57.つくづく俺等は化け物なんだな
「ごめん。こっちは外れだったかもねえ」
何かを察知したのか、しばらく進んだところでゴローが呟いた。
どうやら危険の方も何かを感じているようだ。
それを聞いたエイティが探知魔法を行使した。
「熱源反応は六。金属反応は三。三体は大きいな。残り三体は人間のようだ」
「また魔物使いかよ。俺等の仕事って魔物使いの討伐なのか?」
「それは勘弁して欲しいよね。でもその程度の事で僕達を送り込むと思う?」
ドーリは前回の事が頭に残っているようだった。
魔物を操る力を持つ者、その者を退治するために自分達がここに居るのではないかという推測だ。
エルイ達もそんな能力を持つ者は知らなかったようだ。隣国の目付けだった男も初めてそんな者が居ることを知り、上が作戦に利用しようとしたと語っていた。
稀に生まれるその存在を消すために、自分達が使われているのではないかと。
「いや。普通に考えれば、誰かが襲われている可能性が高いが」
「なら、近付いてみるかねえ」
エイティの呆れたような言葉に、ゴローが答える。
さすがに穿ちすぎだと思ったのだろう。
誰かが襲われているか、魔物退治中の冒険者や兵隊の可能性のほうが高い。
四人は慎重に、だが速度を上げて歩み始めた。
もし襲われているならば早急に向かうべきだ。助けるかどうかはその様子を判断してからで良い。
冒険者の狩りや兵隊による討伐だったとしたら、邪魔をせずに身を隠したままで居れば良いのだ。
彼等は百メートルほど道なりに進むと、傍の樹に身を隠した。そしてそっと状況を窺う。
目に入ったのは三人の男性の冒険者らしき者と、彼等に襲いかかる魔物達の姿だった。
冒険者達は全員が革の鎧を着けている。一人は弓持ちで、二人は円盾を構えていた。武器は共に短槍のようだ。まるでゴローが一人と、ユーリが二人いて闘っているように思えた。
全員が彼等と同じような年齢に見える。髪の色もゴローやユーリと似たような感じだ。
やはりエイティのような黒髪は珍しい場所なのだろう。となると、南方では無い可能性が高い。
三体の魔物は全て身長が三メートル近い巨人のようだった。
ただ肌は青緑の鱗に覆われ、髪や毛らしき物は生えていない。面相は平面顔のトカゲのような、まるでレプティリアンと言われる者である。
だが尻尾は生えていないようだし、当然衣類の類は身に纏っていない。
棍棒、いや単に朽ちた木であろう物を手にしていた。
どうやら冒険者達が押されているようだ。
盾持ちの二人が前衛で三体の魔物を捌きながら、腹などの柔らかそうな部位を狙って短槍を繰り出す。だが振り回される木に阻まれていた。
後衛の弓持ちも矢を放っていた。腹は前衛のため狙えないのか、首や顔を狙っている。だが直撃は難しいようで、矢も別の部位に当たっていたりしていた。
しかも鱗の部分は硬いのだろう。弾かれているようだ。
三人はお互いに声を掛け合いながら凌いでいた。
三体の巨大レプティリアンの方が力は強いのだろう。前衛の二人は捌ききれずにいる。なんとか致命打は受けずに済んでいるようだが。
シューシューと擦過音のような声を出しながら、三体ともに手に持った木を振り回していた。
時折魔物の一体が回り込もうとするが、その度に前衛の片方が阻もうと頑張っている。だが時間の問題だろう。
「ふむ、やはり聞き取れないな。ドーリ、どうだ?」
「俺にも分かんねえ。クスマナエじゃねえな、ここ」
「えーと……僕が判ると思うんだけど」
「あー。今回はユーリが主人公なのかねえ」
「彼等が何を言っているのか分かるか?」
「どうやら苦戦してるね。頑張れとか耐えろとか精神論ばっかりみたいだし」
「援軍は来ねえって事か」
また彼等四人の中に言葉が理解できる者が居たらしい。今度はドーリでなく、ユーリのようだったが。
苦戦しているようだ。打開策が無いのだろう。ある意味危機的状況だ。
「ゴロー、あの巨人の実力は分かるか?」
「メギョアより少し上程度かなあ。僕等なら一人で一体、いや二体相手でも何とかなるだろうねえ」
「つくづく俺等は化け物なんだな。それでどうする? 援護に入るか」
「折角の情報源だ。恩を売ったほうが良いだろう。ユーリ、助けがいるか確認してくれ。熟練の冒険者っぽくな」
「それって無茶振りだと思うんだけど。……やってみるよ」
結局、彼等は助けに入る事に決めたらしい。
情報が欲しいのは確かだ。それに楽勝出来そうなのも助ける一因だ。
助けた冒険者が仮に敵に回っても、巨人に勝てない程度の腕なら問題ない。返り討ちも容易いだろう。
四人は潜んでいた樹の陰から姿を現した。そしてユーリが声を掛ける。
「助けはいるかい?」
巨人と闘っていた三人はその声に驚いたようだった。
慌てたように周りを見回して、四人の冒険者らしい男達に気付いた。
自分達と同じくらいの齢の男達だ。自分達と同じような軽戦士風の男と弓持ち、さらに大盾に金属鎧を着た男さえ居る。ローブ姿の者はまさか魔法士だろうか。
前衛の一人がその声に答える。
「すまない。手伝ってくれると助かる」
「分かった。三体ともこちらに引き付ける。しばらく休んでな」
ユーリが親指を立てて他の三人にサインを出した。
ドーリが数歩前に出て「さあ、こっち来い」と大声を出す。三体の巨人はそれまで闘っていた三人の冒険者を忘れたかのように、ドーリの方に向きを変えた。
即座にその三体に向けてゴローが矢を放つ。次の瞬間には三体各々の喉に矢が突き立っていた。
その光景に冒険者達は凍りついたように動きを止めた。
大盾の男が何かを叫んだ途端、ラゴギョノテが三匹とも自分達を無視したのだ。そして三匹全ての喉に矢が刺さっている。どんな魔法なのだ。
ラゴギョノテ達はいきなり喉に突き立った矢に足を止めて悶えている。
呆気に取られている間に、大盾の男と短槍を持った自分達に声を掛けた男が突っ込んで行くのが目に入った。
大盾の男は一匹の腹にハンマーを振り下ろした。
ドゴオッと言う衝撃音と共に、六十ルオもの身長があるラゴギョノテが吹っ飛んでいく。大量の血を口から吐きながら。
短槍の男は二匹の腹に短槍を数発ずつ付き込んでいった。
穴だらけになった腹を押さえるように二匹のラゴギョノテが蹲る。そのトカゲに似た顔の位置が下がった所に、またも矢が突き立った。二匹の眼に矢が刺さっている。その矢は深くめり込んでいて、確実に脳にまで届いているに違いない。
その二匹が頭から倒れた時に、ようやく三人の冒険者は我に返ったようだ。
殴り飛ばされたラゴギョノテはまだ息があるようだ。だが仰向けに倒れたまま吐血し続けている。
どうするべきかと考えている三人に、ユーリが声を掛けた
「奴に止めを刺すのは譲るよ。ここまで奴等を疲れさせてくれたお陰で、楽に倒せたからな」
その言葉に三人の冒険者は肯いて、仰向けにもがいているラゴギョノテに止めを刺しに行った。
彼等にも分かっていた。自分達のお陰なんて言葉が嘘な事は。
同じ齢くらいに見えるが、先の動きから見ても相当腕の立つ者達だ。
最初に戦っていた自分達に止めを刺させようとしているのだろう。獲物の横取りと思わせないために。あくまで手助けだと示すために。




