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78.絶対に許さない、絶対にだ

 それよりも彼等はギルド長の立場の方が気になるようだ。

 どう見ても貴族には見えない。叩き上げの冒険者と言われた方が納得出来る容姿なのだ。

 だが、クーディ達は驚いている様子がなかった。商人組合の代表も同様だ。ギルド長の立場を知っていたのだ。

 なるほど領兵が黙って従うわけだ。指揮権を持つのも当然だろう。

 ユーリは改まってギルド長に話し掛けた。


「子爵様でしたか。今までの無礼な物言い申し訳ありませんでした」

「よしてくれ。君達はそんな事、全く気にもしとらんだろう。それに儂の家は武人の家系だ。言葉遣いなど気にはせんよ」


 ギルド長は笑って受け流していた。

 名乗りもしていなかったのだ。気付かなくても当然だろう。自分の容姿が一般的に貴族と言われる者と異なっている自覚もあった。

 それに知っていても彼等四人の態度はさして変わるまい。異国人の彼等には他国の爵位など関係ないのだ。それなりの敬意は払うだろうが。

 武具を携えたままを許可しないならば、領主との謁見すら断る連中なのだ。

 さらに異国人でなく、本当に「異界人」なら。この世界の秩序そのものを無視していても不思議は無い。


 絡んできた連中が連行されるを待ち、彼等一団は敷地の中に入っていった。

 屋敷自体はコの字をした二階建ての建造物のようだ。たぶん両側にせり出した部分から、入口に立つ者達を見張るためであろう。不審者の場合はそこから矢を射る事の出来る様に。

 門番が連絡していたのであろう。家宰と思われる男が玄関前に立っていた。

 ギルド長が先に進み到着を告げる。

 家宰の男は恭しく右手を胸に当てる礼をして、玄関の扉を開いた。

 どうやら、この国でも礼の仕方はクスマナエと同じようだ。


 領兵はこの場に残して置くようだ。

 彼等四人とクーディ達三人、ギルド長と商人組合代表だけが館の中に入る。

 そして一旦控え室と思われる場所に案内された。一階にあるらしい。

 そこは二十畳ほどの部屋で、テーブルにソファが置かれている。十人くらいは楽に過ごせる部屋のようだ。

 彼等四人はソファに腰掛けて、部屋の内装などを眺めている。今まで歩いてきた廊下の様子などを考慮しても、時代にそぐわない物は無さそうだ。

 ギルド長と組合代表は、彼等の向かいのソファに腰掛けている。クーディ達は落ち着かないのか立ったままだ。


 少しして家宰の男が女性数人と共にお茶を運んできた。

 やはりハーブティのようだ。小麦で作ったクッキーのような物が一緒だった。

 領主で余裕があるためだろう。もしくは客人向けに見栄を張っているのかもしれない。


 女性達も揃いのエプロン姿から、たぶんメイドだろうと思われた。

 だが現代日本人が思い浮かべるメイドとは異なっている。

 生成りのシャツに赤いベスト、茶色の足元まで隠すスカート。腰からスカートの裾まで隠すエプロンも生成りだ。

 頭も髪全体を隠す三角巾のような物である。こちらもエプロン同様に生成りだった。

 黒や紺を基調としたワンピースと、真っ白なフリルのある前面を覆うエプロン、ヘッドドレスと言われるような可愛らしいカチューシャ。俗にヴィクトリアンメイドなどと呼ばれる衣装とは大違いだ。


「領主は転移転生者じゃ無いのかもしれないな」

「僕もそう思うよ」

「現代日本、いや現代地球の者なら、この格好はさせねえよな」

「これがメイド? ……絶対に許さない、絶対にだ」


 彼等はメイドの姿に、領主が転移転生者の可能性は低いと思ったようだ。

 なぜか怒りまくっている者までいる。領主に罪など無いだろうに。


 お茶を配り終えると家宰の男もメイド達も部屋から退出する。

 家宰の男は領主に客人の到着を告げに行ったのだ。メイド達はソファに座る彼等の話を聞く訳にもいかずに出て行ったのだろう。

 家宰自身が出迎えに赴いたのだ。賓客扱いなのだ。子爵位を持つギルド長を迎える為かも知れないが。


 お茶を飲んで一息ついた所で、ギルド長がこの後の予定を告げだした。


「謁見の名目はラゴギョノテ討伐の謝意の表明となる」

「なるほど。クーディ達が居るのはその為ですね」

「謁見自体はすぐに終わるだろう。本当は武具も荷物も、この部屋に残して置いて貰いたいのだが……」

「お断りします。昨晩の襲撃、今朝の宿屋前の男達、先程の『貴族の嫡男』の衛兵。この街は全く信用出来ませんからね」

「だろうな。謁見の場には他の貴族も出席する。一応領主が触れを出しているから大丈夫だとは思うが」

「剣さえ抜かれなければ、多少の物言いは無視しますよ」


 ユーリは従うとは言っていない。その事にギルド長は気付いている。

 跪けだの、頭を下げろだのと騒がれても、彼等は従う気は全く無いのだろう。

 領主がそれを咎めずに放っておくなら、彼等は踵を返して謁見の場から去るだけだ。もし誰かが立ち塞がれば、その者を斬り捨ててでも。

 仮に馬鹿な貴族が剣を抜きでもしたなら、謁見の場は血に染まるに違いない。

 また自分が動くしかないとギルド長は嘆息していた。


「謁見が終われば再度この部屋に戻る。そこからが本番だ。領主がこの部屋に参られるだろう。その際はクーディ達は部屋の前で見張りをして貰う」

「彼等には聞かせたくないと」

「そうだ。その時は私も領主の側に立って護衛をする事になる」

「でしょうね」


 ユーリは笑って答えた。

 ギルド長を味方だとは思っていない。彼にとって大事なのは街を守る事だ。

 盗賊に襲われた被害者だから、ユーリ達の側に立っているのだ。

 彼等が起こすかもしれない「災害」を危惧しているのかもしれない。既に二件の火事が発生しているのだから。


 クーディ達もギルド長の指示に文句は無いようだ。

 ユーリ達のような化け物と、偉い人達の間で行われる話など聞きたくもない。

 下手に関わり続けると、どんな目に合うか分かった物ではないだろう。既に手遅れなのかも知れないが。


 ノックの音がした。

 ギルド長が確認に行くと扉の前に領兵が一人立っていた。ギルド長も見覚えのある信頼の出来る領兵の一人だ。

 彼の囁きに耳を傾けていたギルド長は、少し考えて組合代表を呼んだ。

 そして二人揃って領兵の報告を聞いている。ユーリ達には聞こえないように気を使いながら。


 ユーリは別に気にしていない。

 たぶん朝の宿前の男か、先の貴族嫡男の件だろう。その男爵とやらが黒幕かもしれないが興味は無い。報告された領主が適当に処分するだろう。

 逆恨みで襲ってくるかもしれないが、その時に対処すれば良いのだ。その場合は、その男爵一族全員の遺体が転がる事になるのだろう。


 連絡が終わったのか領兵は去っていった。

 ギルド長と組合代表は元の席に戻っている。二人は黙ったまま考え込んでいるようだった。どうやらユーリに説明する気は無いらしい。


 しばらくすると家宰の男が戻ってきた。

 そしてギルド長に囁きかける。ギルド長は肯くとユーリ達とクーディ達に同行するように言った、

 名目はラゴギョノテ退治の褒章だ。クーディ達が依頼を受けた事はギルドで調べれば一目瞭然だ。当然参加すべきなのだ。


 商人組合の代表も参列するらしい。もちろん彼等の傍ではなく、参列者側の下座に立つ。

 もっとも彼も本番は謁見後になると思っている。

 領主に商人達による不手際を報告しない訳にはいかない。今しがた連絡に来た領兵が、既に領主に連絡しているのだろうが。

 彼だけは少し駆け足気味に去っていった。

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