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万象  作者: 桐崎浪漫
第二章 「花の名前」(ルカ)
46/620

11



一夜 明けた。

リンは病室で、まだ眠っている。


夜、病院に着いて 処置を受け

容態は落ち着いた。


「おそらく、脳がなんらかで興奮状態になり

てんかんの発作を起こしたものだと... 」


医者には そう説明を受けたが、リンはそのまま

眠り続けている。


オレと母さんは、深夜 一度家に帰り

リンの着替えを用意してきた。

検査のためにリンは今日も入院する。

その時に母さんに車をまかせ、オレはバイクに

乗ってきた。


「じゃあ、何かわかったら

すぐに連絡してくれ」


父さんは、眠っているリンの額に手を当てると、仕事に向かうために病室を出た。


「母さん、少し休んだら?」


オレは母さんに、病室のソファーに座るように

勧めた。


茶色く味気ないベンチのようなソファーは

座り心地も良くはないが

背もたれがついている分、今 母さんが座っている丸椅子よりマシだと思う。


母さんは 一晩中、リンの隣にいた。

目を覚ますまでは付き添う予定だ。


「まだ大丈夫よ」


「母さんが倒れたら、困るのはリンだぜ」


母さんは「そうね... 」と、リンの頭を撫でる。


看護士が病室に来て、点滴を交換し

リンの体温を計りながら

「午前中に もう一度採血して、CTを撮りますね。先生も後で来ますので」とまた出ていった。


カーテンと窓を開け、病室の換気をする。

外は今日も晴れていて 白い雲が眩しかった。


風と一緒に、薄く白い煙が入り込んできた。

煙はすぐに消えたが

ひらひらと、桜の花びらが 一枚

病室の床に落ちる。


風の精霊だ。

どこから桜なんか...


「リン?」


母さんの声に振り向くと

リンが横になったまま、眼を開いていた。


「... お母 さん?」


まばたきをして、病室を見回す。


「ここは... ?」


ナースコールを押して、看護士を呼んだ。

看護士はリンが目覚めたのを見ると、すぐに医者を呼びに行く。


医者は リンの瞳孔を診て、手首の脈に触れ

見たところは何も問題はないと 伝えた。


リンは、倒れた時のこともよく覚えてないようで「カレー、食べてたよね?」と

ベッドに座ったまま ぼんやりと聞く。


母さんが父さんに「目を覚ました」と連絡し、

いくらか安心したようで

「飲み物を買ってくるわ」と病室を出た。


「ルチの夢、見た。

よくは覚えてないんだけど... 」


「おまえさ」

立ったまま、リンを観察した。

「なんか、変なことしてないか?」


リンは オレに眼を向けると

「変なことって?」と、聞き返してくる。


「どこか、いわくつきの場所に行ったとかさ。

心霊スポットとか。あるだろ、そういう... 」


「なんだ、そういうこと?」


リンは笑った。


「誰かと、ファックしたかどうかとか

聞いたのかと思った」


「はぁ?!」


ここが病院だということも忘れ

オレはでかい声を出した。


「おまえ、何... 」


昨日、鼻を掠めた臭いがする。

何かが腐ったような。


「ニイ」


リンは笑顔のままだ。


「いつも、優しいよね。うざいくらい」


何も言わずに リンの笑顔を見つめる。

何かが おかしい。


「私のこと、触ったりしたいの?」


リンは 口の両端をゆっくりと上げた。


「誰だ? おまえ」


話してるのはリンじゃない。絶対に。


「中にいるな?」


リンは、クックッと喉を鳴らした。


「私よ、ニイ。

ニイの大切な たぁいせつな竜胆よ」


座っていたベッドから裸足の両足を床に降ろすと、白い病衣の紐の端を、指でつまむ。


病室のドアが開き、母さんが顔を覗かせた。


「リン、立って大丈夫なの?」


母さんは ペットボトルの水を 二本オレに渡して、リンの背中に手を置く。


「うん、大丈夫よ。トイレに行きたくて」


母さんは「付き合うわ」とリンを連れて、病室を出た。




********




リンが診察と検査を受けている間に、オレは母さんにさっきの話をしようかと迷ったが

結局、話せなかった。


今は、一度ひとりで病院を出た。

病院内にも売店はあるけど、外で何か買って来ると言って。


... リンは、昨日倒れたばかりだ。

何か混乱してるのかもしれない。


今日は、父さんが夕方病院に着いたら

母さんも 一度家に帰ると言っていた。


あれから リンの様子は、普段と何も変わらず

まったくいつも通りだった。

オレが白昼夢でもみたのかと思うくらいに。


コンビニでカップのカフェオレを買い

バイクにもたれて飲む。


昼間は暖かいよな、もうずいぶん。

アイスにすりゃ良かった。


ひらひらと紋白蝶が飛んでいる。


もう、春休みも終わるようだし

リンも 問題なく学校に通えるといいけど...


「お兄さん」


変声期らしき声の方に 眼を向けると

仁成くんがいた。


「おう」


仁成くんは、コンビニに入るところだったようだ。


「家から割と離れてるよね、ここ」


オレが疑問に思って聞くと、仁成くんは自転車を指差した。その自転車の荷台にはスポーツバッグが乗っている。


「空手、始めたんです」


照れ臭そうに言い

「家族に心配かけたみたいだし、強くなろうと思って」と、言い訳のように付け加える。


「オレもやってたよ、高校まで」


「本当に?!」


仁成くんは 嬉しそうに眼を輝かせた。


「精神鍛練にもいい って聞くよね。

確かに、やっててよかったと思うことが今でもあるよ」


「僕も頑張ります!

あの、下のお名前って、なんていうんですか?」


「ん? ルカだよ」


「へえ... なんか、似合ってますよね」


仁成くんは「ルカさんかぁ... 」と言いながら

何か もじもじしている。


「どうした?」


「あの、よかったら ですけど、その

連絡先の交換とか... 」


ナンパかよ。

オレは ちょっと笑った。かわいいヤツ。


「いいよ」


スマホの所有者画面を見せてやると

「やったぁ!」と

自分のスマホに番号やアドレスを移し出す。


「あの、ちょっと待っててください」


仁成くんは コンビニに走って入っていき

5分経たずに 買い物を済ませて出てきた。


手にしたビニールをガサゴソやって

「これ、どうぞ」と、一枚入りのクッキーを取り出した。

でかいチョコチャンク入りで、キャラメルソースまでかかっている。


「なんか、疲れてそうだったから」


「いいの? ありがとう」


仁成くんは また照れながら

「連絡しますね!」と、自転車にまたがり

オレに軽く頭を下げると

かなりのスピードで去って行った。


よく気がつく子みたいだけど

中学生にわかるくらい疲れて見えたか...

寝てねわしな。


クッキーの封を開けて、一口かじる。

見た目ほど甘くなくて うまかった。

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