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4.告白の結果

 美月はおれの目を見つめたまま、しばらく沈黙していた。しかし、やがてその表情は驚きから困惑に変わった。そして目を伏せながら、小声で言った。

「ごめんなさい……」

おれはしばらく何も言えなかった。覚悟はしていたが、つらい気持ちがこみ上げてきた。それでも、とにかく自分の思いを伝えることができたという満足感はあった。それでだめだったのだから、諦めはつく。

「わかった。これまで、どうもありがとう。それじゃあ、元気でな」

やっとのことでそう言うと、おれは背を向けてゆっくりと歩きはじめた。


「待って!」

十歩ほど歩いたとき、後ろから声がした。おれは立ち止まって振り向いた。

「違うの。違うのよ」

美月は何かを訴えかけるような目で、おれの方をじっと見ていた。目には涙が浮かんでいた。おれは美月のところへ戻っていった。

「ごめんなさい。私にも話したいことがあるの。ちょっと家まで来てくれないかしら」


 美月の家は歩いて五分ほどのところだった。おれは美月の部屋に通された。女の子の部屋に入るのは初めてだ。八畳の落ち着いた感じの部屋で、机の横にはベッド、反対側にはアップライトのピアノと大きな本棚が三つあり、数百冊はある本が整然と並べられていた。日本文学や世界文学の古典といわれるような本が多い。

 部屋全体にかすかな甘い花のような香りが漂っているような感じがした。これが女の子の香りというようなものなのかもしれない、とおれは思った。

 おれはピアノの椅子に座り、美月は勉強机の椅子に向かい合って座った。


「わたし、うれしかったの。とってもうれしかったの。だって、わたしだってトシヤくんのことが、ずっとずっと好きだったから」

美月は大きな目を見開いて、おれを見つめた。おれはうれしさで気が遠くなりそうだった。

「でも、わたしにはトシヤくんの愛を受け入れることができないの……」

「えっ、ど、どうして? おれが東京へ行くとなかなか会えなくなるから?」

おれは驚いて尋ねた。

「ううん、そうじゃないの。私にはもう、親が決めた婚約者がいるのよ」

信じられない言葉だった。今時まだ娘の婚約者を親が決めるなんてことがあるなんて。しかも美月は今日高校を卒業したばかりの十八歳じゃないか。

「うちは江戸時代から続く菓子司で、いろんなことが古くさいのよ。姉も短大を出てすぐに親がきめた相手と結婚したわ。うちはその人の会社から小豆なんかの材料を仕入れてるの」

「じゃあ、一種の政略結婚じゃないか」

おれはちょっと腹が立ってきた。美月もあっさりとそれを認めた。

「そうよ。私の相手も大事な取引先で、うちの商品をたくさん仕入れてくれる大手スーパーの社長の息子なの。私より十歳上の人よ。仕事熱心らしいけど、ちょっとプレイボーイ風の感じで、私はあんまり好きになれないんだけど」

「そんな。好きでもない人と結婚するなんて……」

「でも、しかたないわ。今さら断ったら親にも店にも迷惑かけちゃうから」

おれにはもうそれ以上、何も言えなかった。

「だから、さっきあなたに好きだと言われたとき、とってもうれしかったの。だって、はじめて好きになったトシヤくんに、わたしのことを好きと言ってもらえたんだもの。わたしはもう、だれとも恋をしてはいけないの。だから、この思い出を一生の宝物にするわ」

美月はそう言って、おれの目を見つめた。

 おれはその目に吸い寄せられるかのように、美月に顔を近づけた。美月はゆっくりと目を閉じた。おれは肩を抱いて、そっと口づけをした。和菓子のように、甘く柔らかいくちびるだった。

 どれだけの時間が経っただろう。ほんの数秒だったかもしれない。だが、おれには永遠のように長く感じられた。

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