雲から覗く月
<商品説明>
・商品名 ・価格 ・内容量
上記の通り 無料 700字程
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悲恋 大正ロマン風
女学院を卒業して、わたくしは明日お嫁に参ります。
第二次世界大戦と呼ばれる戦争に日本が勝って100年。
わたくし達、百瀬の一族は高位の華族に嫁ぎ嫁がれ、時として天皇家にも嫁に出したことのある名門華族。
わたくしもいずれよく存じ上げない高位の華族に嫁ぐことは分かっておりました。分かっておりましたけれど…………。
――せめてあの方なら良かったのに……。
わたくしの友人、桜華家の梨杏様のお兄様。わたくしの初恋のお方。会いたいとは思うけれど決して口に出すことは赦されません。
「時仁様…………。」
「私を呼んだ?」
「っ!?と、時仁様?どうなさいましたの?」
声に出すつもりはありませんでしたのに…………気を引き締めなくてはなりませんね。と言うよりも時仁様がいらっしゃるだなんて思っておりませんでした。
「どうって雅人殿に会いに来た帰りだよ。」
「お兄様に……。」
「それで?どうしたんだい?」
「どうとは?」
確かに嫁ぎたくはないと思っておりましたが顔には出して居ないはずです。
「いや、空を見上げながら私の名前を呟かれたら気になるじゃないか。」
「ふと、明日の結婚式にお呼びした方が宜しかったかと考えておりました。」
「いいよ。私は呼ばなくて。」
時仁様はそう仰りながら夜空をご覧になりました。わたくしもつられて空を見上げると満月が雲から覗いて見えました。
「……月が、綺麗だね。」
つきん、とわたくしの胸が音をたてました。文豪の仰る言葉は正しいものですね。きちんと伝わってしまうのですから。ですが…………。
「手が、届かないから……月は美しいのです。」
「…………そう、だね。」
「……お慕いしておりました。わたくしは、明日美山家に嫁ぎます。」
わたくし、笑えておりますか?