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2 .『津波の魔女』



 皆さんこんにちは、(わたくし)、憂鬱の魔女です。


 それはある曇りの日に起こりました。


 いつもよりも暑さがない分ルンルン気分で歩いていると、海辺の方から凄い光景が見れました。


 天と海が繋がっています。わ〜すげぇー……などと思ったのも束の間、それは私の方に突撃してきました。ちょっ!?


 私の権能で霧散したけど、してなかったら死んでるからね!? やったやつ、出てこいコラァ! てか冷たっ!? 霧散した側から雨みたいに降り注いでくるからずぶ濡れに!


 「……忌々しいわね」


 荒々しくなった海からぬるりと一人の女性が出てきた。

 濃い蒼色のドレス(しかし、海中にいたはずなのに濡れていない)、色素が抜けたような緑色の髪の毛、その顔立ちは悪くないのだが、しかめっ面なため、ずいぶんと人相が悪く見えてしまう。普通にしてるか笑っていれば十分すぎるほど美人だというのに。


 まぁ、私には及ばんがね、へっ!


 「憂鬱だわ……クリィレル、雨を降らすのをやめてくれる?」


 びしょ濡れになってしまったのはこの際しょうがないとして、海の上に立っている【津波の魔女】クリィレル・エンレースに近付いてそうお願いする。


 「笑わせないでよ【憂鬱の魔女】カーディナル・クロイツフェルト貴女が私にしたことを忘れたわけじゃないでしょうね?」


 私のことを睨みながら言ってくるのだが……はて、身に覚えがない。私がやられてそれを逃げている記憶しかない。


 「無いわ。むしろ何をしたのか教えて欲しいわ」


 ピキッと青筋が経っているのが見えたよ。そうとうにキレてらっしゃる。


 「へぇ…………よっぽど水死体になりたいみたいね」


 ゴゴゴゴゴゴッ、と音を立てながら海面が蛇のように巻き上がる。


 あ、やっべぇっ墓穴掘った。


 「あ、ちょっと待ちなさい。謝る、謝るから――」


 「――――オラァッ!!」


 女性が上げてはいけなそうなかけ声のもと、海は一斉に動き出し、こちらに向かってきた。


 「――ちょっとぉっ、これは無いんじゃないのぉっ!?」


 さすがの私も海の物量は権能では消せない。そのまま飲み込まれるのがオチだ。なので全力をで走って逃げる。


 「うひゃぁぁぁぁぁあっ、こわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 考えても見て欲しい、後ろから海そのものに追われる様を、トラウマものである。


 「――逃がすかぁ!」


 「あっ――」


 水中から現れたクリィレルは私のことをガッシリ掴むと水中に引きずり込んだ。

 そして強制水責めである。


 波の本流が過ぎ去った後、私は地面にぐったりと倒れ伏していた。


 「どう? 私の気持ちが少しでもわかったかしら?」


 私の前に仁王立ちで立っているクリィレル。


 「…………そもそも、わたしが、一体何をしたと………………」


 それを教えてくれなきゃ始まらない。ぐったりしている中、体力を振り絞りながらクリィレルに聞く。


 「ふん、しらばっくれて。貴女、私の(いえ)を枯らしたでしょう! おかげで今は場所を転々としてるのよ」


 それを聞いて私の知っていることを正直に告げた。


 「…………それをやったのは、ラルよ。枯らしたら何があるのかって面白半分にやっていたわ」


 「な、なら私が育てていた花が不気味な植物に変身していたのは貴女でしょう!?」


 「……あ、それは私だわ。素直に申し訳有りません」


 なーんか、私の雰囲気にあてられた植物はヤバイ感じに進化するんだよなぁ……


 「それ見なさい! あとメイビスをけしかけたのは貴女でしょう! あの現場にいたのですから! あの時、私のオドの三分の一が固定化されて以来、上手く力が出ませんのよ!」


 メイビス・ベイストフォード――【守護の魔女】である。

 彼女の能力をひとつ、身体に循環するオドを固定化させることによって体循環を阻害させ、魔法力を半減させることである。


 「……あれ私もとばっちり受けたのよ? 貴女が私のことを追い回すのに力を使いすぎるからって私まで権能の固定化されたのよ?」


 ま、すぐに解除してもらったけどね。てかまだ固定化されてたのね。でも固定化されててその威力はやっぱり格が違うわ〜。


 「えっ……」


 知らされた衝撃の事実に驚きを露わにするクリィレル。先ほどとはうって変わり、肩を小刻みに震わせていた。

 

 

 「嘘、でしょ?」


 残念ながら本当よ、クリィレル。


 「だから、私はあんまり関わってないみ――」


 「うっさいバカー!」


 顔を真っ赤にしてこちらに逆ギレしてきた。

 そのままなにもせず踵を返して帰ってくれれば良かったのだが、盛大な置き土産をくれた。去り際、手のひらから溢れ出した水をこちらに向かって投げつけてきた。

 それほど威力があったわけではないが、今の私にはキツかった。またも全身に水を浴びる。それはもう皮膚呼吸をしているなら溺れている量の水を浴びている、私の体力はもうない。


 「あ〜……憂鬱よもう………………」


 その場に倒れ伏しながら、私はかすれた声で呟いた。


 

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