表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ほしいもの

作者: 能里

「いま欲しいものはなんだ」

 前の席を陣取られ、椅子の背を抱く…というより越える勢いでずいっと迫って来る幼馴染に、伊野瀬はのり塩味ポテトチップスをポリポリと食べながら、うーん、と上を見て考えた。

 上に気になるものがあるわけではなく、幼馴染の迫力から逃げるため…なら良かったのだが、実際は上に気になるものもある。

「眼鏡…?」

 昼休みで騒がしい教室の天井付近をふわふわ浮いてるいわゆるお化けというものとばっちり目の合った伊野瀬は、お化けが見えなくなるらしいと聞いたことがあるアイテムを言ってみた。

「そんなものでいいのか? ならすぐに買いに行こう!」

 本気で今すぐ出ていく勢いで腕をひっぱられ、おいおいと背中に手刀を入れた。

「冗談だよ。なんなんだ急に」

 猪突猛進が良く似合う幼馴染の気性は知り尽くしているので、取りあえず天井のお化けからは目を逸らす。

 目を逸らした途端、襲われるというわけでもない。

 彼か彼女か知らないものすごい美人はいつもふわふわ漂っていて、一日一度は目を合わせる仲である。

「頼む!」

 幼馴染はすごい勢いで両手を合わせ頭を下げた。

「生徒会長がいなくなった。放課後、探すのを手伝ってくれッ」

 気軽なノリで人気のある帰国子女の生徒会長は、ものすごいめんどくさがりやでよくこうして脱走していた。連れの副会長まで連れて行くので、生徒会の機能がほぼ停止する。

 そのしわ寄せをくって、執行部を纏めている庶務その一の幼馴染は、生徒会の機能停止を防ぐ為、脱走した生徒会長を探す為、こうして伊野瀬に『お願い』に来るのだ。

 伊野瀬の『眼』が『特別製』だから。

 お化けに限らず失せ物探し人なんでも来いの『霊視』や『千里眼』を混ぜたような眼を、伊野瀬は持っていた。

 だが、伊野瀬がぼんやりしているせいか、結構みんな気づかない。ただちょっと、勘のいいヤツだと思われている。

 伊野瀬と幼馴染である柳生とのこのやりとりもお馴染みのものなので、多少会話がおかしかろうと騒がしい教室で生徒の気も惹かない。

 便利だよな。

 しみじみと柳生をみる。

 伊野瀬がぼんやりな以上に、周りが騒ぐ前にこの幼馴染が騒ぐから、『特別』が『ちょっと勘がいい』程度に思われるのかもしれない。

 わずらわしいのが嫌いな伊野瀬にとっては手放しがたいお守りだった。

「えっちさせてくれるなら、」

「それは無理だ!」

 いいよ、と言う前に断られた。

 いつも言うからもう冗談だと思われているのかもしれないが、結構本気だ。

 恋人にでもなれば、この便利なお守りは伊野瀬のものだ。

 小さい頃から一緒だから、ほぼ伊野瀬のものなのだが、高校生にもなると彼女が出来たり生徒会に振り回されたりと、なかなか伊野瀬ばかりのものにはなりにくい現状、いい手だと思うのだが、柳生には譲れない一線というのがかなり強固にある。

 正直にお守りになって欲しいと頼めば気のいい幼馴染のこと、彼女より生徒会より優先してくれそうな気もするのだが、下手に出るようでそれはちょっとしゃくだ。

「じゃぁ、キス一回」

「却下!」

「ちぇー。じゃぁ明日の昼飯奢れよ」

「懐が痛むが仕方ない。それで手を打とう」

 元剣道部期待のエースは生真面目に頷いた。

 仕方ないのは俺の方だっての。

 軽いため息を吐いて伊野瀬は立ち上がった。

「もう見つかったのか!?」

「んな訳ねーだろ。便所」

 嘘だ。話の間に生徒会長のことは見つけていた。この『眼』は集中しなくても記憶を思い出すように目的の映像を脳裏に浮かび上がらせる。

 あの様子なら放課後までには戻ってきそうなのだが、そんな事は言わない。

 放課後になってから適当に探すふりをすれば昼飯代が浮くわけだし。

「戻って来なくてもいいのに」

 教室を出てだらだら歩きながら小さく呟いた。

 そうすれば放課後の僅かな時間だけとはいえ、お守りゲットだ。

「つーか戻ってくんな」

 幼馴染があれほど好きだった剣道部を辞め、生徒会に入る元凶になった大嫌いな男を『視』ながら毒づく。

 実に残念なことに、『邪視』の効能はないので『視』ただけで呪ったりは出来ないのだが。

 問題の生徒会長は、実に楽しそうに副会長とホラー映画を見ていた。

 本気で怖がっている副会長の手をどさくさ紛れに握っている。

「だりー」

 お化けを見てもなんともないのに、生徒会長のように生気の有り余っている人間を見ると疲れる。

 伊野瀬はポテトチップスの油で滑った指を舐め、本気で落ち込んだ。

 見ただけでこれだ。勝負にもなっていない。

 幼馴染があれだけ好きだった剣道をやめたのは、この生徒会長に誘われたからだが、一番の理由はあいつに一目ぼれしたからだ。好きな人のそばにいたくて剣道をやめた。

 健気というより馬鹿。大馬鹿。

 この幼馴染に勝つ為に剣道を頑張っていた伊野瀬はおいてけぼりにされたような寂しさを感じた。

 その寂しさが、ちょっと強い執着かもしれないと思い出したのは幼馴染が生徒会長に振り回されるのを見るようになってから。

 好きとは違う。違うと思いたい。でも強い執着。

 恋敵として生徒会長は超強敵。

 お守りを手に入れる日は遠そうで、伊野瀬は行き場のない熱を逃がすようにため息を吐き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ