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8.そんな番組あったの知ってるわ

「正確な時間が分からないからな。適当なところで起こすぞ」


 エイティの言葉に、ユーリとゴローは片手を上げて答える。そしてテントの中に潜り込んでいく。

 エイティとドーリは焚き火を挟んで向かい合った。お互いの背後が見えるようにとの配慮だろう。

 しばらくの間お互い喋りもせず、火を見ながら考え込んでるようだった。テントの中の二人が寝付くまで静かにしておこうと気遣っているのかもしれない。

 ある程度の時間が経って黙っているのにも飽きたのだろう。ドーリが両手を頭の後ろに組んで、エイティに話しかける。


「実際この状況って何なんだろうな」


 エイティも地面に両手を後ろ手について背を伸ばす。


「たぶん異世界なんだろう」

「ユーリが言ってた神みたいな奴か。この姿もスキルもゲーム通りって事は……実は井上の野郎がそういう存在だったとか」

「俺もそれを少し考えたが、まあ無いだろうな」

「ねえな。あいつの性格なら事前説明くらいするだろ。というか、こっちが望まなくても説明しまくるわな」

「その辺りは考えても仕方ないだろう。明日の探索次第だが……少なくともこの周辺一帯はまともな場所じゃない」

「どういう意味だ?」

「一応こうして見張りを立てている。だが昼間氷らせた海に魚は見あたらなかった。ドーリは獣、いや鳥の一羽でもいい。見かけた覚えがあるか?」

「……見てねえし鳴き声すら聞いた覚えねえな」

「たぶんここは安全地帯、いやスタート地点と言うべきか。何も無いのだろう。だが空腹は感じた。居続けると待ってるのは餓死だろうな」

「ぞっとしねえな。ここから動いてくれってか。俺等に何をさせてえんだ」

「わからない。ここが無人島の可能性すらある」

「生存アンド脱出ゲームを観て楽しむってか。そんな番組あったの知ってるわ」

「失敗しても救助は来ないだろうがな」


 エイティが皮肉げに言った。

 なんの説明も無しにこの状況に放り込んだ存在が、彼等が危うくなったとしても手を差し伸べることは無いだろう。

 エイティはそう考えているようだ。


 ドーリは頭の後ろに組んでいた手を解いて両手を目の前にかざした。

 何度も握ったり開いたりしながら呟く。


「場所もまともじゃねえし俺等もまともじゃねえって訳か」

「この身体のことか。四肢の骨折や欠損までいくと分からない。だが裂傷や打撲程度では能力は変わらないのだろう」

「痛みが持続しねえし血も流れ続けねえもんな。武具を持つ俺等はともかく魔術師のお前は四肢が全て欠けても問題ねえってか」

「試す勇気はないが、たぶんな。HP制の弊害だな。HPがフルでも残り一パーセントでも能力が変わらないというのは」

「この世界の生物が全てこうなのかよ」

「それはないだろう。爪で裂かれようが牙を立てられようが血を流し続けて弱ることが無い。草食獣は肉食獣に狩られることがほぼ無くなり肉食獣は全滅している。草木が食い尽くされて草食獣も滅んでいるだろう。その後生き残った植物があっても、遊離酸素が増え続ければ植物すら絶滅しててもおかしくない」

「はっ、俺等だけが化け物ってか。もし人が居ても係わるべきじゃねえかもな」


 再び両手を頭の後ろに組みながら自嘲気味にドーリが呟いた。

 化け物という言葉に反応したのか、エイティが呻るように言葉を発していく。


「俺達を送り込んだ奴がこんな身体にしたんだ。気にすることは……いや、気遣ってやる必要など全く無い。はっきり言おう。魔王を倒せと言うなら倒してやる。だが魔王が街に攻め寄せたなら街ごと燃やし尽くす。足を引っ張る貴族や国があるなら魔王よりも先に攻め滅ぼす。それが宗教なら信徒全員根切りにする。魔王を倒す代償に何千何万の犠牲を生み出そうと気にしない。皆で無事に元の世界に戻るためなら、この世界が滅びようとも一向に構わない!」


 エイティの叫ぶような強い言葉にドーリは驚いたようにエイティを見る。

 確かにエイティは芯の通ったところがある。責任感も強い。

 しかし自ら他者を犠牲にするような冷酷さは持っていない筈の男だ。エイティも精神的に弱っているのかもしれない。

 その宣言のような言葉は誰に向けて放ったのだろうか。


「おい」

「ああ……すまない。気が昂っているようだな、俺は」


 エイティも自分の言葉に違和感を持ったのだろう。相当参っているらしい。

 気を取り直して普段の落ち着いた話し方でドーリに謝る。

 ドーリは雰囲気を和らげるためか別の話を続けた。


「ゴローじゃねえが異世界物の転移者って大抵一人だろ。しかも『普通』の高校生とかなんだろ。精神タフ過ぎるんじゃねえか、奴等って。俺はつくづくお前等が一緒だったのが幸いだったと思うぜ。独りだったら絶対立ち竦んでたろうな」

「赤子の状態の転生だと異世界に馴染めるのも分からなくはないがな。正直に言うと今でも戻れるのか不安で一杯だ。けれど皆が揃っている限り頑張れるだろう」


 ドーリは小さな声で「皆が揃っていれば……か」と呟いた。

 そしてスキルや回復を試す時にエイティが最初の被験者だったのを思い出す。

 スキルはともかく、回復の方は下手をすると治らなかったり痕が残る可能性もあったのだ。それをドーリがやろうとするのを止めてエイティは率先して行った。

 それらを考えて、エイティの宣言めいた言葉の中で気になった最後の部分について語りかける。


「昔も言ったが、やっぱお前リーダーに向いてると思うぜ。引っ張っていくタイプじゃねえしポカも多いけどな。まあ調整型まとめ役としては皆信頼してるんだぜ。けどユーリもゴローも、俺だってガキじゃねえんだ。お前が背負い込む必要はねえからな」

「そうか……そうだな。一部褒め言葉じゃなかった気もするがまあいい。良い意味と受け取っておこう」


 そして彼等は時折推測にもならない話をしながら時を過ごしていた。

 エイティは日没時に水平線近くにあり目印としておいた星が中天を越えたあたりで立ち上がった。

 テントに顔を突っ込み声をかける。

 ユーリとゴローが装備を改めて出てきた。眠くは無さそうだ。

 そして簡単な引継ぎを行った。どうやら生物の気配が感じられないことや雑談の内で有益そうなのも含めて。


「陽が昇ったら起こすねえ」


 ゴローの気の抜けた声に、エイティとドーリは肩をすくめてテントに潜り込んでいった。

 ここから朝までユーリとゴローの見張りの番になる。たぶん見張りの意味は無いのだろうが。

 彼等は先の二人と同じように焚き火を中心に向かい合って座った。

 そして、しばらく黙っていた。これも先の二人と同様に寝入るまで邪魔しないようにしているのだろう。

 周辺に生物がいないことが分かっているからか、ほとんどの時間星空を見上げていた。他に明かりがないためであろう。満天の星空と言う言葉を完璧に表現しているようだ。

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