を終え、魔法円の写真を撮って送った。


これが魔法円だとすると、リンにはやっぱり悪魔が憑いているんだろうか。

または、憑かれたと思い込んでいるか...


ただオレには、魔法円とリン というのが

どうも結び付かない。


オレは こういう仕事をしているけど、リンは こういうことに対して ほとんど興味がない。

テレビで心霊やUFOの番組がやっていれば、観はしても「ふうん、怖いね」くらいだし、歌番組やドラマの方が好きだ。


こうして部屋を見てみても、あるのはファッション雑誌やCD、化粧品。ぬいぐるみやアクセサリー、友達や彼氏との写真。

ごくごく 一般的な女子高生の部屋に見える。


てんかんの発作を起こした日は、友達の家に泊まりに行ってたんだよな。

明日、その友達のことを母さんに聞いてみるか...


床に散らばしたバックの中身を集めて

机の上に置き、リンの部屋を出た。




********




友達の名前は、ササキ マユコというらしい。


母さんに リンの部屋へ来てもらって、写真で顔を確認する。


長いウェーブの明るい色の髪、耳にはピアス。

リンとふたりで、同じような格好をして

同じポーズを取って映っている。


「小学校の時から仲がいいのよ。うちにもよく遊びに来たわ。和菓子屋さんの娘さんよ」


写真と母さんの話しで、なんとなく思い出す。

オレも何度か見たことがある。

マユ、って リンが呼んでる子だ。

明るい子で、中学の時は部活もリンと 一緒で

ダンス部だったと思う。


「そう、その子よ。今も同じダンス部よ。

ミサキちゃんもね」

母さんは他の写真も指差した。


そこには、ショートへアのミサキちゃんとリンが映っていて、その子も雰囲気はリンと似たような感じだった。


父さんは、リンのスマホをリビングのテレビ台に置いていた。

画面は昨日のままだったので、羅列した数字の並びを記憶して、苦い気分でホームボタンを押す。


通話履歴を見てみると、マユという名はすぐに出てきた。

着信履歴にもマユやミサキの名前が多数あり

この何日か、何度もかけてきているようだ。


オレは少し迷ったが、リンのスマホからマユって子に電話をかけてみると

三回目くらいの呼び出し音で その子が出た。


『リン! 心配したよー!!

なんで電話出なかったのー?』


「... あの」


『えっ! 誰?!』


「竜胆の兄です」


『えー? お兄さん? なんでなんで?』


元気だよな。パワーすげぇ。


「リンが、ちょっと体調崩しててさ」


『えっ、本当に!? リン、どうしたんですか?

お見舞い行ってもいいですか?』


「いや それは... まだちょっと、ごめん。

それで、こないだササキさん家にお世話になったって聞いて、その時の話をちょっと聞かせてほしくて連絡したんだけど... 」


『ああ、お泊まりデイのことですか?』


「そうそう」


『いいですよー。

あっ、私、リンにノート借りっぱなしで!

明日から学校だし、それだけでも返したいんですけど』


「じゃあ、オレが近くまで行くよ。

和菓子屋さんだよね?」


マユって子の話では、自宅の近くに喫茶店があるというので、そこで待ち合わせることになった。


母さんに話すと

「4時にね、病院に行くことになってるから

それまでには帰って来てちょうだいね」と

いうことだ。

リンは目を覚ましたらしいが

「詳しい話は後ほど」と、病院は電話では何も教えてくれなかったらしい。



車を喫茶店の駐車場に入れ、店内に入ると

奥の窓際の席に、マユって子とミサキって子がいた。

席に近づき「こんにちは」と挨拶すると

「あっ、こんにちは」

「本当にお兄さんだった!」と二人で言う。

よく考えれば、そりゃ警戒するよな。

友達の番号から『兄だ』って名乗る男がかけてきたりしたら。


「ごめんね、わざわざ来てもらって」

店員にコーヒーを頼み、二人の向かいの席に座る。


「いえいえ。これ、リンに借りてたノートです」

マユちゃんが差し出したノートを

「返しとくよ」と、受け取る。


「お泊まりにはミサキも来てたんで、ここにも

一緒に来てもらってみました。

リン、体調どうですか?」


「ん... 明日は まだ、休むかも」


コーヒーが運ばれ、店員が戻ってから

オレはジーパンのポケットから魔法円の紙を取り出し、テーブルに広げて 二人に見せた。


「あのさ、これのこと 何か知らないかな?」


二人は「何コレ? おまじない?」

「マンガみたい」と、紙を手に取る。

魔法円と二人も、リンと同様に

まったく無関係に見えた。

そうだ。泊まった日に何かあったとも限らないよな...


「それが、リンのバッグに入ってたんだ」


「え? リンの?」

「えー、なんでこんなの持ってんのー?」


二人とも、はあ? みたいな感じだ。


「泊まった日は... 」

マユちゃんがメロンソーダを飲んで

「まず、3人でスパに行ったんです。温泉気分になりたかったから」と言う。


「その後は、マユのママのご飯食べて

マユの部屋で音楽聞いたり、話したりで」


ミサキちゃんも話してくれるが、本当にただの

お泊まり会のようだ。


「リンに、何か変わった様子はなかった?」


二人は顔を見合わせるが

「変わったこと... ?」

「いつものリンだったよね?」と

特に何も思い当たることはないらしかった。


「けど、4人でゴロゴロしてた時さぁ

リン、やけに静かじゃなかった?」


ミサキちゃんが思い出しながら言うが

「待って」と、オレが止めた。


「もう 一人、誰かいたの?」


マユちゃんとミサキちゃんは

「あれっ?」と、また顔を合わせる。


「3人、だったよね?」


「そう... うん。だって、うちら

いつも3人じゃん」


まさかとは 思うけと...


「レナちゃんて子、知ってる?」


オレが聞くと「ああ、レナもいたよね」と

当然のように、マユちゃんが言った。


「えっ... マユ、誰? それ... 」

ミサキちゃんは怖々とマユちゃんに聞いた。


「え? あれ?

誰だろう····夢だったのかな?」

マユちゃんは、言った先から記憶があやふやになっているようだ。


「でも、私も4人でいた気がする... 」


ミサキちゃんが言うと「きゃあ、やめてよー!」と、マユちゃんが自分の身体に腕を回し

「だって... いやぁっ! 何この感じ!」と

二人でキャーキャーと なってしまう。


冷めてきたコーヒーを飲みながら

レナちゃんのことを考える。


何なんだ? あの子は...

得体が知れない感じになってきた。

カラオケで隣に座った時に話した時も

妙な感覚は何もなかったのに。

この子達やリンにも接触してたのか?


翌日の話を聞いてみても

昼まではマユちゃん家でだらだらして

あとは、ウインドーショッピングとカラオケ

最後にバーガーショップに行って、解散したらしい。


「そっか。今日は ありがとうね。

ここの分奢るし、何か食べない?」

そう言うと、二人は喜んでパフェをオーダーした。


パフェが 二つ運ばれてくると、魔法円の紙をジーパンに仕舞い、会計用紙を持って席を立つ。


「ごちそうさまです」

「リンに、元気になったら電話待ってるって伝えてくださいね」


「うん、伝えとくよ」


二人に もう一度礼を言って、先に店を出た。

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