5.土葬の魔女
――皆さんこんばんは。私、【憂鬱の魔女】ことカーディナル・クロイツフェルトです。
え? 夜に何をやっているのかって? 頼まれごとです。
近くの村で大規模な災害があったため、ちょっと私の家は巻き込まれないかなぁ、と心配になったので見に行ったら頼まれました。
なので、こういった自然災害、主に土害にピッタリな知り合いの【土葬の魔女】の所に行くことにしました。
「――アーシェ、いるー?」
ある山――活火山の山脈のひとつであるバガラン活火山の麓に住んでいる【土葬の魔女】こと、アーシェ・サルサリスを呼ぶ。
どんどんと叩くこと数回、扉がゆっくりと開いた。
「――――おや? フェルトじゃないかい、一体どうしたというんだこんな時間に」
出てきた一人の女性は白色と土色と表現するしかない色で着色されたゴスロリ調のドレス、茶色のショートカット、顔立ちはとてもととのっていて切れ長の目元が何より特徴的だ。
毎回その顔立ちとドレスが致命的にあっていないのがこの魔女、アーシェなのである。
ちなみに今年で千六八〇歳。
「ちょっと村の人に頼まれごとをね」
一言いっただけで何か分かったアーシェは「あぁ」と呟いた。
「なるほど分かった、承ろう。案内してくれ」
私はアーシェを連れて村に戻った。村に着くなりアーシェは辺りを見渡し、周囲を歩き始める。
「おや、これはやはり……」
「何か分かったの?」
だいぶ歩いて疲れた……。止まったアーシェは何かが分かったのかポツリと呟いていた。
「あぁ。これは自然災害などではないよ、それなら私が一番分かるからね」
確かに、アーシェ以上に土属性の魔力素に詳しいものなんていないものね。
「これは土崩土竜の群れが起こした獣害、というところだろうか」
土崩土竜とは地中を泳ぐために外皮が硬質化し、土を掻き分けるために尖った爪を持ち、聴覚が発達している魔獣だ。群れで地中を掻き分けながら進む際は地震が起きたり、土砂崩れを起こしたりする、簡単に言えば土竜と翼竜が合わさった魔獣と言えるやつだ。
「そいつって……火山地帯に住んでるやつじゃなかった?」
確か土崩土竜は火山地帯の鉱物や希少な生物を食べる魔獣なのに何故こんな場所に。
「おそらくだが、ここら辺の火山地帯に移り住もうとでも考えたのではないかな。私の住んでいる場所は有数の活火山だ、そこかもしくは別の場所に移動しようとしてここに当たったのか」
どちらにしろあれはあまり益獣とはいえないからね。駆除しないとまた来るかもしれん、とアーシェは呟く。
うん、まぁそうね、エルだって魔獣を食べる悪いやつ、って言ってたし。
そんなことを考えていた時、おや? と違和感に気付く。地面が揺れている気がするのだ。
それをアーシェに伝えようとして本格的な地震が辺りに襲いかかる。
「――アーシェ!」
「分かっているとも!」
アーシェは地震が起きてすぐに行動を起こしていた。腕を振り上げ、まっすぐに地面に向かって振り下ろす。
ガッ、と鈍い音とともに、何かに感知されるような感覚が私を包み込む。アーシェ技、地中探知が土崩土竜を探すために使われたのだ。
「――いた」
そして土崩土竜はものの数秒で見つかった。
今度は手をかぎつめのようにして地面に突き立てるアーシェ。ずぶずぶと抵抗なくアーシェの五指は埋まっていき、手のひらが半分ほど埋まったところで止まった。
「出てこい、懲らしめてやる」
アーシェが力を込めた。何の冗談か、大地にいくつもの地割れが発生し、辺りに侵食していく。しかし、それはあくまで土崩土竜を地上に出すためのものでとても計算されて起こされていた。実際、被害は無いに等しい。
見つけた場所にひときわでかい地割れが生まれた、そこから空中に飛翔するように飛び出できたひときわ大きい四体の土崩土竜。
「『――』、『――』。『――』」
短い単語を三回呟いたかと思うと、土でできた鋭い杭が空中にいる土崩土竜の真下にいくつも生まれる。
落下するしかない魔獣はなすすべなく、杭に全身を貫かれて絶命した。
「ふう、これでいいだろう。念のために辺りにいないか調べておくよ」
「なら、ちょっと村の人に言ってくるわ、終わったって」
「それがいい。早く村の人々を安心させてやるといい」
「――すっかり朝よねぇ……」
朝日が帰り道の森の中を照らし、バガラン活火山の山肌を染め上げる。
「ひゅううちゅよね〜」と欠伸をしながら呟く私。眠い、眠いですとても。
「アーシェ、今日泊まってもいい? 寝させて」
「おや、珍しいねフェルト、憂鬱、ものぐさで知られる君が他人の家に泊まろうなどと……今日は火山が噴火するかもしれんな」
縁起でもないこと言わないでよ、ねれなくなるでしょ。あー、眠い。
「くかー」
「ん? フェルト、立ったまま寝るとは凄いな……やれやれしょうがない」
限界を迎え、ついには寝てしまった私を見て、やれやれと呟いたアーシェは私をおんぶして家まで歩き、ベッドに寝かせてくれた。
「私も寝るとしよう。疲れた」
そう呟いたアーシェはベッドに倒れこみ、すぐに寝息を立て始めた。アーシェもそうとうに眠かったのだろう。
……数時間後、起きた私の目に入ってきたのは、ドアップのアーシェの寝顔と、ガッチリとホールドされ、抱き枕と化している私の体だった。
「……うそぉ。ちょっ、ちょっと」
剥がそうとしたがいくらやっても剥がれなかった。
…………はぁ、憂鬱だわ。
結局、私はアーシェが起きるまで抱き枕にされ続けた。
次回で最後……かもしれないです。