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1.状況は何も分からない

「なっ、ぺっ、砂か」


 うつ伏せに横たわっていた男が砂を吐き出しながら呟いた。

 そしてゆっくり体を起こし立ち上がる。


 最初に目に入ったのは砂の上に仰向けで横たわる三人の男であった。全員青年と言われるような年齢に見える。彼等に見覚えはない。その筈だがなぜか知っている気がした。

 一人は金属鎧らしきもの、他の二人は似たような革鎧らしきものを着ている。

 金属鎧の男は、やや大柄で肩から伸びているであろう白いマントの上に大の字になっている。横には身体を隠せそうな大盾と柄を含めると二メートルくらいありそうなハンマー、中身がぎっしり詰まってるであろう背嚢や布袋が転がっている。

 片方の革鎧の男の傍らには直径五十センチくらいの円盾と全長一メートルほどの短槍が転がっている。

 もう一方の革鎧の男の側には長さ一メートルほどの短弓と矢の詰まった矢筒が転がっている。

 共に金属鎧の男と同じように近くに背嚢やずだ袋が転がっていた。


 立ち上がった男はしばらく彼等を眺めた後、自分を見つめた。

 フードのついた黒に近い濃い灰色のローブを着ているが、彼等のように鎧らしきものは身に着けていない。ローブの下は生成りのシャツとズボンだ。見下ろした砂の上には五十センチほどの短剣と、同じく背嚢や布袋が転がっている。


 自分の姿を確認してから辺りを見回す。

 空は蒼く澄み渡り雲ひとつ無い。穏やかな陽気で風も吹いていない。

 横たわった男たちの方向五十メートル先くらいから森が始まっているようだ。

 背後を振り返ると五十メートルくらい先に水面が目に映る。うっすら潮の香りがするから海であろう。

 どうやらここは砂浜のようだ。百メートルもの幅がある砂浜の真ん中に倒れていたらしい。

 しかしどの方向にも足跡や引き摺ったような跡は見当たらなかった。難破してここまで辿り着いたのではないらしい。


 再び倒れている男達を眺め、彼等を起こそうかと考え始める。なぜか彼等が死んでいるとは思えなかった。

 その時倒れていた男たちが気付いたようだった。


「あ?」

「なにこれ?」

「砂?」


 彼等は身を起こし座った状態で辺りに散らばっている武具に目を移す。そして自分の身体を見つめ始める。身体を触ったりもしているようだ。

 その後お互いを眺め始めた。そしてようやく気付いたのか先に起きて立っていた男に目を向ける。

 立ったままの男を含め四人全員がしばらく不思議そうな顔で見つめ合う。

 だいぶ時間が経ってから先に立っていた男が声をかけた。


「俺もお前達の少し前に気付いたところだ。状況は何も分からない」


 それを聞いた他の三人は特にがっかりした様子も無かった。予想はしていたのだろう。

 金属鎧の男が兜を脱ぎながら他の三人に確認するように尋ねた。


「お前らの姿を見るに俺は金髪碧眼なんだろ?」


 三人は揃って肯く。

 なぜ自分の容姿を他人に訊くのか。そのことに違和感を覚えないようだ。


「自分じゃ見えねえだろうから一応言っといてやる。立ってる奴は黒髪黒目、弓の奴は茶髪緑眼、もう一人は茶髪でブラウンアイだぞ」


 それを聞いた三人が改めてお互いの姿と転がっている武具を見回す。

 そして揃ってため息をついた。やはりそうかという思いが込められてるようだ。

 またしばらくの沈黙が続く。

 そして立っている男が三人に声をかける。


「うすうす分かっている。分かっているが改めて名乗ろう。俺の名前は北野仁志。いや、この姿だとエイティ・エイトと言った方が通じるかも知れないな」


 それを聞いた三人が再びため息をつく。先と同じような思いが込められてる。

 エイティと名乗った男も三人が自分の言ったことを理解できていることが分かったのだろう。


「自己紹介ってことでいいのかな。僕は川上幸輝。ユーリ・フェイバリットってことになると思う」

「俺はドーリ・ブラック。いや、黒田雄治だ」

「僕の名前は木村陽介で、ゴロー・ワーズなんだよねえ」


 茶髪茶眼の男、金髪の金属鎧、茶髪緑眼の弓持ちの順に名乗っていく。

 自己紹介で名前を二つ出すことに誰も疑問を持っていないようだ。むしろそうしないと意味が分からないことに気付いてるのかもしれない。


「どういうことだ?」

「え? おかしくない? おかしいよね?」

「なんでこれでお前等がお前等だってことがすぐわかるんだよ」

「ここは誰? 私はどこ?」


 各々の名前を確認した途端、彼等は喚き始めた。ただ一人お約束なことを口走っている。だが混乱しているのだろう。突っ込む者は誰もいない。

 しばらくして喚き疲れたのか四人共黙り始める。

 唯一立ったままだったエイティを名乗った男が腰を下ろした。そして三人を見回しながら口を開く。


「その姿と名前……覚えがあるだろう?」


 金属鎧のドーリと名乗る男がユーリ、ゴローを名乗る男を順に見て答える。


「名前で性癖表明する奴や、吸ってるタバコの銘柄を名前にする奴なんか他に知らねえよ」

「男の裸なんて見たくないからね」

「そこだけはぶれないねえ。それにいいじゃん、黒タバコが好きだってさあ」


 特殊性癖を躊躇いなく暴露した男と、あまり一般的でないタバコを愛飲する男が文句を言った。それはつまり名前の意味を理解しているということだ。

 さらにエイティを名乗る男を見てドーリを名乗る男が続ける。


「名前を考えるのが面倒だといって、奴の本棚にあった今じゃ古典ともいえるマンガから名付ける奴もいるし」

「お前も『名前どおりブラックにするか』『ドーリ・ブラックだな』で決まっただろう」


 数十年前の戦闘機が主役ともいえるマンガから名前を取った男が、呆れたように言いながら言葉を続ける。


「だが名付けの由来を知っているなら偶然本名が同じな別人って訳じゃない。お前達はあのお前達って事だろう。ならば、この姿の意味も分かるな?」


 四人は改めてお互いの姿と辺りに転がってる武具を眺め始める。

 考えるまでもない。この姿はたぶんあの設定のままだろう。実際にはこうなるとは思っていなかっただろうが。

 彼等の中に上手に絵を描ける者はいなかった。だから外観に関しては口に出しただけである。それでもお互いに「ああ、あの設定だと外観はこうなるだろうな」と分かるくらいには設定していた通りであった。

 ドーリが百八十センチを少し越えたくらいの身長で、他の三人は百七十五センチほどか。実際の身長とそんなに差はないようだが、全員が細マッチョと言われる体型の上にそこそこ美形なのは願望が入っていたのかもしれない。


「タンクのドーリとメイジのエイティ、ヒーラーのユーリにスカウトの僕ゴロー。うん、井上のTRPGのパーティー『プルーフリーダーズ』まんまだよねえ」

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