表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

風を感じる

作者: 春乃 凪那

風を感じればいいんだ。

いつか、川辺であった青年はそう言っていた。


確かに彼は風が吹く度に、まるで自分が風であるかのように手を広げて揺れていた。

彼は一人の人間ではなく、自然に溶け込んでいた。



もしかしたら彼は私にしか見えない精霊ではないのか?

幼いころの私はそんなことを考えていた。


あれから彼とは会っていない。

しかたない。だって、私は川とは無縁の、汚い都会に来てしまったのだから。



風が吹く度に彼のことを思い出す。



だけど、あの時のような風が感じられることはない。




都会の荒み切ったこの空気の中では、風を感じることはできない。

生ぬるい風が張り付くように吹き付ける。

しかしそれらの風がほとんど私に届くことはない。



排気ガスと汚れた息がまじりあう空気の中で、私はいつも彼を探している。



もしかしたら、ひょっとしたら、そんなことを考えては溜息をつく。



都会は私には早かった。

こんな場所で平然としている人の気が知れない。



私は帰る。

彼の元へと。



彼を精霊だと思っていたあの頃へと、風を感じながら、彼の元へと。



私はあの日の彼のように風と一体となった。

それまで生ぬるいと思っていた風も、今は何も感じない。



心地よく、私を包み込んでくれる。

風を感じる。



彼との思い出の言葉を最後に抱くことができた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] スッと頭に入ってきました。 読みやすいです。 [一言] 終わり方が空気のように澄みきっていました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ