表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

6.守護の魔女

だいぶ遅くなりました。

完結です。





 …………皆さん、どうもこんにちは。(わたくし)、【憂鬱の魔女】こと、カーディナル・クロイツフェルトです。

 私は今、住んでいる場所で最も大きい領地を持つグランヘルツ王国にいます。

 何故かと言うと国王と友人にお呼ばれしたからです。えぇ、また仕事ですよ、憂鬱です。

 今日は魔女達(友人)全員が集まっているらしい、本当に珍しい……と言いたいが、呼んだのは『メイビス』なのでべつだん珍しくはなかった。

 メイビスは【守護の魔女】だ。フルネームはメイビス・ベイストフォード。純白の髪を後ろで束ね、肌は白魚のように透き通っており、来ているドレスも一見質素のように見えるが精密な装飾が一面にほどこされ、汚れなど感じさせないほどに純白なものだった。

 容姿はいわずもがな、そこに天使がいるのではないかという錯覚を覚えるほど美しい。

 この国の建国前よりいるらしく、年はどう考えても四千歳はくだらないと思う。

 あ、あと性格は、まるで中に何人かいるんじゃないかというほどコロコロと変わる、まるで中に何人かいるんじゃないかというほどコロコロと変わる。大事なことなので二回言いました。


 ――で、王宮に到着し、王室に全員が集まっていた。


 第七十二代国王、ヴァンアッシュ・アインス・グランヘルツ。

 烈火の魔女、アリーサ・ラルフォード。

 津波の魔女、クリィレル・エンレース。

 森奥の魔女、エルシール・アイスベール。

 雷電の魔女、エルザ・ベルシュ。

 土葬の魔女、アーシェ・サルサリス。

 憂鬱の魔女、カーディナル・クロイツフェルト――もとい、わたし。

 そして、【守護の魔女】、メイビス・ベイストフォード。


 全員が入ってきたわたしの方を見る。うっ……何か気まずい。


 「――揃ったな、ではこれより魔女の議会を始めようか」


 メイビスが落ち着いた声で告げる。いや、国王いるから魔女だけじゃないんだけどね? ほら、ラルとかアーシェが私と同じようなことを思ってる顔してるし。


 「ヴァンアッシュ・アインス・グランヘルツ、内容を」


 いやいや、国王! 国王だからねメイビス!


 「うむ。今回、貴殿らを呼んだのは他でもない、大陸にある災いが降り注がんとしているからである」


 しかし、国王はいつものことのように気にせずに話を続ける。


 「――黒炎(カラミティ)(ドラゴン)の出現じゃよ」


 それを聞いて、私を含め、メイビスを除いて苦い顔をする。


 別段、強いというわけでは無いのだ。魔女の中でも最も弱い私ですら殺せるし。でも、問題はそこじゃ無いんだよなぁ……


 問題は二点ある。まず、数。一体二体ならばまだしも、成体、幼体を含む数百体以上が群れを成していて非常に多い。

 その2、アレの生殖行動だ。

 あのドラゴンはメスならばなんでも良いと言わんばかりに盛りまくってるから気持ち悪い。過去に狙われたことのある(魔女全員)は死ぬ気で逃げて本気でぶっ殺した。おかげで向こう五百年は何も生まない更地が出来上がったっけ。


 「えぇ〜、またアレの駆除かよ。帰って良いか?」


 「ふひっ……私、急用を思い出したから帰っていいお姉さま?」


 「ふむ、アレを嬉々として相手をしたいと思うのはメイビスくらいなものだと思うよ。私も帰って良いかい?」


 「ねぇ、わたしも帰っちゃダメ? 本気で嫌なんだけど」


 「アタシもちょっとな……」


 「憂鬱だわ……帰って良いかしら? やりたくないわ」


 エルザ、エルシール、アーシェ、クリィレル、アリーサ、私の順でそれぞれ喋る。と言っても、全員気持ちは一緒のようだ。


 「ふむ、確かにな。あれと対峙したい女性はいないだろう、私とて遠慮したい……だが、ここでそう言っていては埒があかんだろう――」


 ガタリ、と立ち上がり声高々に宣言する。


 「――私と駆除にいかない魔女(もの)は権能とオドを固定化してやろう!」


 一斉に食ってかかる魔女たち。


 「おまっ! ふざけてんじゃねぇよ! そんなん言われたら行くの確定じゃねぇかよ!」


 「ふひっ……徹底抗議」


 「つか、アンタはさっさとわたしの権能の固定化を解除しなさいよ!」


 ギャーギャーと喚きながら、結局全員で行くことになった。魔女たちも自分の権能が使えなくなるのは惜しいのだ。わたしを含めて。


 「あぁ〜……憂鬱だわ。またあのドラゴンを見ることになるなんて……」


 「フェルトは一番狙われてたもんな……あん時はマジでお前の貞操の無事を祈ったぜ」


 「お姉さまは、私が守る……ふひっ」


 「やっと……やっと完全に私の権能が戻ってきた……」



 と、黒炎(カラミティ)(ドラゴン)に出会うまで、歩きながらそんな話をしていた。


 歩いて四時間。だいたい数十キロは歩いただろうか、そこでメイビスが気付いた。


 「――来ったよ!」


 やたら高いテンションでメイビスが叫んだ。同時に目の前に映る高い山々を超えて黒い塊がやってきた。


うっわー、あれだよー気持ち悪っ。


 私たちの姿を確認すると興奮したように叫び声を上げ、加速してきた。


 「――さぁ! フェルト、君の出番だ。思いっきり権能を使ってしまえ!」


 バッ、と音が出るほどに腕を振って指示を飛ばしてくるメイビス。

 しかも私かよ……。


 「はぁ〜……憂鬱よ」


 逢いたくもない相手に強制的に遭わされ、したくもないことをしている。これが憂鬱でないわけがない。


 なので――


 「憂鬱だわ〜」


 ――全力で権能を使った。


 私の権能は散らすこと。魔力だろうと何だろうとその気になれば散らせる。

 だから目の前の群がる黒い物体から魔力と魔力素(オド)、身体を構成している魔力要素(マナ)を空中に根こそぎ散らしてやる。


 「ゴガァァァァ、アアァ……ア……ア……」


 群れの先頭にいたのを中心に次々とカラカラになって死んでいく。ざっと100体くらいだろうか。


 「――今度は私の出番であるな」


 またキャラの変わったメイビスが両手を打ち鳴らす。すると地平線まで続いているのではないかというくらいに結界のようなものが張られた。これで黒炎(カラミティ)(ドラゴン)は逃げることはできないし、私達も全力でやれる。


 「さぁ、者共続けぇ!」


 メイビスが先行し、その後に魔女たちが続く。


 「ハァッ!」


 守護の魔女が拳を振るう。光り輝いていた拳が黒炎(カラミティ)(ドラゴン)に当たり、正方形の結界に包まれ、消えていく。


 「――オラァッ!」


 烈火の魔女の周りに炎が立ち上り、叫び声とともに一気に目の前の龍に向けて色が橙から白に変わるほどの高温をビームのように放出した。


 「力が戻った! あははははっ! これが私の本来の力だぁ!」


 津波の魔女が嗤いながら魔力素(オド)から水を生成、膨大な量の水が無慈悲に龍を飲み込んでいく。


 「ふひっ……こっち来ないで」


 森奥の魔女がしゃがんで両手に持っていた種をばら撒くと、バキバキと音を立てて成長し、人のような形になり龍を襲い始める。

 大木の腕に絡め取られ圧死し、鋭く伸びた枝先に刺さり死んだりするものもいた。

 木の巨人は水を吸いながら、血を吸いながらなおも大きくなっていく。


 「消し炭になりやがれぇっ畜生どもが!」


 雷電の魔女の全身が帯電、右手に紫電が集まり、それを空に向かって投げた。

 雷と同じそれは瞬く間に天に昇っていき、雨のように降り注いだ。龍も木の巨人も例外なく炭素と化した。


 「ふむ、作業ゲーだな」


 土葬の魔女が地面を踏み鳴らすと、大地が割れた。地に伏していた者はその割れ目から飲み込まれていき、まだ空に飛んでいた者、生き残っていた者はまた踏み鳴らした際に現れた生き物のようなうねり(・・・)に絡みとられ、沈んでいく。


 今回はほぼ一方的な数時間の戦闘ののち、黒炎(カラミティ)(ドラゴン)の駆除は終わった。

 今回、死体は残っていない。最終的にアーシェが炭素と化していた黒炎(カラミティ)(ドラゴン)を埋めたからだ。


 「――だあーっ、疲れた……」


 エルザが息を漏らす。その他にも疲れている者がちらほら。

 メイビスが結界を張って範囲を気にせずに権能を――ひさびさの全力ではしゃぎすぎた――使って、辺り一帯が前よりもひどい有様に。これは……凄惨だ、大地が。


 「これ前よりもひどいんじゃないの」

 

 クリィレル、気があうじゃないか。私もそう思っていたところだよ。


 「あ? 気にすんなよ、そのうち直るって」


 エルザが欠伸をしながらクリィレルに言う。


 まぁ、そのうち直るよ…………これなら200年後くらいに。


 その後、その地を後にして王国に戻った私たちは王に殲滅したことを報告したのち、王宮内でささやかなパーティーが執り行われた。


 「あっははははははっ! 楽っしいなぁ! おいフェルト、エルシール、クリィレル呑んでるかぁ!」


 ささやかながらも豪勢なものが並ぶなか、紅茶を飲む私やエル、クリィレルに絡んでくるエルザ。

 他のアリーサ、アーシェ、エルザ、メイビスは酒を飲んでおり、しかも度数の高い酒を飲んでいたエルザは酔っ払っていて私達に酒臭さを振りまいてきていた。

 アリーサは琥珀色の酒をゆっくりとしかし早いペースで飲んでいた。アレではすぐに潰れるだろうなと内心で思う。

 アーシェは出された食事とワインを上品に飲んでいた。飲む仕草が妙に艶かしい。

 メイビスは国王と笑い合いながら酒を飲み合っていた。はたから見たらおじいちゃんと孫にしか見えないためすごく微笑まし……あっ違ぇアレどっちも酔っ払ってるだけだ。

 床を見ると用意された酒の中で一番度数の高い酒瓶が何本も転がっていた。


 互いに笑い合いながら、鬱陶しく思いながらも心地いいと感じる関係。


 魔女も、国王も、同席していた兵も笑い合う空間。魔女になってから久しく訪れたひと時。


 「――こういうのはゆうう」


 いや、今は違うか。


 いつもはそう思うが、今は良しとしよう。


 「――爽快な気持ちだわ」






 魔女になってから1500年、私は皆に見せたことのない清々しいくらいの笑顔を浮かべて言った。


 


 

おい、一人足りねぇぞって思った方、これで良いんです。

 憂鬱が視点なのでこれでそっちも書いちゃうと今度はみんなの視点も書かなきゃいけなくなるので……


 さて、ここまで読んだ方もありがとうございます。

 次回作の題材はなんとなく決まっています。速めに1話は作り上げようと思うので良かったら見てやってください。

 できた時には勝手に活動報告します。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ