茂木茂孝の決心6
「うわぁ!」
目を覚ましたら、暗くて冷たい牢屋の中だった。部屋の正面と背後の小窓には格子がはめられている。俺は後ろ手に縄で縛られたまま寝転がっていた。えーと、なんで俺はこんなところに居るんだ?必死に記憶を辿る。スライムが逃げて、あいつがトイレ行って……足音がして、俺を殴った人物が格子越しに俺を見下ろした。
「おいなんのつもりだよ!俺を殴る上に、こんなところに閉じ込めやがって」
藤原は表情を変えない。少し怒ったような、楽しそうな、微妙な顔のまま立っている。
「おい答えろよ!」
俺が顔を真っ赤にして怒っているのをみるのは飽きたのか、ゆっくりと立ち去った。
「おい待てよ!卑怯だぞ!」
格子に体当たりしようと立ち上がったら、両手を縛られているせいでバランスを崩して転んでしまった。顔面が硬い床にジャストヒット……。ただでさえ殴られててボロボロなんだから、労らないと。でもそのお陰で少し冷静になった。
「考えられる可能性としては……」
藤原が俺を裏切った?でもなぜ?もしも、ペトリを逃がしたのが故意だとしたら。あいつは正義感が強い……はずだから、そんなことは無いと思いたい。しかし俺の推測をだめ押しするようにペトリが現れた。
「ペーッペッペッペ!バカペな!」
「藤原はお前の仕業か?何をしたんだ?洗脳か?」
「奴はペトリに寝返ったペ!」
ペトリの声がキンキンと頭に響く。
「奴は今では我々あくまのスパイ!ざまあみろペ!」
ペトリは言いたい放題吐き出すとそそくさと出ていった。あいつ、藤原を引き入れてどうするつもりなんだ?もし、万が一藤原があくまサイドに寝返ったとしたら?そうでなくても、何かしらの事情であくまに加担していると仮定しよう。ペトリは藤原のことをスパイだと言った。
ということは、AOAのみんなが危ない!このことを誰かに警告しなければ。幸い足は自由だったので、芋虫のように這って胡坐をかいた。縄抜け、森井さんに習っておいてよかった。
「親指を引っ込めて、手首をひねって、こうして、こう。よし」
そうしたら、まずは所持品の確認だ。ポケットの中には小銭とガムの包み紙くらいしかないと思う。森井さんからもらったバニーちゃんのマスコットはベルトに引っ掛けてある。これを使ってそとに……ってさすがに無理か。え、携帯電話もあった。さすがにガバガバすぎないか?こういうのは没収されてるかと思った。ちゃんと電波もある。まあこれなら都合がいいな。本部に電話しよう。
コールが三回鳴ると、ガチャという音がした。すかさず俺はまくしたてる。
「盛川さんですね!?時間がないので一方的に話します!藤原は何らかの理由であくまに寝返りました!もしかしたら洗脳とかかもしれません!だからうかつに信じないようにしてください!」
その瞬間、同時に二つのことが起きた。まず、携帯が物凄い勢いで吹っ飛んで、粉々になった。
そして、背後から藤原の
「え?なんのこと?」
という少し焦ったような声。携帯を壊したのはペトリだった。後ろにはなぜか藤原。どうやって中に入ってきたんだ?ペトリが高笑いした。
「ペーッペッペッペッ!騙されたぺね!」
意味が分からない。藤原も隣でポカンと口を開けている。
「これは一体どういうことなの?」
こっちが聞きたいぜ。