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14.それ実際にはありえないと思うよ

「いえいえ、ここは誰かの土地ではありません。後から来た我々の方こそ許可を求めます。ご一緒してもよろしいですか」

「勿論です。この場所にいることでお邪魔になるようでしたら声をお掛け下さい。私達が移動します」


 商人風の男はその謙虚な答えに好感を持った。

 道に近い方は丸々空けてあり泉付近でも十分な広さがある。水汲みにしろ馬を繋いでおくにしろ問題は無いだろう。


「感謝します。我々も野営の準備を行います。後ほど改めてご挨拶を」


 彼はそう言い残して、四人の前を去っていった。時間的にも挨拶より野営の準備を優先すべきだ。そして護衛の男達に野営の準備を指示し始めた。

 商人風の男を見送って、言葉の分からない三人がドーリから先の会話の内容を聞き出す。単なる挨拶をしただけで後にもう一度来ることを確認すると、彼らの設営の様子を眺めながら食事を始めた。


 護衛だろう男たちは四人全員が先に偵察に来た者と同じ軽戦士風の姿である。

 全員が三十歳前後の歳に見える。一番若い護衛でエイティ達と同じくらいという感じだろうか。

 守ることが主任務のためだろう。二人がユーリと同じような小型の円盾と短槍を持っている。そして他の一人は弓を持ち、もう一人は剣を両腰に一本ずつ差している。先にドーリと話した男だ。

 メイジやヒーラーに該当するものは居なさそうに見えた。

 彼等は担いでいた荷物から取り出した二張りのテントを組み立てている。テントの形状はエイティ達と同じような物であった。


「なんか俺とエイティの格好を気にしてるように見えるぜ」

「まあ旅人がフルプレートというのは不自然だろう。俺の場合はやはり髪と目の色か。この辺りでは珍しいのだろうな」

「女商人とか護衛が女の子とか、ここでヒロイン出すべきじゃないのかなあ」

「それ実際にはありえないと思うよ」


 四人は食事をしながら護衛の男達の様子を見て感想を述べ合っていた。

 商人達の姿を見る限り、全員が金色か茶色系の髪色をしている。エイティを除く三人の髪色は商人達と大して変わりが無い。

 それだけにエイティの黒髪は目立っていた。


 またユーリの言うとおり女性がいないのは当然だろう。

 女性行商人など盗賊に狙ってくれと言わんばかりだ。女性の護衛も同じだ。

 ゲームだと男女の区別なくパラメータは同じだ。しかし現実では性差は明らかに存在するのだ。

 メイジやヒーラーなら女性も居るだろう。だが戦士系はあまり居ない筈だ。頭脳ならばともかく肉体を主とする仕事は、どうしても男性が有利になる。


 百メートル走の世界記録だと男女で一秒近い差が有る。日本男子高校生記録でさえ女子世界記録よりコンマ五秒速い。

 もちろん皆無ではあるまい。女性レスラーなら普通の男性より強いに違いない。だが男性レスラー相手に勝てる者は稀だ。女性冒険者もいるだろうが魔法職以外でトップレベルになれる者はほぼ居ないだろう。

 姫騎士や女騎士はファンタジーだから存在できるのだ。いや存在自体がファンタジーなのだ。


「見たところ全員が物理攻撃系のようだな」

「やっぱり魔術使える人って少ないのかねえ」

「そもそも魔術がある世界なのかな」


 エイティ達はスキルを使える。

 しかし彼等以外が魔術を使えるのかは分かっていない。

 ここが剣と「魔法」の世界でない可能性もあるのだ。

 魔法のある世界だとしても彼らのスキルがどの程度なのかも不明だ。

 昨日エイティの魔術で創った直径五十メートルの氷の円盤、ゴローの使ったその氷の円盤全体に矢を降らせる弓術。ともにスキルポイントを二割以上使い、一日二、三度しか使えない。

 もしかすると逆にその程度は誰でも何度でも使える世界かもしれないのだ。


 商人風の男は幌つきの四輪の荷馬車から馬を離していた。

 その馬は、農耕馬、重種馬と言われるような大型の馬だ。

 この世界にサラブレッドなど存在しているかすら疑問である。

 サラ(徹底的に)ブレッド(育てられた)の語源で分かるように、競争目的に人工的に改良された軽種馬なのだ。

 もし存在していたとしても、馬車を引く目的の馬に使われないだろう。


 泉の方に馬を連れてくる。水を飲ませるのだろう。

 そして泉の傍に陣取っているエイティ達の横を通り過ぎようとしていた。

 その際に商人風の男が声をかけてきた。彼等のテントの傍らにある刈った草の山を見ながら。


「済みませんが馬をこちらに繋いでおきます。それと刈り取った草が不要なら馬に与えたいのですが」

「ええ、もちろん構いません。全部持っていって頂いて結構です」

「それから図々しいのですが、そのお肉を少々お譲り願えませんか。もちろんお代は払いますので」

「それは……すこし相談してからご返事させてください」


 商人風の男の目に何かを感じ取ったのか、ゴローは即断を避けて仲間に相談する旨を申し出た。

 商人風の男は肯いてから、先に馬を泉に連れて行った。

 戻る時に返事を聞く気であろう。


「馬を泉の傍に繋いでおくとさ。で、この肉を買いたいと言ってきた」

「残り五百グラムくらいだし別に良いんじゃないかなあ」

「いや、奴の目が何か気になった。たぶん香辛料絡みじゃねえかって気がする」

「ああ、ありそうな話だな。どう見ても熱帯や亜熱帯という気候じゃないしな」

「香辛料なんか結構用意してたもんねえ。全員分合わせたら数キロあるんじゃないかなあ」

「当たり前だけど国が違うと通貨も変わったし、換金できそうなものを持ち歩いてたもんね」

「場合によるが残りの肉を差し入れることも考えてたからな」


 またも井上のせいである。世界共通通貨など有る訳が無いという設定。言語やギルドと同じである。

 通貨の発行権を他国に委ねる為政者など果たして居るのだろうか。

 仮に同じ質と模様にするとしても、敵味方を含めた何十カ国が連携して通貨供給量をコントロールできるだろうか。

 金融学が発達している現代でもユーロを用いている国々がどうなっているか。

 中世程度の世界ならば国毎に違う通貨が発行流通している設定になるが当然なのだ。下手をすると同じ国内で各領主が地方通貨を発行していてもおかしくない。日本戦国期の甲州金のように。


 そして彼等は換金だけなら宝石や砂金でも良いだろうが、自分達が使うことも考えて塩や香辛料を大量に持っていた。

 元いた世界の中世では、同量の金と同じ価値を持つとさえ言われた香辛料だ。

 地球の中世では保存の利かない肉は干し肉や塩漬けにしていた。

 しかし干し肉は完全に乾燥肉で湯で戻しても噛み切れないほど堅い。塩漬けも生肉を塩に漬けただけの半ば傷んだ状態である。

 香辛料は臭みがある程度消えて殺菌効果もあるので使われたのだ。王侯貴族にしか手に入れられないのも当然である。

 彼等はそれを狩ったばかりの獲物に惜し気もなく使用していた。興味を持たれるのは当然だろう。


 エイティが魔術でなく香辛料による保存を薦めたのは、人に会った時に興味を惹きつける意図もあったらしい。

 さすがに初日から、しかも最も興味を持つであろう商人が相手になるとは思ってなかっただろうが。

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