戦え茂木茂孝4
指が少し切れてしまった。ナイフにフタをせずにポケットに突っ込んでしまっていたようだ。
「もー、茂木くんったら気をつけてよ」
「すまん・・・必死だったから」
取り出した玉をレナに渡す。
「あーあ、すごいキズついちゃってるよ。むき出しの刃物と一緒にいれるから削れたんだ」
「それは悪かったと思ってるぞ。でももっと俺の功績を称えてくれよ。あのスゲー強そうなあくまからこの玉を守り切ったんだ」
「すごいよ・・・」
藤原の雑な誉め言葉をココアと共にすする。初めは重要参考人みたいな扱いだったのに、最近適当じゃないか?
「とりあえずコレはヒカリに渡して見てもらおう」
「その前にボスに報告しないと!」
慌ただしく階段を降りる2人。俺もココアをぐっと飲み干し、後に続いた。
「え~~~?そんな!?」
2人が同時に声を上げたのは、ボスの発言の直後だった。
「上からお達しがあったけん。仕方なか」
どうやら俺が持って来た玉は、証拠として防衛省に押収されるらしい。
「せっかく茂木くんが命張って守ったのに成果は横取り!?ひどい!」
プンスカ怒っているレナ。そんなことより俺はここがちゃんとした政府公認の組織だったってことの方に驚くよ。自警団じゃないんだ。
「そりゃそーよ。じゃなきゃどうやって生活すんのよ」
もっともです。藤原が俺に向かって言う。
「一番怖いところは、自分の血税がどうやって使われているのか不透明なことだね。ココもそうだし」
「どうしたのみーな急に。得意気に政治のことを知ったかぶるイキリみたいな発言して」
レナに突っ込まれた藤原は、バツが悪そうな顔をしている。図星か。
「すまんけど、玉は私が預かって防衛省の使いに渡すけん」
ボスは苦虫をかみつぶしたような顔で言う。そんなに玉を渡すのが嫌なのか・・・。確かに俺が死ぬ気で悪の手から守り抜いた証拠を権力で横取りされるのはいい気がしないな。
AOAのロビーにエリートそうなスーツを着た人々が出入りして、厳重に玉を持ち去った。俺はココアを飲み干した途端に眠気が襲ってきたのですぐに帰宅する。莉子がリビングでテレビを観ていた。
「お兄ちゃん?」
「ただいま」
のんきにアイスなんて食べて。俺は大変だったんだぞ!
「なんか疲れてる?お風呂入りなよー」
「シャワー浴びてきたからいいよ、寝る」
そう答えて自分の部屋に行こうとしたら、莉子に突然肩を掴まれ制止した。
「え・・・なんだよびっくりした」
「お兄ちゃん・・・」
今まで聞いたことないような低い声で尋ねてくる妹に動揺する。何が莉子を突き動かしたんだ・・・?
「シャワーって、どこで、なんで浴びたの?部活入ってないし、習い事も何もしてないよね・・・。最近
帰りが遅いのもそのせい?」
何してたの?疑いの目が俺を貫く。あくま退治してました、なんて当然言えるわけないし、一体なんて誤魔化せば・・・。混乱した俺はとっさに最悪の名前を出してしまった。
「藤原と・・・」
莉子との共通の知り合いが、藤原しかいなかったんだ仕方ないだろう。その名を聞いた莉子の目が見開く。
「藤原さんと何したの!?」
アレ・・・?てっきり怒られるのかと思っていたら、莉子はむしろ少し嬉しそうに、興奮した様子で詰め寄ってきた。
「何って・・・何だろう・・・」
うまく誤魔化せそうなセリフが見つからない。
「ナニをしたの!?藤原さんとナニをしたの!?」
それはちょっと無理矢理が過ぎるぞ。
「キャーお兄ちゃんのケダモノぉぉ」
「ちょっとお兄ちゃん死ぬほど疲れてるから寝させて・・・」
「藤原さんとナニをしたから死ぬほど疲れてるのね!」
もういいや・・・おやすみ・・・。