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万象  作者: 桐崎浪漫
第二章 「花の名前」(ルカ)
38/620



冷静に考えれば、からかわれたんだよな。

弱い睡眠薬 コーラに盛られてさぁ。


目が覚めたら知らん場所でびっくりだろ

ざまーみろ... くらいな感じで。


その証拠に財布もスマホもジーパンに入ったまんまだったし、よく見りゃそこは観光地で、近くに電車も通ってた。


でも、オレは その時

ああ 死んだな って 思った。


燃えるような夕陽の中に

たくさんの異様な影がいたから。


やけに頭がでかいヤツとか

狼の頭したヤツとか、羽生えたヤツとか。


目が覚めた場所で、座ったまま

足伸ばして そいつら見てた。


影だと思ってたけど、薄暗くなってくると

そいつらの顔が見えた。


青い顔したヤツとか、白いヤツ

オレンジのヤツ、グレー、緑、水色


眼も横に長かったり、真ん丸だったり


そいつらが、オレに寄ってきて

一人ずつオレに触っていく。


まぶたを触るヤツ、頭を触るヤツ

肩、背中、額、鼻、耳、唇、頬、顎...


なんなんだよ?

オレは相変わらず ほけっとしてた。


そいつらは躍りながら消えていった。



残されたオレは、観光地だというのに独りきりで

星空の中の奇妙な夜だった。


とにかく、ホストファミリーに心配はかけられないから、友達ん家に泊まるって連絡して

そのままその場に大の字に寝転んだ。


もう冬なのに、寒くない。


でも生きてるな、オレ

腹減ってきたし。


けど、動くのは面倒なんだよなぁ...


「見えたのか?」


「うわっ!」


オレは飛び起きた。


絶対、オレ一人だったはずだ


声の主を探そうと、辺りを見回したが

誰もいなかった。


おかしい...


いつものやつら... もう身体ないヤツとかが

話してきたにしたら、なんか生身すぎる声だ。


でも、人は誰もいない。


辺りには視線を遮るものなんかない。

ちょっと離れたところに道路が見えるけど

だだっ広い赤土の上だ。


近くから、声がしたよな

ほんの隣からの声だった。


幻聴、とか?


「見えたんだな」


うん、幻聴でもないし。

なんなんだよ、もう。


「誰? 見えないんだけどー」


「おまえの心に語っている。

こちらからも、おまえは見えない」


なんだよ それ。


「先程、精霊から声が届いたのだ。

祝福を受けたな」


精霊? さっきの変なヤツら?


「祝福って、ぺたぺた触ってったこと?」


今 もし周りに人がいたら、オレって

ひとりで喋ってるヤバイ子だよな。


そんなこと考えながらあぐらかくと、目の前に煙が揺らめいた。

それが白く凝って、人の形になり

オレの前にあぐらをかく。


どうやら、ガタイは良いけど

じいさんみたいだ。


「どのように見える?」


「白い煙のじいさん」


「煙か... 精霊は

おまえの前で、今後はその形を取るだろう」


えー、もう

何言ってんのかな、このじいさん。


「あんたも精霊ってことかよ?」


「違う。

おまえと同じに、精霊の声を聞く者だ」


このじいさんは遠くにいて、精神だけ飛ばしたってことか?

それがオレには煙に見えるから、他の精霊も

煙の形に見える と


わかるような わからんような...


「で、精霊って何? なんでオレに見えるの?」


「自然の魂だ。おまえは選ばれた」


「なんで、オレが選ばれたんだよ?」


「···········」


そこで悩むなよ...


「大いなる魂の心は

一個人の知るところではない」


言い訳かよ。


つまり、煙じぃも

なんでこいつなんだ? って 思ってんだな····


精霊はどうやら気まぐれなようだ。


「まあ、いいや。

オレ腹減ってんだよね」


「... 3キロ南に宿がある」


「あ、マジで? じゃあそこに泊まろうかな」


オレが立ち上がると、煙じぃは

オレに名前を聞いた。


氷咲ヒサキ 琉加ルカ、国籍は日本だよ。

じゃあねー、じいさん」


オレは煙じぃに手を振って歩き出した。



しかしさあ、観光地のホテルなんか

予約なしで泊まれんのかな?

まあ、ムリだったら 飯だけ食うかな...


ヒッチハイクしようにも、車も通らない。

変な夜だよな。


夜はいつも、こんなもんなのかな?


いやでも、なんか

朝日を見るためにハイキングするツアーもあるって聞いたしなぁ...


南へと てくてく歩いていると

本当にホテルの灯りが見えてきた。


とりあえず飯食お。


ホテルのドアのガラスに映った自分の姿を見て、ちょっと入るのを躊躇する。


汚ねーなぁ、オレ... 土埃まみれだ。


でも疲れてるし、そっと入ってみると

ホテルのボーイが近づいてきた。


「ヒサキ様ですね?」


「えっ? はい... 」


なんで知ってんの?


「ヒポナ様から伺っております。

お部屋へご案内いたします」


誰それ?


口を開けるオレに、ボーイは言った。


「煙、と言えばわかる と

おっしゃられていました」


煙じぃ? マジか...


部屋についてシャワーを浴びると、ドアを誰かがノックする。

ガウン羽織って出てみると

部屋にボーイが食事を運んできていた。


「あ、ども... 」


それから 一時間くらいすると、デザートとコーヒーだ。オレ、あんま金ないけど大丈夫かな?


うーむ... と、コーヒーを飲んでいると

またノックされる。

ドアを開けると、煙じゃない煙じぃが立っていた。


「えっ、実在してたんだ... 」


「飲み食いして寛いで、何を言っている」


実物の煙じぃは部屋に入ってきて

テーブルを挟んで向かいの椅子に座る。

短い白髪の日焼けしたじいさんだ。

黒いシャツにベージュのズボンとかだし。


煙じぃの前にもコーヒーが置かれた。


「声が若いとは思っていたが、これほどに若造だとは... 」


「えー? なんか悪いのかよー?」


だいたい、何しに来たんだろ。

疲れて眠いんだよな。

結構食って、腹に溜まったから余計に。


「ルカ。おまえは精霊たちに、心を閉ざしているな」


「なんだよ、急に。

オレが見えたり聞こえたりすんのは精霊とかだけじゃねーんだし、しょうがねーじゃん」


「街や学校にいて、そこに人々がいることが

またその ざわめきが気になるか?」


「いや」


煙じぃ... ヒポナは日焼けした皺の多い顔に

笑顔を作った。


「一度、全て受け入れてみろ」


部屋中を白い霧が覆った。


『たすけてぇ! たすけてええっ!』


『俺はここにいるんだ、家族に伝えてくれ』


『事故じゃない、殺されたんだ!』

『今でも愛していると伝えて』

『帰りたいの、家に』

『こんなことをしてごめんなさい』

『死にたくない』『いない、探さなきゃ』

『同じ目に合わせてやる』

『いたああい いたいいたいいたいいたい』

『やめて、もう』『しらない何も、本当だ』


唸り声、叫び声、泣きわめく声、笑い声


頭が割れた男や胸が裂けた女。

傷だらけの子供、しゃがんで頭を抱える老人。


猿の頭をした蜘蛛、顔のない巨大ななめくじ。

母さんの顔をした蛇が舌を出した時

オレは失神した。


床で目を覚ました時、ヒポナは変わらず

椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。


「何か見えるか?」


オレは、身体を起こしながら

額の汗を拭う。


「... いや」


見るまい、聞くまいと意識しなくても

何も見えないし聞こえない。


「見ようとしてみろ」


は? 見ようと?


よくわからんが、意識を集中させる。

壁とオレの間 何もない空中に。


見えた


ただ、悲しくて泣いている人達や

年経た獣達

さっき見えたヤツらの実際の姿だ。


開いた窓から入る煙は風の精霊で

それに紛れて、コヨーテの煙。


見えたものを口に出すと

ヒポナは満足そうに笑った。


「おまえが触れなければ

もう、それらの想いを聞くことはない」


オレは長い息をついて、椅子に座る。

疲れた...


でも、今までと確実に何かが違う。


「おまえは精霊を味方につけた。

真実を見聞きする。

世界をひとつ 手に入れたのだ」


オレはヒポナの眼を見た。

日焼けしたシワの中の、オニキスのような黒い眼を。


「自分以外の者のために使え」


ヒポナは、シルバーのバングルをオレに差し出した。「これはその祝いの品だ、つけておけ」


バングルは、3センチ幅くらいで

鳥や狼、蛇や人、渦巻きのような模様が彫られていて、単純にかっこいいし、すぐに気に入った。


「これから、ここに通え。

自然と対話する方法を学ぶのだ」


「えー、オレ学校あるし

あと3ヶ月くらいで帰国するんだよね」


「うむ... では、週に一度」


ヒポナは そう言って、部屋を出た。

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