7.幽霊の正体
おれには何が何だかわからなかった。だが、あれはやっぱり美月の幽霊だったのかもしれない。もしかしたら、まだ成仏していないのではないだろうか。せめて墓参りに行ってやることにしよう。おれはそう考えて、美月の実家へ行き墓地の場所を教えてもらうことにした。
美月の実家の和菓子店に入ると、四十代ぐらいの和服を着た上品な女性がいた。この人が兄嫁さんなのだろうか。おれは「秋の月」を一箱買い、会計を済ませてから用件を話した。
「じつは私は、三年ほど前に交通事故で亡くなられたこちらのお嬢さんの高校時代の友人なんです。せめて墓参りでもさせていただきたいと思いまして、墓所の場所を教えていただきたいのですが」
「まあ、それはありがとうございます。きっと故人も喜ぶと思いますわ。少々お待ち下さいね」
女性はそういうと、お寺の名前と所在地をメモして、渡してくれた。おれは礼を言って店を出ようとした。するとそのとき、後ろから呼び止める声がした。
「あ、あのう……」
振り返ると、そこにはさっきの美月の幽霊が立っていた。
「あら、五月、どうしたの? こちらのお客さまを知ってるの?」
「うん、お母さん、この人は美月おばさまのお知り合いなのよ」
そうか、高校時代の美月にそっくりのこの子は、美月のお兄さんの娘だったんだ。おれはやっと納得した。
「わたしは美月おばさまの姪で、秋山五月といいます。美月おばさまの若い頃にそっくりだとみんなから言われます。あなたはもしかしたらトシヤさんとおっしゃるのではありませんか?」
おれは驚いた。なぜこの子はおれの名前を知っているのだろう。
「美月おばさまはわたしによくトシヤさんのことを話してくださいました。おばさまが人生でたった一度だけ恋をして好きになった人がトシヤさんだったと……」
そうか、美月はおれのことをずっと忘れないでいてくれたんだ。そう思うと涙が溢れてきた。おれは手で顔を被って嗚咽した。
しばらくして、いつまでも泣き続けるおれに五月が声をかけた。
「トシヤさん、美月おばさまに会わせてあげる。ね、いいでしょ。お母さん」
「ええ、そうね。そうしてあげなさい」
「いえ、墓所のあるお寺の場所はさきほど教えていただきましたから、大丈夫です。一人で行けます」
おれがそう答えると、二人は顔を見合わせて笑った。
「ちょっと待っててね。すぐ会わせてあげるから」
五月はそう言って、店の奥へ入っていった。おれにはその意味がわからなかった。兄嫁さんは静かに微笑んでいた。
やがて五月が戻ってきた。続いて三十代ぐらいの美しい女性が店の奥から現れた。女性はおれの顔をみると、はっとしたような顔をした。
「と、トシヤ……くん……」
おれは女性の顔をじっくりと見た。あれから二十年以上が経っているが、そこにいるのはまぎれもなく美月だった。
「み、美月……美月なんだね。本当に、美月なんだね。幽霊じゃないよね」
「ほら、おばさま、せっかくトシヤさんが会いに来てくださったのよ。はやくいらっしゃいよ」
五月は美月の手を取って、おれの方へ連れてきた。兄嫁さんは微笑みながら言った。
「トシヤさん、交通事故で亡くなったのは美月さんではなくて、お姉さんの香月さんの方ですよ。美月さんはここにこうして、元気に生きていらっしゃいますよ」
そうだったのか。すべてはおれの早とちりだったのだ。美月にはやはり取引先に嫁に行った姉がいたことをすっかり忘れていた。姉の名前にも月という字がついていたって不思議ではない。おれは美月の手を取った。
「美月、生きていてくれたんだね。こうしてまた会うことができて、うれしいよ」
「トシヤくん、わたしもトシヤくんにまた会えて、とってもうれしい」
「ご主人とはうまくやっているかい? 子どもは何人いるんだい? もうずいぶん大きいんだろうね」
すると美月の表情が少し険しくなった。おれは自分が何かまずいことを言ってしまったことを悟った。
「トシヤくん、わたし、あなたに確かめたいことがあるの。ちょっと一緒に来てくれるかしら」
美月はそう言うと、おれを店の奥へと連れて行った。




