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153.辛辣だなあ

 彼等四人は極めてゆっくりと歩き出した。

 イェハウ王女は仲間達の元へと戻っていく。

 彼女の仲間達は、エイティ達が漁らずに脇に放って置いた者達から必要そうな物を取り出していた。エイティ達がわざと一部からの剥ぎ取りを行わずに、脇に除けていたのを見ていたのだろう。

 それらを回収し終えると、エイティ達の少し後ろを着いてくる。彼等四人に話し掛けようともしない。エイティ達もそれを気にする様子は無い。


「辛辣だなあ。女性にはもっと優しくした方が良いんじゃないのかねえ」

「彼女はこの先もこの世界で生きていくんだ。立場を取り戻すのか、道半ばで倒れるのか、ひっそりと埋もれていくのか。どうなるかは分からないがな」

「僕達が面倒見るわけにもいかないと思うしね」

「しかしよ。今まで手懸りチラつかせる程度だったのに、いきなり転生者とご対面ってのはありえねえだろ」

「十五年前、二十年前、と延びていくのかと思ったら、直に会うんだもんねえ」

「歴史の改変……にしても、どちらが正史なのかも分からないと思うよ。このまま王家が滅ぶのか、彼女の手で再興するのかもさ」

「奴は俺達に何をさせたいのだろうな」


 たぶんこのまま隣領の領主、トセスノ侯爵のところまで連れて行くことになるのだろう。

 いや、前回の事を考えると、隣の領兵の出迎えと会った所で飛ばされるのかもしれない。それ以前でも、安全だと見做された時点で終わるのかもしれない。

 それなら彼等の役目は何なのだ。一時的な護衛なのだろうか。


 だが前回は数分ずれていたら、ラゴギョノテと戦っていた冒険者クーディ達は全滅していた筈だ。すると街に寄る事も、領主に会う事も無かったかもしれない。

 今回もだ。数分ずれていたら王女一行は全滅していた可能性がある。

 そんなぎりぎりなタイミングで彼等を送り出したのだろうか。


 そして女神だ。たぶん「奴」とは別の存在なのだろう。

 それでいて奴のような力を持っている。地球人を転生させる。そしてチート能力を与えるか、チート転生先を選ばせる。

 転生だけではないのかもしれない。転移もさせていたのかもしれない。

 だがボーナスが一つと言うのはどういうことだ。

 一人当たりに注げる力が決まっているのだろうか。だから能力か地位かを選ばせているのか。


 だがイェハウ王女の話を聞く限り、何の干渉もしてこないのだ。力だけを与えて、この世界に放り出すだけだ。

 本当に後の事を考えているならば、今の状況、王族に生まれ変わらせたイェハウが逃げ惑う状況を無視する筈が無いであろう。

 それでも手を出そうとしない。転生させることだけが目的なのだろうか。

 だとしたら、その女神とやらとコンタクトが取るのは難しいかもしれない。


 そしてジョン・ドゥは女神の存在を知らずに、元の世界に還ろうとしていた。

 女神とやらだけが、転移転生を司っているのでも無いのかもしれない。

 ジョン・ドゥのチート能力は、たぶん彼等四人を凌駕している。剣も魔法も使えて、たぶん言語チートもあったのだ。

 それを行える存在が、また別にいたのかもしれない。


 更に彼等四人だ。

 ジョン・ドゥよりは劣ったチート能力だ。各々が該当する言語しか喋れない。ゲームで設定したチート能力はあるが、個人毎にバラバラだ。一人ならやっていく事は出来なかった筈だ。

 だがジョン・ドゥは、同じ時間軸の中をずっと彷徨っていた筈なのだ。

 なのに彼等四人は二週間足らずの間に、三回も時空移動させられている。

 また別の神の如き存在が関わっているのかもしれない。

 イェハウ王女との出会いは無駄では無かったのだろう。新たな情報を幾つも入手出来たのだから。

 だが現状打破という点では、何の参考にもなっていないようだ。


 彼等四人は三叉路の前に立つ。

 北東から南東に向かって進んできたのだ。右手は西、王都へ続くのだろう。そして左手、東に向かうとトセスノ候領に向かう事になる。

 彼等は迷わずに東の方に向かって歩き出した。

 四、五メートル離れて、王女一行も後を付いてくる。


 そのまましばらく進み、ある地点で一旦立ち止まった。

 横を流れる小川が少し狭まった地点だ。川幅は今までは、ずっと二メートルほどだった。だが、この辺りだけ一メートル半程度になっている。

 ここで小川を渡るのだ。


 彼等の変えられた優秀な身体だと、重い装備や荷物を抱えてすら飛び越せる距離だ。軽々と飛び越えていく。

 王女一行はその場で何かを相談していたようだ。だが彼等四人と離れる気も無いのだろう。彼等の後に続いていく。

 だが王女一行には飛び越えるのは、さすがに無理だったのだろう。

 大柄の金属鎧の男がイェハウ王女を抱き上げて、小川に足を踏み入れる。小川の深さもせいぜい五十センチと言ったところか。大した苦労もせずに渡る事は出来たようだ。

 その後を若い金属鎧の男、女性兵士、文官風の男と続いて渡っていく。

 王女を除いた一行の膝から下は水に使っているため、濡れてしまっている。


 ただ王女一行も分かっている。

 襲われた時刻は、既に昼四刻過ぎであった。もし自分達が倒されていても、襲ってきた兵士達はこの森で一晩過ごしたであろう。そして本隊への報告は明日となっていた筈だ。

 だがもしかしたら様子見に、夜間に森に入る部隊があるかもしれない。

 しかしその場合は、小川を越える事はしないだろう。

 彼等四人がわざわざ小川を越えた場所で野営を行うのは、自分達を気遣っての事なのだろうと。


 そして道も無い森の奥に進んで行く。

 小川から三十メートルほど離れた頃だろうか。四メートル四方はありそうな空間を見つけていた。そこで彼等四人は立ち止まる

 そして野営の準備を始めた。

 エイティとゴローで下草を刈り、ドーリとユーリがテントを張っていく。

 空間全部の下草を刈り取っていき、テントはその端の方に立てている。


 王女一行はどうするのかと眺めていたが、どうやらテントの準備くらいはしていたらしい。逃亡を考えていたなら当然なのだが。

 彼等四人とは反対側の端の方に、一張りのテントを設営していた。

 たぶん、倒された仲間の荷物を回収していたのだろう。これなら王女一行の食事まで心配する必要もなさそうだ。


 彼等四人はテントを張り終えると、その空間の中心辺りで焚き火を始めた。

 この位置からなら双方のテントを見張る事も可能だろう。

 さすがにもう辺りも暗くなりかけている。今日は昼に手抜きシチューではあったが、そこそこの料理を口にしている。暗くなってからの料理などする気は無い。

 兵士達から漁った携帯食料で夕食は済ませるつもりだった。


 食事を始めると、イェハウ王女が近付いてきた。大柄の金属鎧の男を伴って。


「先ほどは失礼しました。改めて助けて下さった事にお礼を言わせて頂きます」

「気にする事は無い。俺達にも襲い掛かろうとしていた奴等だったしな」

「それでも助けられた事は事実です。それで……あの今後の事ですが」

「言っただろう。俺達はトセスノ侯領に向かう。着いて来たければ、それは構わない。あえて護る気は無いが、同行している者達が害されるのを黙って見ているつもりも無い」


 イェハウ王女が話し掛けると、エイティが軽く返している。

 今までと同じだ。雇われたり部下になる気は無い。だが一緒にいる以上は、襲われたら一蓮托生だ。見捨てるつもりも無い。

 たんなる同行者。それ以上でも、それ以下でも無い。

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