花開く大樹をふたりで
<商品説明>
・商品名 ・価格 ・内容量
上記の通り 無料 1350字程
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幼馴染み
昼間の熱が残るなか、なだらかな丘に並ぶ2つの小さな人影が一本の大樹を凝視している。
「もう、ちょこーっとだよ!じゅうねんに、いちどって、おかあさんが、いってたもん!おつきさまがでると、さくんだよ!」
「ほんとに、さくの?ぼく、あのきにはなが、さいてるところ、みたことないよ?」
「さくの!だって、おかあさんが……あ!」
「わぁ!!」
2人が凝視している大樹の蕾が一斉に花開く。
「まっしろ!」
「すごい……!リーナも、いっしょなら、よかったのに。」
「うん……。また、いっしょに、みよう。」
「うん!」
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「アルト、おはよう!はい、今日の分のお昼。」
「ふわぁあ…………おはよう、マリー。」
「もうっ!朝から欠伸なんてして!」
新人裁縫師のマリーと木細工師見習いのアルトは小さい頃からよく遊んでいた。
10年前、当時5歳だった2人が村のはずれの丘で《大樹の花付け》を見たのはもう1人の幼馴染みで1つ年上のリーナが風邪で寝込んでいたからだが今年は違う。リーナはマリー達から見て3つ上の村長の息子、ベンと結婚した。
結婚してから1度目の《大樹の花付け》は夫婦で見るしきたりだ。もちろん、子供がいれば一緒でもいいが2人で見ることが推奨されている。
「今日、ちゃんと空いてる?どうせ彼女も居ないんだしあのときの約束、守ってくれるわよね?」
「一言余計だよ。だいたい僕にだって…………ううん。なんでもない。」
「なによ?」
「内緒。あ、そうだ。今回は泉の方から見ようよ。去年の今頃ホタルを見掛けたんだ。」
「むぅ……わかった。」とマリーが頷いて2人はそれぞれの職場に向かった。
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宵闇のなか、マリーが泉の畔でアルトを待っていると、アルトは走ってやって来た。
「遅いよ!もう……30分くらいで枯れちゃうんだからね!」
「ごめんっ。先輩達に片付け押し付けられちゃって……。」
「……仕方ないなぁ。まだ咲いてないから許してあげる。」
「うん、ありがとう。それから……。」
アルトは鞄をごそごそとかき回して小さな箱を取り出した。
「これ、開けてみて?」
「ひょっとして……。」
マリーはリーナがベンからこういう箱で指輪を貰っているのを見たことがあった。
「……髪飾り?……あ。」
「ごめん、指輪じゃない。」
「ううん、いいよ。ここ、これアルトが作ってくれたんでしょう?」
箱の中の髪飾りを手にとって見ると目立たないところにお洒落な文字で彫り込みがしてあった。アルトからマリーへ、と。
「うん。僕が初めて誰かの為に作る作品はマリーにあげようって決めてたんだ。師匠からそろそろ作ってみてもいいんじゃないかって言われて。」
「凄く嬉しい!ありがとう、アルト。」
「どういたしまして。あ、始まるよ。」
普段より大きな月が出て、大樹に月光が当たると1つ、2つと花が開きあっという間に満開になった。
「きれいね……。」
「うん、そうだね。凄く綺麗だ。」
アルトはそっとマリーを見ながら答える。
「……僕が一人前になって、きっと。」
「なにか言った?」
「別に。次の《大樹の花付け》までの目標を立てただけ。」
「次の《花付け》かぁ……私達25歳だよね。結婚とかしてるのかしら……。」
マリーが呟いた一言にアルトはさらりと答えた。
「きっとしてるよ。」
僕と君とでね、と内心で呟きながら。