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1.火烈の魔女とゆううつ

 どうも風見鶏少尉です。お久しぶりの方は久し振りです。


 今回は前作と違い、ほのぼのしたのを書きました。



 ――――どうも皆さん。(わたくし)、世界から憂鬱の魔女って呼ばれてる女です。


 「――待ちやがれ憂鬱のババァ! 逃げんなァ!」


 今、絶賛逃亡中です。そのお相手は炎のような赤いドレスに身を包み、燃えるように赤い髪の毛からは火の粉が出ている。顔立ちは美しいとか可愛いとかというよりはイケメンといったほうがいいほどカッコいい。正直、あの権能といい、サバサバした性格といい男と言われても納得できるあの【火烈の魔女】に追われています……あぁ、怖い。


 私は戦うのが苦手だ。私自身が力がないからというのもそうだが、その行為自体が嫌いなのだ。傷付けば痛いし、何より【憂鬱】な気分になる。


 「――だ、誰がババァよ、それならあなただってババァじゃないラル!」


 私は今年で千五百歳。ラル――アリーサ・ラルフォードは今年で九百歳……まぁ、私の方が年上なんですけれどね、女性にババァはないと思うんだ。あっちも女性だけど。


 「あ、てめっ……それ言ったらもう戦争だろうが!」


 「――イヤァッ、やめてっ! 燃えちゃうから! 黒焦げになるから!」


 「なんねぇだろうがよお前は! ちょこちょこ避けやがって! 一体どうやってんだ!」


 当たったと思った火炎弾も炎の槍の攻撃も、即死級の炎の津波も、なぜか当たらずに私を貫通していく。


 ――ふふん。これが私の唯一の力。逃げ足だ!


 あ、やべっ言ってて憂鬱になってきた……。


 私の逃げ足は二種類ある。


 一つは、純粋な速さ。攻撃が当たる前に動き、残像を残すほどに速く回避行動を取っているため、人目には当たっているように見えるらしい。

 二つ目は、力の霧散、モノによるが私に当たる前にその力の源たるオドが形を形成できずに霧散してしまうようだった。

 私はこの力を憂鬱の権能と呼んでいる。

 ただ、デメリットの方が大きい。


 何故なら、その攻撃に晒されなきゃならず、動いてはダメだからだ。


 めっちゃ怖い、めっちゃ精神をすり減らすからあまり使いたくない。


 「教えるもんか! 私は逃げるぜ! あばよラル!!」


 「あ、てめ――」


 全力を使い、その場から逃げ出す。

 ふーはっははははっ! さすがに追っては来れまい!

 …………つ、疲れた、家に帰ろう。


 またも魔女に戦いをふっかけられた憂鬱さを払拭するべく、家に歩いて帰って行った。


 「――よォ、待ってたぜ」


 ………………え? 嘘でしょう?


 念のため、目を擦って幻であることを願い、頬っぺたをつねって夢であることを願う。


 ――くそう、現実だ。


 まいたと思っていたアリーサ・ラルフォードがいた。家の中に。


 がっくりと腰から砕け、四つん這いになり体全体で意気消沈を表す。


 「…………何で私の家の中にいるのよ、憂鬱だわ――ってしかもそれ私のカップ!? そして私の紅茶!? 何飲んでんのよ!」


 ラルの方を見て気付いた。ばっちり私のカップを使っていたし、私が楽しみにしていた紅茶を飲まれていた。


 「ん? あぁ、だってお前これしかねぇじゃん。家に人が遊びに来るかもしれないのにひとつだけはねぇって。だからだから使った許せ」


 「――…………うふふふ、あはは」


 これは憂鬱だわー。だけど流石に切れねばならないわ、私の飲みたかった紅茶のために。


 ゆらりと立ち上がり、ラルに向けて権能を使おうと手を伸ばす。


 「――まぁ、だからこれで許せ」


 ポイ、と投げ出された物をラルに向けていた手で慌てて掴む。


 「これは……」


 それは私が憂鬱な時に飲むことにしていたちょっとお高い紅茶よりもワンランク上の紅茶缶だった。

 そしてテーブルの上には私のとは違う目新しいカップが置かれていた。


 「前に【森奥】の奴と【守護】の奴から渡されてたもんを届けに行ったのにお前が逃げるからだぜ? わざわざ渡しに行ったのにお前が逃げるから家にお邪魔したんだ」


 あ〜…………つまりなんだ、私が原因だったのか。あっはっはっはっはっ! ――憂鬱だ。


 「……まぁ、でも」


 それはそれで。


 「……ありがとう」


 嬉しかったりする。


 「おう」


 照れくさいのか、私から顔をそらしていうその横顔は完全に男性にしか見えない。


 「そ、それならしょうがないわね。せっかくもらったものだもの使わないわけにはいかないわね」


 現金なやつとか思ったやつ! 実際そうかもしれないから何も言い返せないわ……。




 「おう、ならさっさと淹れてくれ〜」


 「…………はぁ、いつもこんなにだらけていて私に突っかかってこなければ最高なのに。憂鬱だわ」


 「なにを言うか。半分くらいはお前のせいでもあるんだからな」


 「ラ、ラルがいつも追いかけてくるのが悪いんじゃないか!」


 「あ、おかわり」


 「はやっ!? もっと味って飲みなさいよ!」



 私の家で、私とアリーサ・ラルフォードとふたり。

 そんな珍しく、楽しいひと時は今日一日続いた。


 


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