泡沫のヴァルカローレ
<商品説明>
・商品名 ・価格 ・内容量
上記の通り 無料 900字程
・商品タグ
主従の恋 水上都市
水上貿易自由都市ーーノレリア。
そのノレリアのほぼ中心に位置する比較的大きい邸宅の一室にノエル・バルガンは居た。
「ジェームズ。」
「はい、お嬢様。」
「これを。商会に遣いを出して。」
「畏まりました。」
ノエルは、ノレリアで1番大きなバルガン商会の会頭令嬢だ。
書類仕事を1通り終わらせ、1つ伸びをした。
すると、さっさと手配して戻ってきて、ワインを注いでくれたジェームズに見咎められた。
「お嬢様、お行儀が悪いですよ?」
「少しくらい良いじゃない。ジェームズしか見ていないじゃないの。」
「まぁ、そうですが。しかしながらその……。」
「悪いの?」
ノエルはこてんと首を傾げた。
「いえ。ただ、その姿は私の他に見せないでください。」
「あら、当然じゃないの。今はジェームズしか居ないからこうして気を張らずにいるんじゃない。」
「お嬢様、あまり煽られませんよう。」
「うふふ。初心ねえ。」
ノエルは上の中程の顔と、銀糸の髪に珍しい多色性のオッドアイ、豊満だが細いところは細い体つきと言うなかなかの容姿をしていた。
それに、未来の商会主として幼い頃から英才教育を受けて育ったためかなり聡明で多趣味である。
更に、男女問わず人を惹き付けるカリスマ性を持ち合わせているとなれば、落とせないのは童顔好きと貧にゅ……つるぺた好きなど特殊な趣味を持った一部の人間くらいだ。
「本気で落としてあげましょうか?」
「……遠慮しておきます。それに……俺も落とす側の方が好みなので。」
「まあ、仕事モードじゃなくなったの?」
「ノエル様のお言葉を借りますと、ここにはノエル様と俺しか居ないので。」
「たしかに」とノエルが微笑むとふと窓の外から小舟漕ぎ達の舟歌が聞こえてきた。
ワインを持ってバルコニーに出ると満月から少しだけ欠けた月が覗いていた。
「残念、きっと昨日が満月だったのね。」
「そうですね。ですが、とても美しいです。」
「ええ。このまま時が止まれば良いのに……。」
ノエルはぐいっとワインを飲み干すと、グラスを置いてジェームズに抱きついた。ジェームズはそっとノエルの背に手を添えてしばらくそのままで居た。
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それが小舟から見えていた会頭をノエルが説得するのはまた別の話である。