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6.美月の幽霊

 おれは本当に久しぶりに故郷の町へ帰った。両親もおれが大学を卒業してまもなく他の町へ引っ越してしまっていたので、それ以来まったく訪れる機会もなかったのだ。

 さっそく高校の校門前までへ行ってみると、懐かしさがこみ上げてきた。そうしてそこから美月の家までの帰り道をたどってみた。おれが美月に愛を告白した場所に着くと、胸が熱くなった。今にも高校の制服姿の美月がそこに現れてくるような気がした。さらに少し歩き、とうとう美月の実家の和菓子店に着いた。

 店は以前と変わらず、同じ建物で営業を続けていた。お兄さんが跡を継いでいるのかもしれない。おれは少しほっとした。これなら、美月もおそらく元気で幸せに暮らしていることだろう。


 おれはその近くに昔からある喫茶店に入り、軽く昼食を済ませることにした。エビピラフのランチを食べ、食後のコーヒーを飲み終わり、レジで会計を済ませると、店の奥さんに訊いてみた。

「すぐそこの和菓子屋さんですけど、あそこはもう息子さんが跡を継いでおられるんですか?」

「ええ、そうですよ。先代がずっと寝たきりですからね。まだそんな年齢でもないのに、本当にお気の毒です。嫁に行ったお嬢さんが交通事故で亡くなったのが、よほどショックだったようでして……」

「な、何ですって! 交通事故で……亡くなった……」

おれは驚いて声を上げた。

「もう三年ほど前のことですけどね。先代はお嬢さんを本当に可愛がっておられたんですよ。あのお店の名物に秋の月というお菓子があるんですが、それにちなんだ名前を付けて、我が家の宝だとおっしゃってましたからね。取引先の金持ちの社長の息子に嫁がせて、そこでも大事にされていたようですけど」

 信じられなかった。美月が死んだなんて。なんということだ。おれは呆然としたまま店を出た。


 たとえ人妻であっても、美月が元気で幸せに暮らしていてくれると思えばこそ、おれは生きていく意欲をもつことができたのだ。これから先、いったい何を頼りに生きていけばいいのだろう。

 おれはとぼとぼと故郷の町をあてもなく歩き続けた。するといつの間にか、またあの高校からの帰り道の、美月に告白した場所へ戻っていた。あの日のことがありありと心の中に浮かんでくる。思い出にふけりながら、おれはしばらくその場に立ちすくんでいた。夕日があたりを赤く照らしていた。


 するとそのとき、高校の制服を着た二人の少女が話をしながらやってきた。そのうちの一人の顔を見て、おれは愕然とした。

 美月だ。高校生の時の美月の姿そのままだ。美月の幽霊だろうか。それともタイムマシンなどに乗ったものだから、時空間の歪みにでも入り込んでしまったのか。あるいは瞑想の影響で夢か幻想でも見ているのだろうか。

「美月!」

おれは思わず叫び、その娘の前に走り寄って、両肩をつかんで尋ねた。

「美月、美月だよね」

「あっ、あのう……」

娘は困惑した顔をした。すると隣に立っていた少女が代わりに答えた。

「その子は美月ではありません。人違いですよ」

おれは我に返って、娘の肩から手を放した。

「変なオヤジ。さ、行こう」

娘は何か言いたそうな目をしておれの方を見ていたが、もう一人の少女に促されて、足早に立ち去っていった。後ろ姿まで高校生の時の美月にそっくりだった。

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