リンとフジ
教室の窓からグラウンドを眺めている私の幼馴染みのフジは、極端に無口だ。一日に五回声を聞くか聞かないかというくらい、何も話さない。
その代わりに、感情に合わせて表情が変わるから、何を考えているのかすぐにわかる。そんなフジとは幼稚園の頃からずっと一緒で家も近所だから、付き合いも長い。
彼の好きなもの、嫌いなもの、興味のあること、悩んでいること。色んなことを私は知っている。もちろん、フジも私の色んなことを知っている。
でも一つだけ、彼に言えてないことがある。
それは、フジのことが好きってこと。
私は、いつの間にかフジに恋をしていた。
だけど、この想いは叶わない。
だって。
「……」
一点を見つめるフジの視線を追う。そこには、クラスメイトの男子がいる。
フジの恋愛対象は、同性だから。
「……」
グラウンドで楽しそうにサッカーをしているクラスメイトを見ていると、胸の辺りが痛んだ。遠くに見える山に視線を移しても消えない。嫌だな、この痛み。
彼の恋愛対象を知ったのは小学五年生の頃。
二人でフジの家で遊んでいた時に「リンだけには知っていて欲しいことがある」って言って話してくれた。それを聞いて、正直驚いた。「まさかフジが」って思ったけど、偏見はなかった。誰が誰を好きになろうと、自由だと思ってるから。
なのに、心はモヤモヤしていた。何だろうってずっと考えてた時、初めて自分の気持ちに気付いた。
そこから私は、叶わぬ片思いをしている。
「フジ、見過ぎだよ」
指摘すると、フジは恥ずかしげに私と同じように視線を遠くの山に移した。そういう反応、可愛いなぁ。私が小さく笑うと、フジが不貞腐れた表情を向けてきた。きっと「何で笑ってるの?」って思ってるんだろうな。
「フジの反応が可愛かったからだよ」
言いながら、少し高いところにある頭をわしゃわしゃと撫でる。
すると、フジにお返しとばかりに同じ行動をされた。
「わっ、何するの!?」
私は思わずフジから手を離した。フジを見上げると、ニッと笑った顔が見えた。胸がキュンとなる。私の、一番好きな表情。
ついつい、じっとその顔を見つめてしまう。
すると、フジが不思議そうに見つめ返してきた。
その視線が私を我に返らせる。
「ごめん、ボーッとしてた……!」
慌てっぷりが面白かったのか、フジがまた笑った。私もつられて笑う。
とりあえず話を逸らそう。不自然じゃない話。
「あ、そうだ! 今日の放課後、ラーメン食べに行かない?」
「行く!」
彼の明るい声と表情が、私を嬉しくさせる。
私の気持ちを伝えたら、きっとフジを困らせると思う。二人の関係が壊れることはないだろうけど、そんなことさせたくない。だから、気持ちを言えずにいる。いや、言わなくていいんだ。
フジの隣にいられるだけで幸せだから。
これ以上は、何も望まない。




