戦え茂木茂孝3
ゆっくりと目を開けると、そこは響さんの車の中、正確に言えば後部座席に座った響さんのたくましい腕の中だった。
走ってる俺をどこにもぶつけず優しく抱え上げるなんて、どれだけの力が必要なんだ・・・。
ボスは運転席にいて、その細い繊細な身体繊細な身体とは裏腹に荒くて力強いハンドルさばきを披露している。
「クソこのっ!」
ドスン!と鈍い音は前方から。あの大男に車で突進したらしい。殺してしまったのでは、と真っ青になった俺の心配は無用で、何事もなかったかのように起き上がったを見て更に血の気が引いた。
「なっ・・・何なんですかあいつ!車にぶつかって兵器とか人間じゃない!」
「あくまだからな」
響さん・・・そうなんだけどそうじゃない。タイヤがキュルルルと高い音を立てて後ろに下がる。ボスが大ぶりにハンドルを切ると、車は左の裏道に入った。
「ぎゃーーーー!!」
内臓が引っ張られるような感覚に思わず叫ぶ。
「飛ばすけん!」
車体を擦っているんじゃないかと不安になるくらい細い道を猛スピードで駆け抜けていく。
「あ”-!!!死にますって!!」
「大丈夫けんこれでもゴールド免許と!」
記憶を消す技術持ってるくせに!!そんなもの誤魔化し放題じゃないか!途端に俺の身体が前に飛んだ。(響さんが未だに抱えていてくれたお陰で前の座席で頭をぶつけるだけで済んだけど)
今度は急バックしてあくまの男にぶつける。ボス達に会えたから安心だと思ったのは間違いで、寧ろ車の
中にいる方が危なそうだ。俺の身が。サイドミラーには再び立ち上がった大男が映っていた。タフすぎるぞ!!かすり傷すら無いんだがスーツの下に鎧でも着込んでいるのだろうか。
「仕方ない。武器もないけん、あったとしても通用するか怪しか。逃げるとよ!」
そしてボスはアクセルを深く踏み込んだ。
「ええ?!でも藤原達が!」
「そっちはアヤカ達に任せてあるけん!」
イノシシのような地響きが遠ざかってゆく。どうやら大男から逃げきれたらしい。
本部に着いた俺は森井さんに頭をくしゃくしゃにされつつココアを入れてもらい、ほっと一息ついていた。やはりいくつになってもココアは心を落ち着けてくれるな。後から帰ってきたレナとみーなは意外にもピンピンしていて、脳震盪で気絶したことと何か所か打撲した以外は平気のようだった。音からして骨が何ヵ所か折れてるかと思っていたが。
「そこまでヤワじゃないよぉ」
ヘラヘラしているが、お前ら二人ともめり込むくらいの力で殴られたんだからな?あのあくまの男も、この二人も到底人間とは思えん。
そういえば茂木くん、例のビー玉は?」
ビー玉・・・?あぁ、赤いやつのことか。
「ポケットの中に・・・イテッ」