59.ここは良い国のようだな
「俺等の知り合いにはいない。自分達で情報集めして貰うしかないが、それでも良いなら街まで案内するぞ」
「ああ、それは助かるな。案内を頼む」
「ついでにギルドでラゴギョノテの事を話してくれるか?」
「構わんさ。どうせギルドには顔を出す必要はあるだろうしな」
その返答にクーディは、ほっと息を吐いた。
彼等はギルドに行く事に抵抗が無い。少なくとも手配が回っているような犯罪者ではないということだ。
明らかに遠方の出身、黒髪のエイティがその姿を隠してもいない。他国の間諜な事も無いだろう。
クーディ達はラゴギョノテを獣道から外れた場所に引き摺っていく。
道の真ん中に放置して屍肉喰らいの獣などが寄り付くのを防ぐためだ。ユーリ達も残りの二匹を同じ場所まで引き摺っていった。
「助かる。さすがに凄い力だな。俺等と同じくらいの齢みたいなのに」
「ガキの頃から強くなる必要があったからな。子供も全員が黒髪の場所で、俺達みたいなのがどんな扱い受けるのか想像できるだろ」
「ああ、大人は事情分かってるだろうが子供には関係ないよな」
「そういうことだ。物心付いた頃には、親から武器の扱い方を教わっていたよ。貴族でもないのにな」
ユーリは貴族でないと警戒を解き、幼少から鍛えての強さだと納得させるような話をしていた。
ドーリと同じように適当な経歴を作るのに慣れているのは、TRPG経験者だからだろうか。
森の奥深くにラゴギョノテを放り捨てて、獣道に戻ってきた。
クーディは獣道の先を指しながら告げた。
「このまま山の麓まで進むと広い道に出る。ルレッダとレカをつなぐ道だ。俺達はレカの街に向かう」
そして三人の冒険者と四人の迷い人は獣道を進み始めた。
来た時に枝葉は掃っていたのだろう。ドーリですら身体に枝が当たったりする事は無かった。
この道はどこかに通じているのではないそうだ。単に薬草採取や狩りの為に、木々が密集していない場所を皆が歩いているうちに出来ただけであった。
逆側に進んでいても、最終的にはクーディの言った街道に出るらしい。
ユーリは情報収集のつもりか適当な話をしていた。
「解体しないのか。俺等のところだとトカゲは鶏と同じような味だったが」
「あんた等のところにはいなかったのか? ラゴギョノテはトカゲとは違う。食えたものじゃない」
「面相が豚のような人型の魔物はいたがな。味も豚そっくりの」
「確かに食える魔物も多いが……ラゴギョノテは頼まれてもお断りだな」
「なら街は近いのか。野営が必要なら狩りをしておきたいが」
「一刻半くらいだな。夕一刻には着くよ。この時期ならまだまだ明るいさ」
どうやら時制はクスマナエと同じようだった。
詳しい日付を尋ねると夏後期二旬に入ったばかりらしい。
そして晩夏の時期でも夕一刻が明るいのなら、クスマナエより南だろうがそれでも高緯度なのだ。クスマナエ王国がスカンジナビアの緯度なら、エルツフス王国はイギリスかドイツくらいの緯度に相当するのだろう。
鶏や豚と言う言葉にも疑問を持っていない。
動物関係も地球と変わりないのだろう。牛や豚、鶏なども普通に居るに違いない。エルイは馬に荷車を牽かせていたのだ。
二足で地上を走り人が乗れる黄色い鳥や、荷車を牽く事が出来るような大蜥蜴は居ないのだろう。
四半刻程度で広い道に着いた。馬車がすれ違う事が出来るくらいの幅がある。主要街道なのだろう。
横には川が流れていた。目的にしていた水源だ。川沿いの土手に道を作っているのだ。
もしかしたら水運に使っているのかもしれない。せいぜい荷を積んだ小船を浮かべて岸から引っ張る程度だろうが。
さすがに午後四時くらいのためか、行き来している者はいない。
「異邦人が街に入っても問題ないのか。それにここの貨幣は持ってない。入市税は払えないぞ」
「へえ、あんた等の国は街に入る時に税を取るのか。ここら辺りの国じゃ出市税が多いんだけどな。ああ、でも異国のあんた等じゃ仮登録証が要るな。一人当たり二エノツってとこだが構わない、出してやるよ」
「いいのか? 高額じゃないのか?」
「ああ。貨幣単位が分からないか。クスマナエ王国なら知ってたっけ。一エノツが一ルプの八割くらいだったかな」
「その程度か。ならば大麦がそこそこあるから後で払おう」
「いいって。二匹分の討伐報酬も渡すしさ。依頼の誤りって事で増額も望めるし、あんた等が倒した二匹分をちょろまかす気も無い。手数料代わりにちょっと色付けてくれると嬉しいけどな」
クーディは笑って答えた。
なるほど彼等は真っ当な冒険者のようだ。ユーリ達の意図を読み取っている。
一匹は止めを刺させて貰った自分達、二匹の討伐はユーリ達と分けて考えているのだ。それでいて単体討伐でなかった事で、依頼の間違いをギルドに訴えて増額を狙う。しっかり計算しているのだ。
信用できそうな奴等だなとユーリは考えていた。
半刻ほどで森の出口に着いた。
そこからは麦畑が広がっている。そこを川と広い道が真っ直ぐ貫いていた。左手側は少し先から山が続いているようだ。
あのスタート地点の砂浜から南西に進み、さらに山脈に突き当たったところを西に向かったのだろう。
その道の先三キロほどに城壁が見える。なかなかの大きさのようだ。この地点から畑になっているのだ。万単位の人が住む街に違いない。
街に向かいながらも雑談という名の情報収集を続ける。
「大きな街だな。この国の王都か」
「まさか。レヴィンシ辺境伯領の領都だよ」
「ここは辺境伯領なのか。故郷では辺境伯ってのは侯爵並みの権限を持ってたりしたが、この国ではどうだい」
「いや、領土は広いが田舎だしな。特にここは魔の森に接する位置にあるだろ。そのぶん冒険者なんかが集まり易いってのはあるが」
「それもそうだな。魔の森を越えて来る敵国なんて無いだろうし」
そう言いながらも「前回はそれに近いことが有ったんだけどね」と、ユーリはクーディに分からない言葉で呟いた。
それは魔物使いが居たからであろうし、そんな存在がごろごろしていたならエルイ達も驚きはしなかっただろう。つまり例外中の例外だったという事だ。
「そうそう。それに辺境伯も代々良い人達でさ。他領の三男坊以下を開拓民に迎えたりしてるそうだぜ」
「領都の大きさはそのお陰か。だが他の領主と喧嘩にならないのか。食い詰め者とは言え一方的に人口吸い上げてるようなものだろうに」
「そこは王家が調整してるらしい。運悪く魔の森から溢れた魔物が襲ってくれば、村一つが壊滅する事もあるしな。下手に放って置くと、森に侵食されて領土は減るし、人口は減るし、で碌な事にならない」
「なるほどな。ここは良い国のようだな」
「あはは。他国の者にそう言われるのは、やはり嬉しいな」
冒険者風情と言っては失礼だが、そんな者にも施政が浸透しているようだ。この国の王も、この地の辺境伯も立派なのだろう。
となると魔の森が広がろうとしていたクスマナエ王国は良い国では無かったのだろうか。エイティ達の推測だと、エルイと向かおうとしていたバワの街は人口数千ほどだ。隣国とも火種を抱えていたようだし、魔の森に目を向ける余裕が無かったのかもしれない。
まあ三十年も経っていれば王も代替わりしているだろう。現在はどうなっているかなど分からない。クーディが名を知っているので滅びてはいないようだが。
そうして半刻ほど街に向けて雑談しながら歩いていった。
ユーリは度量衡や暦、主食となる穀物など最低限の情報は取得していた。
暦はクスマナエと同じであったが、やはり貨幣と同じく度量衡は違っていた。主食も小麦の値が大麦の五倍という事も無いようだ。それでも一般人は大麦主体だそうだが。
そして城門前に辿り着く。
横を流れていた川がそのまま水堀になっていた。
街の背は山になっているためか、半円状に川を曲げて水掘代わりに使っているらしい。半円なのは魔の森の方向だけで十分だからだろう。
門に向けて跳ね橋が降ろされていた。橋から城壁までの部分だけは、そこそこの広さがあるようだ。
入市税こそ取らないが入門検査はあるのだ。その待合所としてだろう。




