表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万象  作者: 桐崎浪漫
第二章 「花の名前」(ルカ)
36/620



ふぁあ...  いい天気だよなぁ...


公園にも川沿いにも、遠くの山とかにも

重たそうなくらい枝いっぱいの桜が咲いて

時々思い出したようにやわらかい風が吹く。


あくびばっか出るし。


これでもかってくらい春全開の昼間。

実家に向かって、愛車のドラッグスターを走らせている。


実家、とは 言っても、同じ市内だし

意味なくよく帰ったりしてるけど。


途中、コーヒーショップに寄って

母さんが好きな種類のコーヒーの豆を買い

リカーショップでは父さんの酒を買う。


リンには... いいか、会ってからで

あいつが喜ぶもんて よくわからんのよなぁ。


実家に着くと、リンの自転車の隣に

むりやりバイクを停める。

狭いなぁ... バイク停めてる限り自転車は出せそうにない。


世間は春休みだが、父さんは仕事らしい。

車ないし。

母さんは教会の集まりかなんかかな?

ママチャリもないし。


鍵開けて家にあがると、左手にあるリビングからテレビの音がする。

どうやらリンが古い映画を観ていたようだが

もう画面にはエンドロールが流れている。


リンは観ている途中で寝てしまったようで

ソファーで寝息を立てていた。


うん。ここは映画に合わせ、歌ってやろう。


オレは、その時に合わせ

息を深く吸い込んだ。


今だ


「... ソッ ダアリンッ ダアリン ステンッ

バァイ ミィイ!」


小さく「きゃっ」とか言って

リンが飛び起きた。


「オ~ォ ステンッ!」


「... もう! ばかニイ!」


バカだってよー

あははー


「寝てたんか、おまえ」


「え? 見ればわかるよね」


うわっ、笑えねー。

17歳にもなると兄貴の扱い雑になるな...


気を取り直して


「父さんは?」


「仕事」


「母さんは?」


「教会のボランティア」


「で、おまえは寝てたんか。

いい天気だぜ、外。

カレシとデートとかしねーの?」


リンはあくびしかけていたが

キッとオレを睨む。


「... 先輩は遠くの大学に進学したって

話したよね?」


「あっれぇ~? そうだっけー?」


かっかっかっ、遠距離になってやんのー。

そのうち終わるな これ。


オレ、こいつの今彼

気に入らなかったんだよねー。

やたら男前だったり、何ヵ国語もペラペラだったりしてさぁ...


お?


リンがオレの前を素通りし

リビングを出ようとする。


「よう、待てよ。リン」


リンは、182センチのオレより

20センチほど背が低いので

リンの頭を 上から片手で掴んで止める。


「... 手、どけてよ」


おやまぁ...

兄さんに冷たい眼が出来るようになっちまって、この子は。


「オレがデートしてやるし」


「は? いいわ」


うわぁ...


いや、負けん!


「そんなこと言うなよ!

ほらっ、行くぞ! 着替えて来い!」


「... これでいいじゃん。

着替えるのメンドクサイもん」


「ジーパン穿いてこい!

バイクだぞ、スカートはダメだ!」


リンは

「ニイが遊んで欲しかっただけじゃん」とか

軽く図星を突いて、2階へ着替えに行った。


バレてんなぁ...


だって、カレシ出来てから

オレつまんなかったんだよね。


それまではさー

『ナントカちゃんがニイのことカッコいいって言ってた』とか

『ニイ、学校まで迎えに来てよー』とか

言ってたのにさ


カレシ出来たら、途端に

『また帰って来たの?』とかだぜ、まったく

びっくりするよなー。


とりあえず、ジーパン穿いて来たリンに

ヘルメット被せて、バイクの後ろに乗せる。


「どっか行きたいとこあるか?」

「えー、別に... 」


ふっ。


「じゃ、欲しいもんは?」

「いっぱいある」


ふふ。


「よし、3つまで買ってやる」

「本当?! じゃあまず百貨店!」


バイクのエンジンを掛ける。

こうして世の兄は妹を甘やかしていくのだ。




********




ブランドもんのバック、サンダル

夏のワンピースを買ってやって

リンはやっとほくほくした笑顔を見せた。


「ニイ、ありがとうね」


「おう」


今は喫茶店でチョコレートパフェを食べている。


しかし、当たり前だけど

大きくなったよなぁ...


リンは、イタリア人の母さん譲りの

顔をしている。


白い肌。深い二重の瞼に長く揃った睫毛。

色が薄いブラウンの眼は大きく

目尻がちょっと釣り気味で、猫っぽい顔だ。

高くすっとした鼻。

血色がいい唇は口角が少し上がっている。


長くて毛先をすいた髪も、眼と同じブラウンで

中学の時は気にして自分で黒く染めていた。


「ニイはさぁ、彼女とかいないの?」


「ん? 今は別にな」


「まあ、そうだよね。

27にもなってフラフラしてるもんね」


「うん、まあな!」


... 言うようになったよなー

コーヒー吹きそうになったし。


そう、オレは定職に就いてる訳じゃねーけど

自営業で食っている。


とか言っても、従業員はオレ一人。


職種は... 祓い屋と言えばいいか

探偵?と言えばいいか... 迷うところ。


「まあ、彼女出来るまでは

たまにデートしてあげるよ」


「はいはい、おまえが欲しいもんある時な」


「はい、これ」


リンはオレに紙袋を渡してきた。


「え? なんだよ?」


中には男もんのTシャツが入っている。

ターコイズブルーの。


「私がワンピース選んでる時に、ニイ

トイレに行ったでしょ? その時に買ったの。

冬のバイト代、ちょっと残してたから」


「マジか!」


やばい...


オレは感動してじわっときた。

バレンタインの余りチョコをもらうのとは

訳が違うし。


「次のデートで着てよね」


「おう、なんなら今から着るぜ」


「じゃあ、夏休みまでにトランク買って。

革製のがいいなぁ」


「おう、なんなら今... ん? トランク?

なんでだよ?」


あっさり引っ掛かるところだったが

聞いてみると

どうやら、夏に短期留学に行くらしい。


「... イタリアぁ? 生意気だろ」


「ニイだって、大学の時に半年アメリカ行ったじゃん。なのに英語喋れないけど」


うるせー。


「私は、イタリアの叔父さんのとこに二週間お邪魔するの。それなら、パパもママもいいって」


「ふーん... そりゃ、オレも

父さんと母さんに直に聞かねーとな」


冷めたコーヒーを飲み干して立ち上がると


「なんなのー?

ニイ、どうせ反対するんでしょ?」とか言って、リンは口を尖らせる。


会計を済ませてバイクに乗る前に

「夏休みは、その先輩だかカレシだかも

帰って来るんじゃねーのかよ?

おまえ、いいのか? 会えなくて」と聞くと


「お盆の前に、行って帰ってくるから

大丈夫なの!」らしい。


あっ そう。


ちょっと黙って運転してると

後ろから、バイクの音に紛れて

「ニイ、トランクはー?」とか言ってくる。


「夏までに買やぁいいんだろ?」

オレもでかい声で返すと


「ゴールデンウィークに家族旅行したかったのにぃ、ニイも一緒に!」


オレは住宅街からあっさりUターンした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ