表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夏休みの橙

作者: 中野桜木
掲載日:2015/02/06

カブトムシを盗まれたので早速アマゾンで拳銃を購入した。犯人の見当は大体ついている。どうせ幼馴染みの秋ちゃんの仕業なのだ、こんなことをするのはあの子しかいない。この前は扇風機の羽根を1枚ポキッと折られたのだ。今回こそは息の根を止めねば気が済まないというものだ。秋ちゃんはたった一人の親友だが、まあ仕方がない。そうと決まれば早速決行だ。

夏休みの長期休業中なので学校はない、ということで秋ちゃんの家まで出向いて灯油を撒いて放火した。玄関から逃げてきたところを拳銃で一発、という作戦だ。家は元気良く燃えているのでもうじきひょいと出てくるところだろう。その時、玄関の扉がガラッと開いて、人影が見えたので発砲した。弾は見事に心臓のあたりへ命中したみたいだ。やったぞ、と心の中でガッツポーズをした。顔をよくみたいと思って近付いたところ、秋ちゃんの母親だった。チッ、外したか、と舌打ちをした。お母さんには悪いが、これも娘のせいであるので仕方がない。玄関にまで炎が迫ってきたので死骸をそのままにして家の外に出た。もう家は大半燃えているが、秋ちゃんはなかなか出てこない。昼寝でもしていて、焼死したのだろうか。まあ、それでもいい。燃え盛る家は綺麗だ、太陽がもう一つできたみたいで面白いので、もう少しの間眺めていることにした。暫くすると、

「きゃー、私の家が燃えている」

などと叫び声が聞こえた。間違いない、この声は我が親友、秋ちゃんの声だ。振り返って発砲したが僅かに横に逸れてしまった。

「え?森ちゃん?森ちゃんだよね?何やってるの?正気?」

何を驚いているのか実に不思議だ。 カブトムシを盗んだのは秋ちゃんなのに。

「秋ちゃん、私のカブトムシ盗んだでしょ、だから秋ちゃんを殺そうと思って家を燃やしたの。」

「カブトムシ?何のこと?私知らないわ!というか、カブトムシを盗まれたぐらいで?」

意味不明なことを叫び散らしている。ついに気が狂ったのだろうか。もう一発、弾を発射した。しかしまたしても避けられてしまった。秋ちゃんは走り出した。逃げる気だ。逃がすわけにはいかない。今日という今日は必ず仕留めなければ。大事に育てたカブトムシのためにも。

「森ちゃん、待って、話を聞いて、それに私はカブトムシなんか」

走りながら叫んでいる。その間も何発か発砲したが、走りながらのため上手く当たらない。秋ちゃんも必死に走るので、追い付くことができない。

「私のカブトムシ、どこにやった、返せ」

「だから、知らないって、私は何もしてないよ」

秋ちゃんは息を切らしながら、叫ぶ、走る。私も息を切らしながら、叫ぶ、走る、発砲する。

「ねえ、森ちゃんおかしいよ、どうかしてるよ、いつもの森ちゃんじゃないよ、一体どうしちゃったの」

秋ちゃんは泣いているようだ。どうして泣いているのだ、自分が悪いというのに。今日は絶対に許さないと決めたのだ。


しばらく、走った。走るペースも落ちてきた。水平線へ、太陽が落ちようとしていた。水面は橙色に染まっている。私達は走っている。住宅地を抜け、海沿いへ。砂浜までやって来た。随分と走ったようだ。

バン、バン、バン、と銃声が響く。

「森ちゃん、森ちゃん、いつもの森ちゃんに戻ってよ」

秋ちゃんは泣いている。何故泣いているのかは、わからない。ただ泣き、叫び、私から逃げるのだ。私は今度こそ、よく狙いを定め、秋ちゃんに向け、発砲した。弾は秋ちゃんの足に当たった。秋ちゃんの体勢が崩れた。砂浜の上に、倒れた。砂に血が、染みた。秋ちゃんは顔をこちらに向けた。怯えていた、涙でくしゃくしゃになっている。

「愛するカブトムシのかたき!」

私は飛び掛った。秋ちゃんの腹を、胸を、腕を、顔を殴った。秋ちゃんはまだ泣いている。秋ちゃんは私の服を握って、抱き着いてきた。それを振り払おうと暴れた。砂まみれになった。しばらくそんな戦いをした。やっとのことで秋ちゃんの手を振りほどいて、私は立ち上がる。落ちていた拳銃を拾い、秋ちゃんへ、銃口を向ける。

「森ちゃ」

バン、と銃声は言葉を遮る。弾は見事に秋ちゃんの心臓を貫通したみたいだ。秋ちゃんはそれっきり動かなくなった。喋らなくなった。泣き声もあげなくなった。血を流していた。砂浜が染まっていく。秋ちゃんの顔を見る、悲しい顔をしている。まだ泣いているようだ。何故だろう、今もわからない。悪いのは秋ちゃんなのに。カブトムシを盗んだのは秋ちゃんなのに、当然のことだ。秋ちゃんはカブトムシを盗んだ。だから私は秋ちゃんを殺した。それだけだ。秋ちゃんが泣いているのが、不思議だ。秋ちゃんは、私と一緒に走っている時、いつも楽しそうにしてたのに。


私も眠くなってきた。それもそうだ、あんなに走ったのだから、秋ちゃんがあんなに逃げるから、もう疲れ果ててしまった。秋ちゃんの死骸の横に座った。太陽はもう半分くらい水平線に飲み込まれてしまっていた。今度は、海も、空も、砂浜も、私たちまで橙色に染まっている。眠い、ふと、目を閉じる。思い出す。秋ちゃんとの思い出。楽しい時はいつも隣に秋ちゃんがいた。私が落ち込んでいる時もずっと隣にいてくれた。秋ちゃんとは。小さい頃からずっと一緒だった。どんな時も一緒だった。小学生の時も、中学生の時も、しかし、高校に入ると、秋ちゃんは私から離れていった。でも今、こうしてまた一緒になれた。

砂浜を走る、夕陽に照らされる、私たち、なるほど、これが青春か。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ