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4.いらねえ子じゃねえだろ

 右手のハンマーを見ながらドーリが考えを述べる。

 エイティの作った氷の円盤に向かい、ハンマーを構える。そして氷にぎりぎり触れるくらいの足元に振り下ろした。無言なのはやはり技名を唱えるのが恥ずかしいからか。

 氷の円盤の縁にハンマーの先が届いた瞬間、とてつもない爆音と共に氷の円盤の一部が砕け散った。

 直径五メートル程度のすり鉢状の半円に削れている、足元は砂と一部海面が見えるようになっていた。

 すり鉢状になっているのは衝撃波によるものだろう。衝撃波の方向も制御できるのか砕けた氷は向こう側にのみ散らばっていた。

 それを放った本人も含めて全員が呆然と見つめていた。

 片手で振るったハンマーがこんな威力を出すのだ。標的が生身であったらどうなっていただろうか。

 武術系のスキルも使えることが分かったからか、しばらくしてユーリも砕けた穴を見ながら声を上げる


「僕も試してみたいと思うんだけど」

「ユーリには後で試して欲しいものがある。やるのは構わないが使用ポイントは相当抑えてくれないか」


 そんなユーリにエイティが声をかける。

 ユーリはエイティの方を振り向いて肯く。後で試して欲しいことが何か分かっているのだろう。


「じゃあ遠当てやってみるね」


 言うやいなや右手に持った短槍を突き出す。

 ザクッと大きな音が聞こえる。ドーリが作ったすり鉢の向こう、ここから十メートルほど先の表面が削れて穴が開いていた。

 今までの二人と違い派手さがないためか、皆静かに眺めているだけだ。

 それでも届く筈の無い場所が削れている。スキルの効果なのは間違いない。

 そんな中ゴローが呟いた。


「これってさあ、僕の弓っていらない子じゃないかなあ」


 スキル使用とはいえ短槍の突きが十メートル以上先に届いている。しかもエイティの要望で抑えた状態でだ。

 中長距離専門とも言える弓使いにとって釈然としないものがあるのだろう。


「何を言っている。射程に関しては遥かに上だろう。そうだな、最初の位置辺りからゴローもスキルを試してくれないか」


 エイティは気にする様子もなくゴローにも確認を頼んだ。

 だが消費ポイントを抑えろと言わなかったのは、慰めの意味もあるのだろう。

 ゴローはとぼとぼと五十メートルほどの距離の元の位置に歩いていく。

 しばらくして到着したのか「アローシャワー」という叫び声が響く。彼はスキル名を叫ぶことに羞恥心を感じないらしい。名付けのセンスは全く無いようだが。


 そして氷の円盤上の全面に数百を越えるような光の矢が一度に降り注いだ。

 降り注ぐ矢は表面を削り氷片を振りまきながら、深くまでめり込んでいく。

 立っている三人の身長を楽に越えて、削られた微細な氷片が多量に舞い散っている。日の光を浴びて幻想的に見えるほどだ。

 その光景に波打ち際で見守っていた三人が唖然としていた。


 五十メートルも離れた位置からの範囲攻撃にフレンドリーファイアの心配もせずに見ていられるのは、ゴローを信頼しているからだろうか。

 いや、まだ現実感が無いためであろう。

 そしてゴローがゆっくり戻りながら声を上げる。


「スキルポイント三十パーセントくらい使う組み合わせの大技なんだけど」


 三人はそれが聞こえていないのか呟いていた。


「いらねえ子じゃねえだろ。独りで弓兵隊やってるじゃねえか」

「今までのシナリオは洞窟や森林だったから使う機会がなかったのか。戦闘中に使われたら俺達も巻き込まれて大変だったろうな」

「……やっぱり井上のシステムはおかしいよ。修正してもらうべきだと思うな」


 ユーリがずれた事を言っている。どうやって修正させるのだろう。

 波打ち際に到着したゴローは、皆の呟きが聞こえていなかったのだろう。再び声をかける。


「あれれーおかしいぞー。なんか反応薄いけどさあ。やっぱり弓って大したことなかったのかねえ」


 その言葉を聞いたユーリが頭を振ってから、ゴローに尋ねる。


「放った矢は一本だったんだよね」

「だねえ。範囲や剛力や他にもいろいろ組み合わせたけどさあ。三十パーセントくらい使ってる筈だねえ」

「……一度に三割もスキルポイント使うなら一日一、二回くらいしか使えないよね。なら修正してもらう必要はないのかな」


 ユーリの感想はやはり少しずれたままであった。

 そのやり取りを聞いていたエイティが皆に向かって言った。


「とりあえず全員スキルが使えるのは確認できたな。それで先に言ったユーリに試して欲しいことだ。ある意味最重要ともいえるスキルなのだが……」

「うん。肉体作用系、俗に言う回復系のスキルのことだよね」


 ユーリがちゃんと分かっているというふうに答えた。

 彼等が行っていたゲームシステムでは死亡後の復活は無かったのだ。

 これが夢じゃなかった場合、いや夢であっても生存に関わる最重要スキルであろう。もし使えなかった場合は大問題だ。

 もしかしたら死亡が夢から覚めるか異世界から還れる条件かもしれない。しかし試す勇気は誰も持ち合わせてはいないだろう。


「となると試す役は俺か」


 ドーリが呟いた。

 盾役のドーリが一番防御耐久が高い。自らを傷をつけて回復を試すのが妥当だと考えたのだろう。

 しかしエイティが名乗り出る。


「いや。俺だな。ドーリだと負傷状態になるまでどれくらいやればいいか分からない。ユーリは回復系スキルを使用する役だから論外だしな。するとゴローか俺だが……最も低耐久の俺の方が良いだろう」


 言いながら腰に吊るしている短剣を引き抜く。

 彼等のやっていたスキル制のシステムでは魔術メインだろうと剣技も取れる。近接もしくは背後から来られた時の為に、彼は最低限の剣技スキルをとっていた。

 しかしそれを見ていたゴローが、腰に挿したナイフを抜いて渡そうとする。

 ゴローは遠距離型の弓使いだが、罠の探索解除を担当するスカウトでもある。

 そのため刃渡りが短く扱いやすいナイフを複数持っていた。


「攻撃するんじゃなくて軽く傷を付ける程度だよねえ。なら刃渡り五十センチ越えてそうな短剣より、こっちのほうが良いんじゃないかなあ」

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